第53話:大変なんですね
町に入るといつもよりずっと物々しい雰囲気が漂っていた。
警備隊が巡回してるし、いつもなら日中駆け回ってる子供達の姿もない。
もしかしたら事件だろうかとギルドへ急ぐ私は、しかし見覚えのない警備隊の人に呼び止められた。
「そこの君、ちょっと待ちなさい」
「え、私ですか?」
「そうだ。肩が血で汚れてるように見えるがそれはなんだ」
言われて右肩を見ればなるほど。
さっきの盗賊の返り血かな。頭領の鼻血が結構盛大に流れてたし。
あ、盗賊たちは町に入るところで衛兵に引き渡してきた。
そこでは顔馴染みの衛兵さんだったから挨拶だけで終わったんだけど。
さて、ここは正直に答えるべき?
まぁ私に後ろめたいところはないし大丈夫でしょう。
「ここに来る途中に盗賊に襲われまして、返り討ちにしたのですがその時に付いたんだと思います」
「君のような少女が盗賊を返り討ち?
念のため調書を録らせてもらって良いか。
最近は外から来た者も多く、比例してトラブルも増えてるのでな。
君のような余所者は何かとトラブルの種だ」
「はぁ」
まぁ調書くらいは良いかな。
多少時間が無駄になってしまうし今日中に王都に着けなくなるかもだけど別に今回は急ぎって程ではない。
そう思って着いていこうとしたところで横から声が掛かった。
「ちょいとお待ち。
その子の身元ならあたしが保証するよ」
声の方をみれば青果店のおばさんがこっちを見て立っていた。
あの人のお店のリンゴは蜜が多くて美味しいからついつい寄っちゃうんだよね。
「おばさん」
「やあリーン。今日もうちに来てくれるだろう?」
「はい、いつも美味しいリンゴをありがとうございます」
「ああ。今朝も良いのが入荷したからぜひ寄っておくれ。
さ、それよりこの子は前から定期的に来てる子だから何も心配はいらないよ」
「……分かった。だが最近は物騒になっているのも確かだ。重々注意してほしい」
警備隊の人は渋々引き下がっていった。
それを見たおばさんは腰に手を当てて息を吐いていた。
「おばさん、庇って頂いてありがとうございます」
「なぁに、お互い様さ。
あんたには何度も手伝ってもらったこともあるしね」
「それにしても町の雰囲気が前と変わりましたね」
「ああ。北で戦争が始まった影響でね。こっちに流れてくる人間が多いのさ。
他国からも自国からもね」
「自国からも?」
さっきの盗賊のように戦争に参加したくない人や避難してきた人が居るのは分かる。
でも別段うちの国が戦争状態な訳ではないから今までの生活を捨ててこっちに来る理由は無いと思うんだけど。
「あ、傭兵の方々が戦争に参加するためにって事ですか?」
「それもあるけど、武器商人なんかも戦争特需だとか言ってやって来るし、そうすると治安が悪くなるだろうって警備隊に入ろうっていう食いっぱぐれもいる」
「なるほど。大変なんですね」
戦争っていうのはそれ程までに広範囲に影響を与えるんだ。
てっきり戦争して喜ぶのなんて為政者だけなのかと思ってたけどそうでもないんだね。
おばさんのお店でリンゴを幾つか買ってから冒険者ギルドに顔を出すと大勢の人で賑わっていた。
「誰か東のペリカ町までの商隊の護衛依頼に一緒に行く奴はいないか!?」
「こっちは国境付近のズビート砦までよ!
危険度が高い分、報酬も高いわよ!」
「また盗賊の出没報告が来たぞ。
Dランク以上の冒険者パーティーは居ないか!?」
凄い活気。
いつもなら魔物の討伐依頼が数件あるくらいなのに、やっぱり戦争の影響なんだろうな。
ま、私には関係無いけど。
それでも一応受付に挨拶くらいはしておこうかな。
「こんにちは」
「あ、リーンさん。
見ての通り依頼は余る程ありますよ」
掲示板を見れば確かに常設ではない依頼がまだまだ残っている。
冒険者が多いっていうのはそれだけ依頼があるって事だから当然ではあるのだけど。
「すみません。いつも通り王都に行く途中なので。
何か警戒しておくべき情報はありますか?」
「そうですね。
既にご存じかとは思いますが野盗が増えていますのでお気を付けください。
それと同時に魔物も数が増えています。全く誰が餌を与えているのかって話ですが」
「あ、はは」
この場合の餌って野盗を始めとした町の外で魔物に襲われて死んだ人達を指してるんだと思う。
戦場での死体も誰も埋葬なんてしないだろうから魔物の温床だ。
酷いときには戦争している両国ともに増えた魔物に滅ぼされた、なんて事件も過去にあったって聞いたことがある。
まあ当時は今よりももっと魔物が強かったみたいだけどね。
「あ、それと」
「はい」
「最近は死神の目撃情報がありません。別の地域に移動したのか休眠期間に入ったものと思われます」
死神っていうのは確か人知れず盗賊や犯罪者を殺していく存在の事だ。
その死体の状態から鋭い刃物を持った人間かそれに近いものだろうと言われているけど、誰も姿を見た人は居ないらしい。
「って、死神って休眠するんですか?」
「実際に寝ているのかは不明ですが最初に存在が確認されて以来、不定期にですが3カ月から長い時で1年近く私達の前から姿を消すことがあります。
もっとも、今の状態で死神に活動されると方々に死体の山が出来上がって大変なことになりそうなので良かったのかもしれません」
「ですね」
増えた盗賊たちを片っ端から討伐して回っていたんじゃ大変だろう。
死神が複数人いれば……ってそれじゃあこの国が死神だらけになってしまいそうだ。
それはそれで問題があるし、盗賊くらいは私達冒険者や警備隊で対処すれば十分だよね。




