高高度より愛を込めて

第38話：雷撃魔法は使えない？

魔導着の確認が終わったところで改めて魔法の講義が始まった。

「さて、今から雷撃魔法について教える訳だけど、実は難しいところはほぼ終わってるんだ」

「え、そうなんですか？」

「ああ。魔法を発動させるのに必要なのは魔力を十分な量集めて、そこに発動させたい魔法のイメージを乗せる。基本はそれだけだ。

あ、難しい理屈とかは知らんから知りたかったら図書館に行くなり専門家に聞きに行くなりしてくれ」

「はぁ」

魔力の量に関してはジンさんに会ってからひたすら魔力循環と身体強化を続けてきたのでかなりレベルアップしてると思う。

それでこうして教えてくれるって事は十分な量があるって見込まれたんだよね。

じゃあ後はイメージ、かぁ。

「雷撃魔法のイメージってどうするんですか？」

「自然現象の雷を受けて学ぶっていうのが一つ。あとは実際に発動している雷撃魔法を見るって言う手が１つ。

リーンはどっちも体験しているだろ？」

「え、ああ。そうですね」

以前廃村に行った時にゴブリンの囲みを逃れる為に空に上がった時に雷に撃たれたし、先日のシンミアとの戦いの時にはパーティーの腕輪から雷撃が走って私を守ってくれた。

てっきりこの腕輪ってパーティーメンバーの位置を確認する為だけの魔導具と思っていたんだけどそうじゃないっぽい。

シンミアに踏まれても傷もゆがみも無いし。

「このパーティーの腕輪って何なんですか？」

「装着者を守るために色々な機能を備えた便利な魔道具だ」

「他の冒険者パーティーでもみんな着けてるんですか？」

「……さあな」

あ、目を逸らした。

絶対これ特注品か古代遺物的な凄いやつなんだ。

そんなのを気軽に貸し与えないで欲しいんだけど。

「ともかく。リーンは既に雷撃を体得しているはずだ。という訳で実践に移る」

「もうですか！？」

「安心しろ。まだ命の危険はない。その為のライトニングエッジだ。

さあ、鞘から抜いて刀身にそうだな。リーンの３割の力で魔力付与を掛けろ」

「はい」

言われた通りに短剣を抜いてそこに魔力を注いでいく。

「よし、その魔力に雷撃のイメージを送るんだ」

「雷撃のイメージ……」

あの時の腕輪のようにバチバチと放電を伴って光るイメージ。

これで、いいのかな。

「３割なら無事に雷撃魔法として成立するな。

よし、ではそれをあっちの木に向かって飛ばす」

「飛ばす」

バチッ！

ジンさんの指示に従って剣の先から魔力を飛ばすイメージを送れば刀身から雷撃が飛び出して木の幹を焦がした。

その様子に思わず手を叩いて喜んだ。

「出来た！」

これが雷撃魔法。

でも拍子抜けするくらい簡単に習得出来てしまったけど良いんだろうか。

これならもっと多くの人が雷撃魔法を使えても良いと思う。

それと３割も魔力を込めたにしては威力がお粗末な気がする。

今の私が３割の力で魔力付与を行えば、あの木を切り倒す事だって出来たかもしれない。

それなのに表面をちょっと焦がしただけって。

え、雷撃魔法って強いって聞いてたんだけど。

「雷撃魔法の欠点に気が付いたか」

「えっと、もしかして消費魔力の割に威力が弱いんですか？」

「それは違うな。どうやら雷撃魔法っていうのは距離による減衰が激しいんだ。

今回のはリーンのイメージが不完全で雷撃になりきれてなかったっていうのも弱さの原因だけどな。まあそこは何度も練習して覚えて行けばいい」

「はい」

「では魔法を体感してもらったところで改めて雷撃魔法の長所と短所を説明するぞ」

「お願いします」

「まず長所だが、他の属性に比べて威力を高めやすく、発動から着弾までが知られている魔法の中では４番目に速い」

４番目って微妙だ。

意外と速くないって事なのかな。

「ちなみに上の３つは『光魔法』『時空魔法』『思念魔法』だな」

「どういう魔法なんですか？」

「光魔法はその名の通り光を操る魔法だ。発動した光ったと思った瞬間には１キロ先の標的に当たる程の速さだ。

避けるには発動する瞬間を見極めるほかない。

時空魔法って言うのは時間を止めたり距離をゼロにする魔法だ。一説には時間を止めるどころか過去に影響を与えることも出来る、なんて言われているな。

ここまで来ると避けるのはまず無理だ。

そして思念魔法は別名『因果魔法』とも言われるな。考えたことを現実に反映する魔法だ。例えば俺がこれからそこの木を切り倒したと考えただけで既に木は倒れている。

どうやって切ったかは後から付いて来るんだ」

「む、むちゃくちゃですね」

「まあな。このうち光魔法だけは使い手の存在が知られているがあとの２つは昔の英雄が使っていた、という伝説があるだけだ」

「つまり実際には２番目に速いと言っても良いんですね」

「まぁそうだ。

そして短所についてだが、見てもらった通り距離による威力の減衰が激しく、消費魔力が他の魔法より断然多いんだ。

故に相当魔力の多い奴じゃないと連発は出来ないし、魔法なのに遠くから当てても意味がない。

その為魔法職の人間からは敬遠されている」

なるほど。

後衛で戦う魔導士では攻撃が届かないし、前衛で戦う剣士なら燃費の悪い魔法より身体強化に集中した方が利があるんだ。

でもそれでも雷神公が雷撃魔法を使っていたのには意味があるはず。

「なにか欠点を克服する方法はないんですか？」

「あるぞ。魔力付与のように使う方法だ。

ようはさっきは剣先から雷撃を飛ばした訳だが、飛ばさずにそのまま切れば良い。そうすれば雷撃の威力を１００％相手に当てられる」

「はぁ。でもそれって結局敵に近づかないといけないんですよね？」

「そうでもない。雷撃の魔力付与が維持出来れば何でも良いからな。

よく使われるのは魔石だ。魔石に魔力付与を行ってそのまま投げつけたり鏃に加工して弓で放ったりすることも出来る。

ただライトニングエッジくらいの性能が無いと着弾と同時にバラバラになるから使い捨てだな。費用が馬鹿にならん」

つまり金貨を投げて相手を攻撃するようなものってことか。

確かにそれだと普段の冒険では使えないなぁ。

緊急の都市防衛なら何とかってところか。

少なくとも個人では使いどころが難しい。