第48話:あれ死なないかな
鬱蒼とした森を目の前にして、ふと周囲を確認すると見覚えのある馬車の一団が停まっていた。
その近くには護衛と思われる騎士が数人とメイドが立っている。
王子達の姿は無いことから彼らに馬車を任せて森の奥に向かったのだろう。
「こんにちは」
「む、我らになにか用か。
敵意が無いのであればあまり近付かないで頂きたい」
声を掛ければ騎士達は警戒もあらわにこちらを見てきた。
まぁ留守を預かる立場としては正しい対応かな。
私達は10メートルほど距離を空けて話すことにした。
っと、ジンさんが私の背中から降りて一歩前に出た。
「そちらは第3王子の馬車で間違いないか?
俺達は王室の指令を受けてここへやって来た」
言いながら何かの書状を取り出して相手に見せる。
この距離だと内容は分からないだろうけど、それでも印章は見て取れたようだ。
明らかに相手の警戒度が下がった。
「その印章は確かに陛下のもの。
して、どのような指令を受けたのかお聞きしても宜しいか?」
「詳細は伏せるが第3王子の着けている魔導具に暴走の危険性があるという情報を入手した。
俺達の任務は力が暴走した後に彼らの救出と、その後始末だ。
これから俺達も森に入って王子達の後を追う。
あなた達は今のままここで待機して、俺達が王子達を連れて戻ってきたら応急処置と港湾都市への搬送をお願いしたい」
「あい分かった。
しかし暴走する前に止めることは出来ないのか?
殿下にもしもがあっては困る」
「そうしたいのは山々なんだけどな。
いくら書状があっても俺の言葉に、はいそうですかと従う王子でもないだろう」
「それは……そうだが」
渋い顔をする騎士の人。
そもそもの話、王子なんだから危ない所は部下に任せて自分は後ろから指示を出してれば良かった気がするけど、それをしない人なんだから簡単にこちらの言うことを聞くとも思えない。
それにここに来る前の話だと『暴走させる事も依頼のうち』みたいだからどっちにしろ変わらない。
「では俺達は行くから。
そうだな。早ければ1時間後に森の奥でここからでも分かる大爆発が起きる。
その後更に1時間後に生存者を連れて戻って来ることになるだろう」
そう言いながら騎士達の横を抜けて森へと踏み込んだ。
って、ジンさん。今さらっと王子じゃなくて生存者って言い換えたよね。大丈夫なのかな。
ともかく森に入って10分もすればそこかしこに戦闘を行った跡が見られた。
ざっくりと首を切られて死んでいる狼がちらほら。
魔狼の森というだけあって出てくる魔物は狼系の魔獣のようだ。
ただそれにしても。
「私達には襲って来ないですね」
意識を集中すればそれほど離れて居ないところに魔獣が居るのが分かる。
ここは彼らのテリトリーなのだから当然彼らも私達に気が付いて居るはずなのに。
「それは俺達が森を荒らして居ないからだ。
俺達が歩いてる所をよく見てみろ」
「?」
よく見ろと言われても普通に森の中だ。
強いて言えば他より雑草が生えてなかったり邪魔な枝が少なかったりする程度。
あとさっきから真っ直ぐ進まずに多少蛇行しながら奥へ進んでいる。
答えが分からない私にラフィカさんが笑いながら言った。
「あれじゃない?
リーンは魔猿の森で慣れてるせいで地上を歩くのに慣れてないんじゃないかな」
「あ、言われてみれば」
あっちでは基本的に枝の上を飛び回っていた。
だからこうして深い森の中を歩いた経験は少ない。
薬草を採取してる場所は大抵森の密度が低めだし。
「じゃあ大ヒント。リーンは王都に向かうときに何処を走ってる?
まさか常に最短距離を真っ直ぐ走ってる訳じゃないよね」
「それはもちろん街道を……ってもしかして、ここ道なんですか?」
「そういうこと。所謂獣道って奴ね。
深い森を歩く時は獣道を歩くべし。それが最低限のルールってね。
もちろん道が出来る程だから大型の獣に出くわす可能性は高いけど、彼らだって無理して危険を冒したい訳じゃないから今みたいに道を譲ってくれるのさ」
「なるほど」
つまりそれを理解していなかった王子達は侵略者として積極的に襲われてたんだ。
そうして1時間足らずが過ぎた頃、急に森が開けて岩場に出た。
空はいつの間にか真っ黒な雲が覆っていて実に不吉だ。
「全員生きて帰る事だけに注力しろ。
危ないと感じたら俺の後ろに隠れろ。壁くらいにはなってやる」
「グララララッ!!!」
ピカッ!ズドドドッッ!!
まるでジンさんの言葉が合図だったかのように岩の向こうから獣の咆哮が響き渡り空から特大の雷が落ちて行った。
「ちっ、行くぞ!」
「「はいっ」」
急ぎ岩を迂回してみれば、視界の先に地面に倒れ伏した王子と騎士達が居た。
そしてさらにその向こう。雷光を纏った巨大な黒い狼が怒りに満ちた目で王子達を見下ろしていた。
「は、ははっ。やった、成功だ。やはり帝国の技術は最高だ!」
ふと横からそんな場違いな声が聞こえてきた。
見れば貴族風の男が岩影に隠れながら不気味に笑っていた。
「……帝国の犬か。
誰かあれ死なない程度に拘束しておいて。
あ、隠し球の1つくらい有るだろうから油断はしないように」
「あいよ」
連れて来た冒険者の1人がささっと彼の後ろに回り込んで後頭部を思いっきり殴り飛ばしていた。
……あれ死なないかな。
それより今は王子達だね。
私達は隠れる様子もなく堂々と歩くジンさんに続いて王子達に近付いていく。
その間、何故かレムスは襲って来なかった。
いや、襲って来れなかったが正解かな。
後ろ姿だから分かりにくいけど、ジンさんからは先日の『だるまさんが転んだ』の時の威圧感を感じる。
多分私達が受けた何倍もの威力でレムスを威圧しているんだろう。
「流石レムス。まだ意識が有るらしいな」
ジンさんはぼそりと呟くように言いつつ王子達の様子を窺った。
「こっちも運がいいな。まだ息がある。
よし、ラフィカ達は予定通り急ぎ生存者を連れて撤収しろ。長くは持たないからな」
「はいっ」
ラフィカさん達が動くのを後目にジンさんはレムスに向かって更に一歩近付いた。
するとレムスを包む雷光が一段と強くなった気がする。
って、私にだけ指示が無いんだけど。
「あの師匠。私は?」
「腕輪に魔力を注ぎつつその場で待機だ。
っと、来るぞ。全員全力防御!」
「「っっ!!?」」
瞬間、私達全員が閃光に包まれた。




