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第24話:死神、ですか

やっと来たジンさんを見て私は残り少ない魔力を使って飛脚術でジンさんの元に行こうと空を駆け降りて、


「そこで止まれ」

「!」


あと2歩で地面に足が着くところでジンさんから待ったが掛かった。

ジンさんはそのまま何かを考えた後、おもむろに口を開いた。


「リーンは今後も飛脚術を使っていくつもりなんだよな?」

「え、はい」


やっぱりいち早く困っている人の元に向かうには空を飛んでいくのが一番だし、翼の無い私が空を行く手段は限られている。

いちおうね。飛脚術以外にも空を飛ぶ魔法は無くはない。

魔法で背中に翼を生み出して飛ぶ方法や、風魔法を纏って飛ぶ方法。

他にも念道術と呼ばれる物質を宙に浮かせる魔法で飛ぶことも出来る。

でも雷神公の後を継ぎたいと思っている私としてはあの人が使っていたという飛脚術を使っていきたい。

魔力消費量という意味でも他より優れてるしね。


「よし。では今後は街の中にいる間は常時飛脚術で地上5センチ上空を歩くようにしなさい」

「は、はい。あのでも、魔力が足りないんですけど」

「何とかしろ」


えぇ~。そこは何かアドバイス的なものがあるんじゃないんですか!?

それと今も結構ギリギリなんですけど。


「別に走れと言ってる訳じゃない。

地面を踏みしめて走るのは脚力強化に必要だからそれはそれでやる。

飛行系の魔法は常に魔力切れで墜落する危険が常に付きまとうからな。

今の内から魔力が無くなりかけてもギリギリで踏みとどまる感覚を養っておけ」

「分かりま、あぁ~っ」


そこで遂に私は魔力切れになった。

ガクンと重力に引かれて落ちる私はしかしなぜか足だけその場に固定されて前に倒れるように地面にダイブした。


「うぐっ。痛いです」

「だろうな。今後も今みたいに落ちそうになったら足を固定してやるから安心しろ」

「いや今思いっきり顔面から落ちたんですけど」

「そこは知らん。飛脚術の応用でなけなしの魔力で空を掴むなりして耐えろ」

「空を掴むって」

「その昔、死刑囚が両手両足を縛られた状態で絞首台に登って歯で空を掴んで耐えたって話もある」

「えぇ~」


それはまた壮絶な話だけど。

だって歯で全体重を支えたってことだし、どんな顎してるんだろう。


「まあ兎も角、無駄に時間を食っちまったからな。今日はこの町で一泊するとしよう」

「あはは。はい」


結局あの騎士たちがどうなったかは聞かないことにした。

聞いてもどうにもならない気がするしね。

それはそうと、この町ってもしかして行きにも泊まった町だよね?ということは……


「あの、ジンさん。明日の朝、冒険者ギルドに寄っていきたいんですけど」

「いいぞ。そうやって各地の依頼の状況を確認していくのも冒険者としては大事な事だ」


私達は適当な宿で一泊して翌朝、冒険者ギルドに顔を出していた。

さて、依頼を貼り付けてある掲示板を眺めているのだけど、あれ、ないなぁ。


「何か探しているのか?」

「はい、えっと……」

「依頼の中には掲示板に張り出されていないものもある。

もしお目当てのものが無いなら受付で確認してみるといい」

「分かりました」


ジンさんの指示に従い受付に向かい40代のおばさんに話しかけた。


「あの、盗賊退治の依頼ってありませんか?

先日この町に来た時に西の街道で見かけたのですが」


そう、この町って王都に向かう際中に盗賊が出た町だ。

あれからまだそんなに時間も経っていないしどうなっているのか気になって確認に来たんだ。

盗賊の討伐は領地の衛兵が行う事もあるけど手が回らない時とかは冒険者に依頼が回るはず。

だけど掲示板にはそれらしいものが無かった。

私の質問を聞いたおばさんは、ああと頷いて答えてくれた。


「その盗賊ならもう居ないよ」

「居ない?どこかに場所を移したんですか?」

「いや。久しぶりに『死神』が出たらしくてね。

昨日奴らのアジトを調査しに行ったパーティーから既に一人残らず倒された後だったらしい」

「死神、ですか」


脅威度B以上の魔物には死神と呼ばれるものも居る。

リッチやデュラハンなどの不死の魔物やナイトアサシンなどの暗殺に特化した魔物だ。

でもそんな魔物が出たとなったら一大事のはずなんだけど。


「ああ、安心しなよ。ここいらで言う『死神』ってのは魔物じゃなくて恐らく凄腕の冒険者の事だから」

「恐らく?」

「誰もその姿を見たことがないのさ。

だけどそれが現れた後には盗賊や討伐が困難な魔物が討伐されていくけど行商人などの一般人には被害が出たことは無い。

だから私達は畏怖の念を込めて『死神』と呼んでるだけなのさ」

「どうしてその人は名乗り出ないんでしょう?」


事後報告でも報酬は貰えるはずだし、冒険者ならちゃんと依頼を受ければランクアップにも繋がる。

それなのにそんなこっそり動かないといけない理由ってなんだろう。

一瞬あの仮面からジンさんの事が思い浮かんだけど、普通にギルドに顔を出してるし、なによりずっと私と一緒だったんだから盗賊を討伐する時間なんて無かったはず。

だから少なくともジンさんは死神ではない。


「さあね。何か事情があるんだろうけどさ。

お陰で本来依頼の報酬として用意した金が宙に浮いちまうもんだから全額『蒼天』の運営費に回してるよ」

「それは、ありがとうございます。私も『蒼天の子供』なので」

「おお、そうかい。頑張ってるみたいじゃないか。

これからもその調子で行くんだよ」

「はい!」


おばさんに激励を受けつつ私はジンさんの元に戻った。


「行きましょう」

「もう良いのか?」

「はい。先日の盗賊がどうなったのか気になってたんですけど、死神が出たらしくてもう討伐された後でした」

「そうか」


特に気にした感じも無いジンさん。

元々興味なかったみたいだし、そんなものかな。

ジンさんなら死神の事も前から知ってただろうし。

それよりも町を出た私達には重大な問題がある。


「昨日みたいにロープで引いて人攫いと勘違いされるのも困るしな。

今日は走るリーンを後ろから鞭を持って追い立てるか……」

「あ、あの師匠?見た目と外聞という意味ではむしろそれ悪化してませんか?」

「冗談だ。かわりに、そうだな。

最初は逆立ちで両手で飛脚術……この場合は飛腕術になるのか?まあいいか。

まずは魔力が尽きるまでそれで走るところから始めよう」


言うが早いかジンさんは私に横から足払いを掛けつつ腰を掴んでぐるんと私を回転させた。

昨日も騎士相手に凄かったけどジンさんは体術も会得してるみたい。

でも言ってくれれば逆立ちくらい自力でやるのに。

むしろ目が回ってくらくらするんですけど!


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