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第46話:解呪は出来ないのでしょうか

気合を入れたところで注文していたケーキとお茶が運ばれて来た。

運んできたのは受付の時と違って20歳前後の女性だった。


「お待たせいたしました。

こちら季節のケーキとハーブティーでございます」


すっと置かれたのはフルーツがふんだんに使われたケーキと、上品なカップに入ったお茶。

うん、まだ食べてないから味は分からないけどカップもお皿も凄く高そう。割ったら大変なことになるんだろうな。

なんて思いつつ、恐る恐るカップを手に取ってお茶を一口飲んでみる。


「……あれ?」

「お口に合いませんでしたか?」


首を傾げた私にまだ近くに居たウェイトレスさんが怪訝そうに尋ねてきた。


「いえその、美味しい事は美味しいのですが私達『珍しいお茶』といって注文した筈なのですが」

「ええ。こちら当店自慢のハーブティーでして、とある地域でしか採れない大変貴重な薬草を使っております。

似たような味のものはあるかもしれませんが、庶民の方ではまず飲む機会はないでしょう。

貴族の皆様もこのお茶を飲むために当店に足を運んでくださる方が居る程なんですよ」

「そうなんですか」


ウェイトレスさんの言葉に違和感を覚える私。

いや、美味しくない訳じゃないんだけどね。

ラフィカさんの方をチラッと見れば何事も無く飲んでいた。

私が何を不思議に思ったのかと言えば。


「その、朝晩の食事の後に飲んでいるお茶と同じ味がしたものですから」

「は、そんなまさか。王都では当店でしか取り扱いはしておりませんし、茶葉の小売りなども致してないと聞いております。

ですのでお客様の勘違いではないでしょうか」


どことなく蔑んだ感じの声音。

それを聞いたラフィカさんがカップを置きつつ答えた。


「その子の言ってることは間違ってないよ。

私達にとってこのお茶は飲みなれたものだから」

「そんな馬鹿な」

「あー、信じる信じないはともかく。あっちでチーフが青筋立ててるから早く行った方が良いよ」

「はぁ?……ひっ」


ラフィカさんが指差した方には確かに初老のウェイターさんが立っていて、一見穏やかな表情でこちらを見ていた。

私達を含めたお客様には不快な印象を与えず、それでいてウェイトレスさんの反応を見るにあれは相当にお怒りのご様子だ。

まあそれもそうか。声は聞こえてなくても態度を見れば私達を見下していたのは分かっただろうし、客に対してそれはどうなのって話だよね。

ウェイトレスさんは挨拶もそこそこに慌ててウェイターさんの方へと歩いていき、近くまで寄ったところでビクッとなったかと思えば立ち止まることなくバックヤードへと下がってしまった。

代わりにそのウェイターさんがこちらへとやって来た。


「うちの者が大変失礼いたしました」

「いいのいいの。私達も普段着で来てしまったしね。

あ、私達はそれほど不快には思ってないから穏便に教育してあげて」

「お心遣い感謝いたします。

ジン様にもどうぞよろしくお伝えください」


深々と頭を下げて去っていくウェイターさん。

でも私だけまだ状況が飲み込めてないんだけど、結局このお茶の意味はなんだったんだろう。

ジンさんの名前が出てくるのも意味が分からないし。


「まあ要するにリーンの言ってたことは何一つ間違ってないってこと。

このお茶の葉っぱの原産地が『魔袁の森の奥の泉の傍』なんだよ」

「え、あぁ。なるほど」


つまりバードモンキーの森の奥、以前ロムルス様に会った泉か。

確かにそこの薬草なら私が修行している間にジンさんが採取してたから、我が家というかジンさんの家では普通に振る舞われておかしくない。

ラフィカさんも恐らく修業時代によく飲んでたんじゃないかな。

ただあの森って今まで他の冒険者があの場所に来たことは一度も見たことがないので、恐らくこの店に卸しているのもジンさんかその関係者な可能性が高い。

だからジンさんやその弟子、友人の機嫌を損ねたくないってことだと思う。

入店の際に見せてたのもジンさんに関係する何かだったのかな。


「でもそっか。

仮面を着けてたからそうだろうなとは思ってたけど、師匠はまだこのお茶を飲み続けてるんだね」


しみじみとどこか悲しそうに言うラフィカさん。

仮面ってあの『贖罪の仮面』の事だよね。


「ラフィカさんは師匠の仮面について知ってるんですか?」

「まあある程度はね。

『封呪の仮面』。凶悪な魔法や呪いをその身に封じる為の呪いの仮面よ」

「あれ、私は贖罪の仮面だって聞きましたけど」

「見た目や効果が似てるからね。良く間違われるのよ。

実際の性能は子供のおもちゃと魔導爆弾くらい違うわ」

「そんなに」


魔導爆弾っていうのは魔導具の一種で内蔵した魔力を暴走させて爆発させるものだ。

強力なものになると家一軒が軽く吹き飛んでしまうらしい。


「師匠は多分、多くの代償を支払ってなお全身に襲い掛かる激痛に耐え続けてるんだと思うよ。

私達には一切そんな素振りは見せないけど。

その痛みを和らげるためにこのお茶を飲み続けてるんでしょうね」


そう言えばジンさんは初めて会った時も薬草茶を飲んでたっけ。

あの時はただ下戸なんだなって流してたけど、ずっと呪いの痛みに耐えていたんだ。


「解呪は出来ないのでしょうか」

「出来るのなら既にやってるでしょうね。

一応私の方でも冒険者活動の合間に解呪方法を探しているけど良いのは見つかってないの。

多分聖女の祈りくらいじゃ意味無さそうだし」

「いったい誰がそんな恐ろしい呪いを掛けたんでしょう」

「そうねぇ。個体驚異度Aランク以上の呪いに特化した魔物、例えばゴルゴンとかかな、考えられるのは」


そんな魔物確認されること自体が希だし確認されたら大事件なんだけどねとラフィカさんは言うけど、同時にそんな大事件はここ10年近く起きていないそうだ。

なら結局ジンさんに掛けられた呪いってなんなんだろう。



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