第41話:何かご存じなのですか?
第3王子の爽やかな程の見下す姿。
多分悪い人では無いんだと思う。自分は偉いと思っているだけで。
ただその視線がじっと私に注がれてるのは何故だろう。
「ふむ、リーンと言ったな。
お前、俺の元に来る気はないか?」
「はい?」
また突然何を言い出したんだろう。
「いやなに。よく見れば悪くない容姿をしているし、
雷纒を使えるようになるなら護衛としても役に立つ。
俺のところに来るなら雷纒をマスターする為の適切な魔導具も用意してやろう」
「え、いえ」
「遠慮することはない。
こうして良き人材を市井から引き上げるのも力有るものの務めというものだ」
えっと、あれ?
もしかして私、勧誘というか引き抜きを受けてるの?
しかもこの国の王子様から。
ちょいちょい変なポーズをする王子だけど、言ってる事は真面だ。
多分この提案を受ければなに不自由無い未来が待ってる気がする。
うん。
でもきっと私の望む未来には繋がってないよね。
何より私はジンさんに学ぶと決めたんだし。
「殿下のお誘いはとても嬉しく思います。
ですが私はこちらにいるジンさんから学ぶと決めています。
それなのにより良さそうな話があるからと、それを途中で投げ出す訳にはいきません。
そんなことをしてしまえば、きっといつか別の良い話が舞い込んで来た時には殿下を裏切ることになるでしょう」
殿下の誘いを断ること、それ自体が不敬と取られるかもしれない。
でも今言ったことに嘘は無いし、誰かを裏切り続ける人生なんて過ごしたくはない。
私の答えを聞いた殿下は、怒るでもなく満足そうな顔をしていた。
「良いな。むしろ軽々に誘いを受ければ安い奴だと捨てて居たところだ。
それで、その隣にいる男がお前の師匠か。
って待て。貴様のそれは贖罪の仮面ではないか」
今初めて師匠の顔を見たようで、その付けている仮面を見て驚いていた。
それにしても贖罪の仮面?
「殿下は師匠の付けている仮面が何かご存じなのですか?」
「ん?まあ一般的に知られているものでもないか。
禁忌を犯した者はその身に死ぬに死ねない苦痛を伴う呪詛を受けるのだ。
その呪詛を抑える為に用いるのがその仮面だ。
禁術に手を出したのか神の怒りに触れる様な何かをしたのかは知らないが碌な男では無いのは確かだな」
「もしかして見つかったら捕えられたりするんですか?」
「安心しろ。こうして外を歩けている時点で罰は受けた後だ。
改めて裁こうなどとは思わん」
ほっ。良かった。
でも何かあるんだろうなとは思っていたけど、そんな恐ろしい物だったんだ。
それでジンさんは常にその仮面を着けてたんだね。
「ところで殿下はこのようなところに何をしにいらしたのですか?
随分と立派な鎧を纏っているようですが」
立派というか不思議な形状のと言った方が正しいんだけどね。
それにわざわざ王族が護衛を引き連れてこんなところに来るほどの用事があるのだろうか。
「ふっ。よくぞ聞いた。
この鎧は北の魔導帝国の創り出した最新式の魔導具でな。
起動し魔力を流すことで雷纏と同等の効果を生み出す事が出来るのだ。
これを使ってここから南に行ったところにある魔狼の森に住む魔獣レムスの討伐に乗り出そうと言った次第だ」
またしても謎のポーズを取る殿下。
まあそれは良いんだけど。
ただそれを聞いたジンさんの顔が一段と険しくなったのが気になる。
とここでようやくジンさんが口を開いた。
「殿下。今回の事を国王陛下はご存じなのですか?」
「いや。この程度のこと、報告するまでも無かろう」
「そうですか。では老婆心ながらご忠告を。
腕試しがしたいのであればその東にある魔袁の森に住む聖獣ロムルスに挑むのがよろしいかと思います」
「馬鹿が。聖獣と呼ばれるものを倒しても俺の名声には繋がらんだろうが」
「そうなのですが、その鎧でレムスに勝つのは厳しいかと思います」
「なんだと!?」
うーん、相変わらずジンさんは火に油を注ぐというか。
殿下が自慢している魔導鎧に対しておもちゃなんて言ったら怒るに決まっている。
現にさっきまで温厚そうだった殿下が今にも剣を抜きそうだ。
「ではその目にこの鎧の性能を焼きつけてやろう!
機動せよ『雷神武威』!」
キーワードと共に殿下の足元に魔法陣が展開されて数秒で鎧全体が光に包まれた。
「ゆくぞ!」
そう言った瞬間には殿下はその場から消え去り、ジンさんの真後ろへと回り込んでいた。
更にジンさんの首筋に雷撃魔法が付与された剣が当てられた。
「ふっ。身動き一つ出来ぬか。
雷纏の指導をしていたのだから少しは出来ると思っていたがとんだ見込み違いだったな」
鼻で笑う殿下。
それに対しジンさんはまるで首に当たっている剣を無視して私に話しかけた。
「リーンは見えたか?」
「え、あーはい。凄い速度で殿下が師匠の後ろに回り込んで、剣を抜いて首に当てたのは見えました」
「よしよし」
完全に置いてきぼりを食らった形になった殿下が地団駄を踏む勢いで怒った。
「よしよし、ではない!
俺を無視するな。このまま切られたいのか!!」
「いえいえ。殿下ほどの傑物がこのようなことで人を殺めることなど無いと信じておりますので」
言いながらジンさんは剣先を軽く摘まんで首から離した。
その瞬間、護衛の騎士たちが息を呑んだ。
私もそのあり得ない光景に目を疑ったけど、殿下だけはつまらなさそうに鼻を鳴らしただけだった。
「ふんっ。時間の無駄だな。ゆくぞ」
「「はっ!」」
馬車に戻る殿下を私達はその場で見送った後、私はジンさんの手を見た。
でもそこには雷撃で焦げたような跡はなかった。
さっき確かに雷撃を纏った剣を触っていたのに。
「師匠。手、なんともないんですか?」
「まああれくらいの雷撃ならかゆい程度だ。
そもそもあいつ。脅しのつもりで首に剣を当ててきたけど、本来ならそれだけで耐性のない相手を気絶させる威力くらいは無いとおかしいんだ。
あれじゃあ切れるのは良くてCランクってところだろうな」
「え、ということはさっき話に挙がっていた魔獣には」
「勝てないだろうなぁ。機動速度ですらリーンが目で追える程度だし。
ま、レムスが相手なら運が良ければ生き残れるだろう。あいつも何だかんだで優しいし。
それに俺としては心配は別にあるんだけどな」
「別の心配?」
「そのうち分かる」
その疑問には答えてもらえず、雷纏の修行を再開する私達だった。




