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第29話:師匠はボス猿?

それから。

攻撃が激しくなったせいで、結局また1時間くらいで踏み潰されてジンさんに助け出されることになった私。

ただその過程でひとつ分かったことがある。

最初に戦った時に比べて今回。もっと言えば回避に専念するようになってから明らかにバードモンキー達の殺意が薄れた。

だってそうじゃないと捕まったタイミングで爪で切り裂かれたり噛みつかれたりしてたはず。

実際にはドスンと乗っかられただけだ。

それとジンさんが近づいて来てパンと手を叩くと彼らは直ぐに私を解放してジンさんに道を譲った。

ここから察するに。


「師匠はボス猿なんですか?」

「はっはっは。残念だが違うなぁ」


笑いつつ私を回収して池のほとりに向かうジンさん。

私を木に凭れさせるように地面に下ろしてから説明をしてくれた。


「障らぬ神に祟りなしって言うだろ?

勿論俺は神でも何でもないが、彼らから見て俺は手を出したらヤバい奴で、尚且つなにもしなければ森に危害を加えない存在だと認識されている。

ついでに言えば時々酒を差し入れたりしたからな。

仲良くした方がいいって思われてるんだろう」

「……そもそも師匠はなぜお酒の差し入れなんてしてるんですか?」

「この池でしか手に入らない薬草があってな。

それを取りに来るのに毎回襲撃を受けるのは面倒だなと思ったんだよ。

魔物でも知能の高い奴なら交渉できるってのは魔獣使いが証明してるからな」


なるほど。そういう事だったんだ。


「あれ、じゃあ私も仲良くなれば襲われ無いんですか?」

「リーンについては俺が相手をしてやってくれと頼んだから無理だな。

まぁ積極的に殺しには来ないから頑張れ」

「はい……」


やっぱりジンさんが黒幕だった。

休憩を終えた私は再びバードモンキーのテリトリーで逃げ回り、倒されては休憩するのを日暮れ近くまで繰り返した。


「流石にまだ夜間戦闘は無理だからな」


つまり将来的には夜もやることになるのかな。


「あと夜になると活発になる魔物も居るし、夜しか採取出来ない薬草もあるから楽しみにしててくれ」

「そう言えば元々は薬草採集に来たんでしたね」


バードモンキーに何度も倒されてたせいですっかり忘れていた。


「……少しここで待ってろ」

「え、はい」


突然ジンさんはそう言って姿を消した。

すごい。もう薄暗くなって来たとは言え、一瞬で私の前から居なくなってしまった。

初めての時と違って私は身体強化してるのに、その動きを見ることも出来ないらしい。


ドンッ

「きゃっ」


突然私の横に落ちてきたのは全長2メートル近い巨体猪を抱えたジンさんだった。


「待たせた」


そう言うけど5分くらいしか経ってない。

どうやらジンさんはこの猪を見つけたから私に待っているように言ったみたい。


「獲物の絞め方や捌き方については帰ってからレクチャーしよう。

ひとまず今は倒したら直ぐに血抜きをすることを忘れなければ良い」

「はい!」


言いながらジンさんは適当な木の枝と蔓草で猪を縛って担ぎ上げた。


「さ、暗くなる前に街に戻るぞ」


そう言って前を歩くジンさんの歩みは淀みない。

あの猪、数百キロありそうなんだけどまだまだ余裕そうだ。

私が持ったら……身体強化してても支えるだけでいっぱいいっぱいじゃないかな。

そう思ってたらジンさんが私を見た。

あ、なにか嫌な予感が。


「リーンの魔力もまだ残ってるみたいだし、街までおんぶしてってもらおうか。飛脚術で」


ほら来た。

これも修行の一環。決してジンさんが歩くのが面倒になったとかではないはず。

頑張って猪を担いだジンさんを更に担ぐ。

途端に全身にのし掛かるずっしりとした重み。


「ふんぬを~」


ちょっと女の子らしからぬ声を出しつつ飛脚術で空中を踏んで身体を前へと押し出す。

続いてもう一歩、更にもう一歩。

飛脚術使ってなかったらズシンズシンと足音が立ちそうだ。


「リーン、このまま走れるか?」

「さ、流石にそれは厳しいです」

「そうか。なら少し手伝ってやるか」


お、ジンさんも何か魔法で支援してくれるのかな?

と思ったらジンさん(プラス猪)の重心が段々と前に行き始めた。

って倒れる倒れる!


「ほら、足を前に出せ。倒れるぞ」

「は、はい!」

「よし、ほら次。次だ。どんどん行け」

「うひぃ~~」


ひたすら倒れそうになる身体を支える為に足を前に出した。

するとだんだん勢いも付いてきて止められなくなってきたし、この状態で転んだりしたら大怪我じゃ済まないと思う。

そうして無事に街にたどり着いた時には精根尽きていた。


「ほら、家に帰るまでが冒険だぞ」

「うぅ、もう歩けません」

「まったく仕方ない奴だ」


疲れ果てて地面に倒れている私をジンさんはひょいっと持ち上げて猪の上に乗せると、そのまま猪を担いだ。

私は猪と同じ扱いらしい。

まぁ捨て置かれるよりマシだけど。

家に着いたジンさんはそのまま台所に併設されている土間に行くと私を降ろして猪の解体を始めた。


「今後は解体もリーンにやってもらうけどまずは見て学ぶように」

「う、はい」


腹を切り裂いて内臓が飛び出る所とかなかなかにグロいけど、今後私も魔獣素材の収集依頼とか受けたらやらなくちゃ行けないので学ばない訳にはいかない。


「解体するにあたって注意するのは内臓を傷付けないようにすることだ。

特に胃腸を下手に傷付けると肉が胃液まみれ糞まみれ、なんて事にもなりかねない。

これらは一部の草食動物のは旨いが素人が手を出すべきじゃないな」

「それでも処理したい場合はどうするんですか?」

「大きい街のギルドなら解体専門の職員が居るから頼めばいい。

冒険者の中にはグロいのは嫌だって言って全部任せる奴も居る」


多少お金が掛かるそうだけど、そっちの方が楽そうだ。

私の目指す先はハンターではないし。


「私もそうしちゃダメですか?」

「ダメだな。

リーンには解体を通じて魔獣の身体の作りを学んでもらう予定だ。

何処に刃物が通りやすいのか、心臓などの急所はどこか、それを知っていれば自分より遥かに強い相手を倒す事だって出来たりする。

そんな強敵とは戦わずに逃げるのが最善だけどな」

「なるほど」


ジンさんのナイフ捌きは淀みがなくてまるで豆腐を切っているようだ。

あれはきっと筋繊維の方向とかを熟知してるから出来る芸当だね。

それを私にもやれと言うのはかなり無茶振りだけど頑張るしかない。

一通り処理が終わるとジンさんは肉塊となった猪をしまってしまった。


「あれ、食べないんですか?」

「肉は種類にも寄るが時間を置いた方が旨くなる。

それに足の早い部位を先に食べよう」


そう言って内臓から取り出したのは多分心臓と肝臓、かな。

前にお肉屋でその2つは特に栄養満点だって聞いたことがあるし。



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