第45話:『慣れろ』の一言
高級レストランっていうのはどうしてこうあれなんだろう。
値段の事もそうだけど、メニューがどれも聞いたことの無いものばかりだ。
例えばこの『マスカルポーネのカンノーリ』とか名前だけではどんな料理かさっぱり分からない。
「ラフィカさんはこれどんな料理か分かるんですか?」
「あはははっ。分かる訳ないよ~。
だから普段は『本日のおすすめケーキ』と『珍しいお茶』のセットでお願いしてるの」
「な、なるほど」
それが都会の処世術って奴かな。
確かに知ったかぶって変なうんちくを並べるよりもその方が安全で確実だよね。
という訳で今回もそれで注文をしておいた。
どんなのが出てくるのか楽しみだ。
それまではラフィカさんと近況について話をする。
「ふぅん。リーンは今、雷纏の練習中かぁ」
「はい。でもなかなか上手く動けないんですよね。
ラフィカさんは雷纏を使えるんですか?」
「んや。私は雷撃魔法に適性が無くてね~。
ほら、あのビリビリ来る感じ。あれがダメなんだ。
私は静電気ですら嫌ってタイプだからいくら威力があっても覚える気にはなれなかったね」
確かに。多少慣れてきた今でも雷纏を使っていると全身にビシビシ来るから。
ジンさん曰く、雷纏は別名自虐魔法だとかドM魔法だとか呼ばれていたらしい。
間違っても私にそんな性癖は無いけど、言わんとしている事は分かる。
雷纏を使ってこけてる様とか傍から見れば自虐でしかないし。
「どうやったら雷纏を使った状態で上手く動けるんでしょうね」
ジンさんに聞いても『慣れろ』の一言だけでまだ具体的にどうすれば良いのかまで教えてもらってはいない。
今のままだと実戦で使えるようになるのはいつになることか。
そんな私の呟きにラフィカさんはにっこり笑って答えた。
「そんなお悩みのリーンにお姉さんからアドバイスをあげよう」
「お願いします」
「私は雷纏は使えないけど、雷纏を使った敵に勝つことは出来るよ。
何故だか分かるかな?
あ、もちろん師匠に雷纏を使われたら勝てる気はしないからごく一般的な使い手って意味で考えてね」
「はぁ」
アドバイスというか謎かけというか。
そもそも私、ラフィカさんがどれくらい強いのかとか分かってない。
故郷を滅ぼしたサイクロプスを討伐したってことだから相当だとは思う。
多分攻撃力だけで言えば雷纏を使った状態の私より上かもしれない。
でも雷纏の強みは攻撃力だけじゃなく、その雷のような速さもだ。
「もしかしてラフィカさんは雷纏を使うのと同じくらい速く動けるとか?」
「いやいや。流石にあの速度は出せないかなぁ」
「なら動きを封じる手段があるとか」
「無くは無いけどね。それはリーンへのアドバイスにならないからパス。
正解は、速く動くことは出来なくても反応は出来るってことさ。
別の言い方をすれば普通は矢のように速く飛ぶことは出来ないでしょ?でも飛んできた矢を盾で防ぐことは出来る、でしょ」
なるほど、それなら分かりやすい。
「大切なのは認識できるかどうか、反応出来るかどうかなのよ。
それは受ける側もだけど使う側も同じことが言えるの」
「つまり私は自分で動いているのに意識が追い付いて無かったって事ですか?」
「そう言う事ね」
たしかに雷纏を使って動くと一瞬にして意識も視界も吹き飛ぶから気が付いたら地面や木にぶつかっていた感じだ。
1歩目を踏み出した後、2歩目の足を準備したのは良いけど踏み込むタイミングが掴めなくて転んだりしてた。
感覚としては階段を目を瞑って降りている時に次の段があると思ったらなくて踏み外したような状態と同じだ。
ただ階段なら目を開けてればいいけど雷纏の場合は?
「どうすれば反応出来るようになるんでしょう?」
「慣れね」
「えぇ~」
それじゃあ今までと変わらないんだけど。
「というのは半分冗談で、身体強化で視力や反応速度を上げれば改善されるはずよ」
「身体強化……」
それってジンさんに学び始めてからずっとやってた事だ。
ジンさんは最初から私が雷纏を使う事を前提に修行の内容を考えてくれていたんだろう。
だから頻繁に港湾都市と王都を身体強化で往復させられていたし、往復するたびに全速力で走ることを求められてたんだ。
あれ?でも雷纏を使ってる時だって身体強化はしてたのに全然反応出来なかったのはなんでだろう。
「リーンって雷纏を使ってる時って魔力の安定とか防御に意識を置いてるんじゃない?」
「それは、だってそうしないと雷纏を維持できないし自分に掛かるダメージを減らせないし」
「それも慣れよ。雷纏に慣れてないから意識しないと維持できないの。
自分に掛かるダメージだって魔力が安定するだけでだいぶ軽減できるはずだしね」
つまり今の私に求められることは雷纏の速さに慣れる事と雷纏を安定させること。
そして雷纏を使いつつ身体強化で反応速度を上げることだ。
どれも一朝一夕では出来そうも無いけど頑張るしかない。
結局は修行あるのみって事かな。




