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第4話:危なくないですか?

ジンさんは振り返ることなく歩き続け、街の外に出てしまった。

何処まで行くんだろう。もしかしてこのまま魔物退治に行くとか?

そう心配になって居たら十分に開けた空き地のような場所で足を止めてこちらを振り返った。


「リーンと言ったな。

雷神公の後を継ぐとか言ってたが具体的にどんな冒険者になりたい?」

「どんな、ですか?」

「そうだ。雷神公は男だし全く同じになるなんてことは無理な話だ。

ならお前の思い描く未来の自分の姿を言ってみろ」


そう言われて考える。

私だってただ漠然と雷神公に憧れを抱いていた訳じゃない。

10年前に私を助けてくれたあの人。

青い雷を身に纏っていたから恐らくあの人が雷神公だったんだと思う。

私にとってあの人の後を継ぐという事は。


「命の危機に瀕している人の元に誰よりも速く駆け付けられるようになりたいです。

そして一人でも多くの人を救えるように。

暗黒龍の襲来を退けた雷神公のようにどんな災厄からもみんなを守れるような、そんな冒険者になりたいです」

「……」


じっと私を見つめ続けるジンさん。

えと、何か言って欲しいんだけど。私の想いはちゃんと伝わったのかな?


「あの……」

「リーン」

「は、はい」


短く名前だけを呼ばれたけど、これってもしかして怒ってる?

怒られるような事を言ってしまったんだろうか。


「今自分で言った事、絶対に違えるなよ」

「え?」

「一人でも多くの人を救えるようにと言ったな。

それをする為の必須条件は、お前が五体満足で健康に生き続けることが必要だ。

1年で100人を救う奴が3年で死ねば300人しか救えないが、1年で50人しか救えない奴が10年生きれば500人。30年くらい現役で活躍出来れば1500人救えることになる。

いいな。他人を救いたければ自分の身を大事にしろ。

それが出来ないなら今のうちに諦めた方が良い」


厳しいような発言だけど、それは私を気遣っての言葉だ。

ジンさんは仮面で表情は分からないけど良い人なのかもしれない。


「分かりました。絶対に生き続けます」


そう答えた私に頷いて答えるジンさんは更に質問を続けた。


「よし。ではリーンの能力を教えてくれ。

冒険者は魔物との戦闘は避けては通れないから身を守る術は必要だ。

武器は何を使う?魔法は何が使える?今まで魔物は倒したことはあるか?」

「武器は短剣を主に使ってきました。

魔法は身体強化と飛脚術は使えます。

魔物は故郷に居た頃に教育の一環で町の近くに出没した最下級の魔物を数体倒したことがあります」


町で開設されていた初等学校では読み書きの他に魔法や武器の扱い、そして希望すれば魔物の討伐訓練までやってくれた。

それは近年魔物が増加傾向にあることから誰でも魔物から身を守る術を学ぶ必要があるということでやっているそうだ。

私の話を聞いたジンさんは私から少し距離を開けた。


「よし。なら試しに全力で短剣で切り掛かって来い」

「え、危なくないですか?」


ジンさんは片腕を失って一線を退いているという話だった。

私はこれでも身体強化の魔法のお陰で瞬発力もかなりのものだ。


「俺を傷付けられるくらいの手練れなら安心なんだがな。

良いから全力で掛かって来い。流石にガキンチョにやられる程なまってはいない」

「むっ」


流石にガキンチョ呼ばわりにカチンと来た私は腰の短剣を抜いて身体強化の魔法を両足に掛けた。

そして5メートルしか離れていないジンさんの懐に一息で潜り込んでそのまま短剣をジンさんの脇に押し当て、あれ?


「何をしている」

「え、あれ?」


声の方を振り向けばジンさんがさっきと同じ5メートル離れたところに立っていた。

いったいいつの間に移動したんだろう。全然見えなかった。


「分かったか。今の俺とお前じゃ相当な実力差があるんだ。

遠慮せずに動けなくなるまで掛かって来い」

「分かりました。では行きます」


そこからは私が飛び込んではジンさんが離れるの繰り返し。

後半はもう剣は持つだけでただただジンさんを捕まえたい一心で追いかけっこのようになっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「ふむ。まあこんなものか」


息を切らして地面に倒れ込む私と息ひとつ乱していないジンさん。

まさに大人と子供。

既に現役を引退していると言ってたし、もしかしたら私の方が強いかも、なんて気持ちは完全に消え去ってしまった。


「踏み込みと思い切りは良かったから、普通に頑張り続ければCランクくらいまでは上がれそうだな」


そう言われて嬉しくなった。

全然ダメだと思ってたけどそれなりに良い評価を貰えたみたいだ。

と思ったのも束の間。


「だが才能はない」

「え?」

「今のままでは雷神公のようには成れないな」


冷静に告げられたその言葉は私に深く突き刺さった。


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