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第57話:雷神公の事を知っている人

少年の口から出てきた『雷神公』の名前。

探して欲しいと言われてもどうすれば良いんだろう。

そもそもこの少年と雷神公の関係は?


「あ、そう言えばあなたの名前は何て言うのかな」

「オンブラです」

「じゃあオンブラ君。雷神公にはどうして会いたいの?」

「お父様からの指示なんです。チェーロブル王国に行き雷神公に会いなさいって。

会った後、どうすれば良いのかは聞いていません。会えばきっと分かるだろうとだけ言っていました」

「そう」


彼の言葉に嘘は無さそうだ。

一つ分かるのは話し方からしてそうじゃないかって思ってたけど『お父様』なんていう辺り、やっぱり良いとこの子供っぽい。貴族なのだろうか。

でも貴族だとして子供一人だけで送り出すだろうか。


「オンブラ君と一緒に来た人たちは居ないの?」

「居ました。けど、国境を越える辺りで何者かの襲撃を受けてしまい散り散りになってしまいました。

出来れば彼らの安否も確認して欲しいですけど、あの状況では」


きっとオンブラを逃がすために囮になったんだね。

帝国からの追手に襲われたのだとしたら生存はかなり絶望的だろう。

ただそうまでして送り出してくれたのに肝心の雷神公に会う事は叶わない。


「落ち着いて聞いて欲しいのだけど、残念ながら雷神公に会わせてあげることは出来ないの」

「え、なぜですか?」

「雷神公は10年前の災厄の時に亡くなっているの。

強大な魔物と戦って、そのまま力尽きて海中に没したそうよ。

だから空っぽの慰霊碑があるだけなの」

「そんな!じゃあ僕は何のためにここまで来たんですか」


がっくりと項垂れてしまった。

それもそうか。命の危険を冒して、身近な人達を犠牲にしてここまで来たのに目的は何も達成できないのだから。

私としても彼にしてあげられることは何もない。

せめて雷神公に会ってどうしたいのかが分かれば何とかなったかもしれないけど、手紙のひとつも預かっていないみたいだしお手上げだ。

こんな時ジンさんならどうしただろう。やっぱりお手上げかな?それとも……


「そうだ。ねぇ。今から一緒に冒険者ギルドに行ってみない?」

「冒険者ギルドに?」

「そうよ。そこなら10年以上前から冒険者をやっている人も居るし雷神公の話も聞けるかもしれないわ」

「あっ。はい、行ってみたいです」


ぱあっと明るい表情を浮かべたオンブラ君を見て胸を撫でおろす。

まだ何も解決した訳じゃないけどもしかしたら解決の糸口くらいは見つかるかもしれない。

私はオンブラ君が自分の足で問題なく歩けるのを確認してから冒険者ギルドへと向かった。

ギルドではいつも通り年配の冒険者の方が何人かのんびりしていたので早速話しかけてみた。


「こんにちは。今ちょっと良いですか?」

「おう、どうしたリーンちゃん。確か配達に行ってたんじゃなかったか?」

「ええ。それはもう終わりました」

「一昨日出て行ったってのに相変わらず速いこった。

んで、後ろに居るボウズはどうしたんだ?まさかリーンちゃんの子供って訳じゃないよな」

「当たり前です。一体何歳に見えるんですか」

「はははっ。すまねえな」


オンブラ君はぱっと見、6~8歳くらいだ。多分10歳にはなってないんじゃないかな。

それで私の子供だったら私は7歳くらいで産んだことになる。どう考えてもおかしい。


「んで、なにか聞きたい事でもあったのかい?」

「あ、そうでした。

彼は雷神公を尋ねてこの街に来たそうなんです。

でも当然雷神公には会えないわけで、なら代わりに雷神公の事を知っている人に話を聞きに行こうってなったんです」

「それでここに来たのか。まあその発想は悪くないな」

「良かった。なら」

「あーだけどな。雷神公の話を聞きたいのなら『蒼天』のメンバーに会いに行くべきだな」


『蒼天』というのは雷神公が所属していたクランの名前だ。

あの災厄の後に発足した『蒼天の守護者』の名前もそこから来ている。

なので『蒼天』の人達の方がより雷神公のことをよく知っているって事だ。

なるほど、理にかなっている。


「分かりました。えっと、オンブラ君もそれでいい?」

「はい、大丈夫です」


後ろを振り返ってオンブラ君に確認を取ると二つ返事で頷かれた。

よかった。

これまで修行ばかりでそれどころじゃなかったけど、私もあの災厄で孤児になって『蒼天の守護者』に支援してもらった一人だ。

いつかは『蒼天の守護者』にお礼を言いに行きたいと思っていたので丁度良い機会だろう。

それに帝国の追手が私達を探しているとしたらいつもの場所から離れた方が見つかりにくいかもしれない。

ただその前にもう一つ気になっていることを確認しよう。


「あの、帝国とオーリア王国との戦争ってどうなってるか知ってますか?」

「ああ。一時は王都近くまで攻められて王国がピンチだったらしいが、現在は戦線を押し返して5分の睨み合いを続けているらしい」

「そうなんですか。凄いですね」

「ほっ」


前に聞いた話だと帝国はオーリア王国よりも何倍も国力が上だったはず。

それなのに善戦どころか拮抗しているのは凄い。

オンブラ君も(おそらく)祖国の無事が知れて一安心って感じだ。


「なんでも王国側が秘密兵器を投入したらしいな」

「秘密兵器……それってもしかして、魔人、ですか?」

「おっ、なんだ耳が早いな。そうそう。魔石の力を吸収して人間自身を強化してるらしいな。

魔石を道具に活用した帝国に対して、人に活用したってんだから凄いというべきか安全なのか不安になるような、もしかしたら帝国もその技術を狙って攻め込んだのかもな」


チラリとオンブラ君の様子を窺うも特に反応はない。

彼自身は特に気にしてはいないという事なのかな。

ともかくこれで後顧の憂いはひとつ減った。

師匠の事はラフィカさんにお願いすれば大丈夫だろうし、安心して『蒼天』の人たちに会いに行ける。


「ってそうだ。『蒼天』の人達ってどこに居るんですか?」

「5年前まではこの港湾都市にも支部があって西の警戒と復興支援をしてたけど、もう大丈夫だろうって引き上げちまったからな。

本来の拠点の『風の溜まり場』になら誰か居るんじゃねえか?

まあ元々飛行可能な種族が多いクランだ。今もきっとメンバーは世界中を飛び回ってるだろうからどこでも1人か2人くらいは見つかりそうだけどな」

「なるほど。ありがとうございます」


『風の溜まり場』かぁ。

確か王国の南東側にある観光名所だったかな。

飛行系の種族の人たちが多く住んでいる場所ですごく景色が良いのだとか。

それは今から行くのが楽しみだね。



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