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第47話:やっぱり急いだ方が

「なんでこの店に来てるのかと思ったらラフィカが居たのか」


そんな声が聞こえてきたのは最初のお茶を飲み終えた頃だった。

振り向けば若干疲れた感じのジンさんが立っていた。


「師匠。もう用事は終わったんですか?」

「終わったというか、むしろこれからだな。

愚痴と一緒に面倒な依頼を押し付けられてきた。

と言うわけでラフィカも手伝え」

「はーい」


何がと言うわけかさっぱり分からないけど、ラフィカさんはそう来るだろうと予想してたらしく、特に疑問を挟むことなく了承していた。


「それで何処に何をしに行くんですか?」

「ここでは詳細は伏せるが、明日の朝に出発してレムスに会いに行く」


ジンさんは自分の分のお茶を注文しながら何気無い感じに答えた。

レムスと言えば……あっ。

それって確か第3王子が討伐に向かったって言う魔獣だっけ。

と言うことは王子の支援をして欲しいって依頼なのかな?


「上手く行けば馬鹿を殴って終わりだし、下手をすれば命懸けだな」

「馬鹿って」


王子の事ですよね。

聞く人が聞けば不敬だと怒りそうだ。


「まぁ詳細は走りながら伝える。

それとラフィカはそれを食べ終わったらすぐに港湾都市に走ってくれ」

「えぇ、もうすぐ日が暮れますよ」

「お前なら夜通し走れるだろう?

伝言と、無駄に終わるかも知れないが活きの良い奴を数人連れて、明日の夕方に魔狼の森の手前で合流だ。

ここの食事代くらいは働いてくれるんだろ?」

「もう仕方ないなぁ」


そう言いながらもラフィカさんは嬉しそうだ。

もしかしたらこのお店に来たのも甘いものが食べたかったと言うより、ジンさんのツケにすることでお願いをされやすくするって意図があったのかも。


「すみませ~ん。スイーツ追加で注文お願いしま~す」

「まだ食うのか」

「甘いものは別腹ですから」


……うーん、嬉しそうにケーキを頬張ってるのを見るとこっちが本命なのかもしれないと思えてきてしまった。

お店を出たところでラフィカさんを見送り私達は宿へと向かう。


「師匠。私達は急がなくて良いんですか?」

「まあな。明日に備えてしっかり休むのも仕事のうちだ」


翌朝、日の出と共に王都を出た私達は普通の身体強化だけを掛けて街道を西へと走っていた。


「今回は体力も魔力も温存しておきたいから雷纒の修行はなしだ」

「そんなに危険な状態で王子達は大丈夫なんですか?」

「さぁな」

「さぁなって」

「ぶっちゃけ奴らを連れ戻すだけの依頼なら楽なんだよ。事が始まる前にぶん殴って止めれば終わりだから。

だけどそこに親心と言うか色々面倒な事情が絡むせいで俺は命懸けだし、何人かは巻き添え喰らって死ぬかもな」


さらっと死人が出るっていうジンさんだけど、その雰囲気からして決して的外れな予想と言うわけでも無いのだろう。


「あの、やっぱり急いだ方が良いんじゃないですか?」

「仮にも相手はこの国の王子だからな。

急いで問題が起きる前に追い付いても止まるとは限らん。

あの王子自身は多少話の出来る奴だったけど取り巻きも居たし」


そういえば。

先日王子と会ったときに馬車の中から不躾な視線が向けられてたっけ。

中心人物がまともだったけどその周辺がまともとは限らない、か。


「その辺りの掃除も依頼のついでに出来たら嬉しいと言われている」

「掃除ってどうするんですか?」

「一番楽なのは狼達の餌にしてしまうことだな。

魔狼の森なら死体も残らなくて良い」


完全犯罪の予告をするジンさん。

それ私が聞いて良いんだろうか。

まぁやるとは言ってないしいっか。


「そういえばレムスってどんな魔獣なんですか?

ずいぶん有名みたいですけど」

「一言で言えば黒い狼だ。

白のロムルス、黒のレムスってな。

一説には兄弟だって言われてるが実際のところは分からん。

分かってるのは港湾都市が出来る前からそこに君臨していることと、ロムルス様同様にこちらから喧嘩を売らなければ自分のテリトリーから出てくることはないって事だ」

「それじゃあ今回王子達がやってることって」

「危険なだけで勝っても誰も喜ばないだろうな。

あ、一部の人間はそこにある資源が手に入ると喜ぶかもしれないがごく一部だ」

「そうなんですね」


ならなんでレムスの討伐に乗り出したかと言えば本人が言っていた通り名声の為なんだろう。

そんな昔から存在する魔獣なら過去に何度も討伐しようと挑戦した人が居るだろうし、まだ討伐されていないってことはそれだけ強いと言うことだ。

王子が身に付けていた雷纒の魔導具は強力だったけど、ジンさんがこうして依頼を受けてるってことは勝てる見込みは低いのだと思う。


「次の町を抜けたら進路を南に変更だ」

「はい」


港湾都市の2つ手前の町を抜けたところで街道を逸れて南へ向かう。

そうしてしばらく走ったところで前を行く武装した一団を見付けた。

先頭を歩くのはラフィカさんだ。


「ラフィカさん」

「ん?ああ、リーン。

早いね。もう追い付いてきたんだ」

「はい。そちらの皆さんは、港湾都市で活動している皆さんですね」

「よっ。リーンちゃん」

「噂には聞いてたけど、本当にジンを背負って走ってるんだな」


時々港湾都市のギルドで見かけたことがある人達が8人ほどめいめいに挨拶してくれる。

年齢は30歳前後で歴戦の風格を持った中堅どころだ。

ラフィカさんももちろん強いだろうし、ジンさんだって一線は退いたっぽいことを聞いてるけどシンミアだって瞬殺できるほどの実力者だ。


「これだけの戦力があればレムスに勝てたりしないんですか?」

「はっはっは。それは無理ってもんだ」


私の疑問に一緒に居るなかでも年配の人が答えてくれた。


「個体驚異度Bまでなら物量でごり押しで勝てる可能性はあるがA以上は無理だ。

レムス相手じゃ傷ひとつ与えられないかもな。

相性の問題でリーンちゃんが好きな雷神公だって勝てるか怪しい」

「そんなにですか」


確か暗黒龍の個体驚異度はSだったはず。

それを倒した雷神公が勝てないレムスってどれだけ強いんだろうか。


「でもそんな強い魔物の所に向かって大丈夫なんですか?」

「ん?まぁ、討伐しろって依頼だったら断ってたがな。

火遊びしに行ったガキどもを連れ戻すだけなら何とでもなる。

勿論まだ生きてたらのはなしだがな。

っと、見えてきたな」


前を向けば鬱蒼とした森が広がっていた。



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