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第5話:命令は絶対だそうです

『お前は雷神公のようには成れない』


その言葉は、たった1時間程しか一緒に居ないとはいえ、少しだけ良い人かもと思い始めたところだったから余計に私の胸に突き刺さった。

あのギルドに居たおじさん達と違って彼はちゃんと私を見た上でそう言っているのだから。


「あの……」

「ん?」

「それでも諦めたくはありません」


そうだ。

それで諦められる程度なら受付のおじさんの言う通り他の仕事に就いた方が良い。

私がこの10年受けた恩はそんな軽いものではない。


「あの、先程普通では無理だと言いましたよね?」

「ああ、言ったな」

「なら普通じゃない方法なら可能性はあるということですか?」

「そうだな。

死にかける程努力して、死にそうな目に何十回と遭って、周りから騙されてるだけだとか諦めた方が幸せになれるとか言われ続け、もう無理だと10回くらいは逃げ出したその先に、運が良ければ成れる。その程度だ。

それでもやるか?」

「はい!」


脅すように言ったジンさんに対し、間髪入れずに返事をする。

だって雷神公が居なければ失くなっていた命なのだ。

それなのにちょっと大変そうだからと諦める訳には行かない。

ジンさんは私の返事を聞いてじっと考え込んだ。


「……これから言うことを死んでも守ってもらう」

「それって、教えてくれるってことですか?」

「どうせ断っても諦めないだろ?」

「はい!」

「……はぁ」


元気よく返事をしたらため息をつかれてしまった。

それでも私の事を捨てないジンさんは相当なお人よしなのだと思う。

だからだろう。次の問いかけにも二つ返事で頷く事が出来た。


「俺に教えを乞うなら、今後俺の命令は絶対だ。いいな?」

「はい!」

「……分かってるのか?

こんなおっさんが若い娘に命令することなんて服を脱げとか犯らせろとか、お前じゃ想像もできないくらい酷い事だぞ」

「ジンさんはそんな酷い事は言わないと信じてます」

「まったく。これが若さって奴か。まあいい。

いいか。何があっても俺より先に死ぬな」


どんな酷いことを言われるのかとドキドキしていたら、結局ジンさんは私の事を気遣った優しい言葉をくれた。


「やっぱりジンさんは酷い事を言わないじゃないですか」

「分かってないな。何があっても(・・・・・・)だ。

例を挙げれば、凶悪な魔物に襲われてどちらかが囮になってもうひとりを逃がす必要がある場合、お前は脇目も振らずに逃げろ。

他にも魔物の中には人間の女を犯しながら食い殺す魔物も居る。そいつに捕まったとしても俺が生きているならギリギリまで自決することは許さない。

他にもそうだな。

仮に再び暗黒龍のように魔物が攻めてきた時であっても雷神公のように魔物と心中することは許さないからな。

その先に絶望しかないとしても最後の一瞬まで諦めるな。いいな」


例と言いながらもジンさんの言葉には重みがあって、本当に起きるのかもしれないと思ってしまった。

もしかしたらジンさん自身が似たような場面に遭遇したことがあるのかもしれない。

それでも頷く私を見てジンさんは何度目かのため息をついた。


「まったく馬鹿な奴だ。

よし、では他にも色々と守ってもらう事があるから良く聞け。

今後俺が指示した事に対する返事は『はい』か『わかりました』だ。

『なぜ』とか『でも』とかそういう言葉を聞く気はない。まず動け。

俺が真冬の川に飛び込めと言ったら間髪入れずに飛び込め。動くなと言ったら指一本動かすな。

ただしこれは思考を停止させろと言ってる訳じゃない。

疑問があるなら後から尋ねろ。いいな?」

「はい」

「次に俺以外の教えを聞くことを禁止する。

どこぞの貴族だとか王様だとか武神だとか先生だとか。『俺は偉い。俺はお前が求めているものを与える事が出来る』そういう奴がやって来ても、笑顔でそれは凄いですねと言いつつ無視しろ。

あと、どうせ今後何度となく色んな奴から『そんなことできる訳が無い。目を覚ませ。お前は騙されている』と言われることになるだろう。もしくは『もっと効率的な方法がある。あいつは知らないだけなんだ』とかな。そんな言葉を聞く必要はない。

他にも『ジンからの伝言を受け取って来た』とか『ジンが重傷なんだ。今すぐ来てくれ』なんて言って騙そうとする奴も出てくるかもしれないし、俺に変装した奴が現れるかもしれないが、全て無視しろ」

「はい。あ、でも変装とかはどうやって見破れば良いのでしょうか」


世の中には他人に変身する魔法もあると聞いたことがある。

ジンさんならそう言うのも見破れるのかもしれないけど、私じゃ無理じゃないかな。


「ああ。なのでお前に魔道具を1つ渡す。これを腕に着けておけ」


そういって渡されたのは金属製の腕輪。

受け取って左腕に嵌めると一瞬光を帯びたように見えた。

でもそれだけで特に変化はない気がする。


「この腕輪は通称『パーティーの腕輪』と呼ばれている。

魔力を流すことで同じ魔力波長を登録した他の腕輪の位置が特定できる。

試しに流してみろ」

「はい。えっと、こうでしょうか。あいたっ」


腕輪に魔力を流してみたら静電気みたいにパチッとした。

でもそれと同時にすぐ近くに共鳴するものがあるのが分かる。

この反応は恐らくジンさんが身に付けている腕輪ってことなんだと思う。


「今のピリッとしたので登録は完了した。これで登録を抹消しないと他の人間は使えない」

「な、なるほど」


そこは先に一言教えて欲しかったなと思ったりもした。

ただ何というか、これでジンさんと繋がりを持てたと考えると、家族を失った身としてはちょっと嬉しいかもしれない。



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