第27話:後輩だったらしい
ジンさんの後を追うように森の中へと入っていく私。
いつ何処から魔物が出てくるかと思うと不安で周囲に視線を巡らせていく。
「あ、まだそんなに強いのは出ないから」
「そ、それを早く言ってください!」
警戒して損した。
でもちょいちょいゴブリンとかの最下級の魔物は出てくるので見つけ次第倒していく。
それと今日の本来の目的も忘れてはいけない。
「右の木の根元に生えている茸だけど」
「はい」
「焼いて潰して粉にして、ひとつまみお湯に溶かして飲むと強壮薬になる」
「へぇ。じゃあ採取していきますね。
何か注意することはありますか?」
「いや、気にせず取って大丈夫だ」
ジンさんの返事を聞いてから手早く採取して袋に詰めていく。
「ちなみに、一本丸々焼いて食べると死ぬから気を付けろよ」
「えっ」
「薬は一歩間違えば毒になる良い例だな。
あとその横に生えてるギザギザの葉の草は……」
と、こんな感じで薬草のレクチャーも交えつつ幾つも採取していく。
私案外こういう作業は得意かもしれない。
故郷でも畑仕事とか手伝ってたし土いじりも嫌いじゃないし。
慣れてくると次から次に薬草が見つかるし、上手に摘めると達成感があるよね。うんうん。
「薬草採集も意外と楽しいですね」
「グギャッ」
「ぐぎゃ?」
ジンさんがまるでゴブリンみたいな返事をしたので気になって顔を上げてみればジンさんはゴブリンになっていた。
しかも4体に分身して私を取り囲んでるし。
「って、そんなわけない!」
私は慌てて目の前の1体に体当たりをしながら飛び退いた。
ジンさんは……少し離れた所で手を振っていた。
どうやら気が付いてて何もしてくれなかったみたい。
でもま、ゴブリンくらいならもう身体強化した私の敵じゃない。
「ハッ!」
短剣を抜きながら一息でゴブリンの群れに飛び込んでその首を切り落とした。
よし。上手くいった。
これならジンさんも誉めてくれるかな。
「よし、次に行こうか」
「はい。って、それだけですか?」
「ん?ああ。ゴブリンで良かったな。
あれが魔犬のたぐいだったら今頃奴らの腹の中だ。
まぁ集中のし過ぎは危険って事だ」
そうかもしれないけど、弟子の成長を見て「強くなったな」とか一言くらいあっても良いんじゃないかな。
まぁそういうのをジンさんに求めるのは無理か。
「さて」
おもむろに立ち止まるジンさん。
続いて前方の木の上を指差して言った。
「この先はバードモンキーのテリトリーだ」
「バードモンキー?」
ジンさんが示した先にはなるほど、猿が数匹いる。
向こうもこちらを見付けてはいるみたいだけど襲っては来ない。
「あれは魔獣ですか?」
「そうだ。見ての通り猿の魔獣だな」
魔獣。魔物の中でも野生の動物に似ているものをそう呼ぶ。
彼らの特徴は、その似ている動物と同じ習性があることだ。
だから猿の習性を持つ彼らは自分たちのテリトリーの外にいる敵には積極的に攻撃してこないって事らしい。
逆を言えばテリトリーの中に侵入したら一気呵成に襲いかかって来るだろう。
「この先は身体強化を切らすなよ。
ゴブリンと違って油断すると死ぬからな」
「は、はい」
「あと前情報を伝えると、あれは個体脅威度F、まぁゴブリンより強い。
そして飛脚術ではないがそれと同等に空中を飛び回って襲ってくる。つまり」
「つまり?」
「お前の先輩だ」
「えぇ~」
私は実は猿の後輩だったらしい。
いや全然嬉しくないけど。
「今日からしばらくお世話になるから仲良くな。
別に攻撃する必要はないから、何とかあいつらの攻撃を避け続けろ」
そう言ってる間にも猿の数は増えていく。
見える範囲だけでも10匹はいるんだけど。
「よし、じゃあ行くぞ」
「ひえぇ~」
飛び出していくジンさんに続いて私も突撃していく。
それを見た猿達も一気に私に襲い掛かってきた。
「ウキーーッ」
「ウキキーッ」
「ウッキキーッ」
「ちょっ、やばっ」
猿の動きが意外に速い。
しかもしっかりと連携を取りながら私を囲み離れた所から石を投げて来た。
石は正面からなら避けるのは大変じゃない。
でも同時に横や後ろ、更には上からも飛んでくる。
「これは足を止めたら終わりね」
私は頭など急所を守りながら森の中を飛び回った。
しかしなるほど。猿達も私と同じかそれ以上の速さで移動してる。
「って、痛い痛い痛い」
くっそ~。
さっきから何度も石をぶつけてきて。
身体強化してても痛いのよ?
向こうも猿知恵が働くのか中々近づいて来ないし。
痛いけどそんな石くらいじゃ私は倒せな……
「いっ」
「ウキャッ」
あっぶな。
油断して速度が落ちたのを見て突然飛び掛かってきた。
爪がかすった皮鎧にけっこう深い傷が付いたから直撃を受けたら危ないかもしれない。
でも向こうから近づいて来てくれるなら勝ち目はあるかもしれない。
タイミングは奴らの石を受けてよろめいた風を装って、ここだ!
「ウキッ」
「ふんっ、2度も同じ手が」
「キャッ」
「ウキャキャッ」
「へぶっ」
突撃してきた1匹を交わし、その背中に短剣を向けた所で私は背中と後頭部に衝撃を受け、地面に落ちていった。