第22話:このロープはいったい……
いつもありがとうございます。
今回の作品は前作よりも自由に、本当に自由に進行しています。
お陰で修業は全然進まないし、割り込みで新キャラは出てくるし。
これらが後から絡み合って重厚な音色を奏でてくれることを期待してます。
ラフィカさんは続いて運ばれてきたフルーツの盛り合わせを摘まみながら楽しそうに私に話しかけてきた。
「それで、リーンは師匠に何をお願いしたの?」
「えっと雷神公のような冒険者になりたいって」
「おおぉ。雷神公!いいね。夢はでっかくだね!」
まるで自分の事のように喜ぶラフィカさん。
「ラフィカさんは何を?」
「私?私はあれだ。故郷を蹂躙しやがったサイクロプスどもをぶちのめして欲しいってね。
そしたら師匠ってば酷いんだよ?『復讐なんぞに手は貸さん。自力で何とかしろ』って言うんだもの」
そう言いつつも全然悲しそうじゃないし、ジンさんの事を師匠って呼ぶって事は結局色々教えてもらえたって事だよね。
「師匠のことだから嫌な顔しつつも何とかしてくれたんですよね?」
「まあね。
『手は貸さないが鍛えてはやる。しかし復讐で終われると思うなよ。
教えてやった分は後で身体で返してもらうから復讐が終わったらさっさと戻って来い』
とか言っちゃってさ。
要するに無事に帰って来いよって事なんだけど、師匠って恥ずかしがり屋だから素直にそう言えないんだよね」
あ、分かる気がする。
ジンさんって口でなんだかんだ言いつつも凄く気を遣ってるところがあるよね。
ちなみにジンさんは今、フルーツを口に運びつつそっぽを向いて知らん顔だ。
仮面が無かったら赤くなった顔が見れたかもしれない。
「しかもだよ。
身体で返せ、なんて言うからてっきり俺の子供を2、3人産めって事なのかと期待して帰って来てみれば、向こう5年間は冒険者として各地の魔物を討伐して回ることってそれだけだよ!
もう思わず師匠を押し倒してやろうかと思っちゃったね!」
「あ、あはは……」
まあそれもジンさんらしいというかなんというか。
私だって家に連れ込んでおいてなにもしてない訳だし。
あれでも、もし仮にそれでジンさんに迫られたらラフィカさんはオッケーしちゃってたって事だよね。
でもラフィカさんは私より小さい訳で……え?
「あの、ラフィカさんはお幾つなんですか?」
「ん?ああ。22歳さ。こう見えてちゃんと成人してるし子供だって産めるんだよ」
「そうだったんですね。てっきり年下なのかもと思ってました」
「まあ人族よりも幼く見えるのは仕方ないさ」
楽しげに笑うラフィカさん。
身長140センチでジンさんと並ぶと、それこそ親子で通りそうなのに子供を産めるのかぁ。
人体の神秘だね。
と、ここでようやくジンさんが話に入ってきた。
「それで今日はどうしてここに?」
「そりゃあ師匠に会いに来たのさ。
依頼を終えて戻って来たら仮面を着けた怪しい男が来たって噂になってたし」
「そうか」
「……師匠」
やっぱり何処まで行ってもこの仮面は目立つらしい。
大通りを見れば時折仮面を着けた人はいる。
女性であったりどこかの貴族なのかもしれないけど、いずれもお洒落でファッションだと思える。
対してジンさんのは無骨で実用重視、酷い言い方をすると呪いの仮面でも通りそうだ。
でもちゃんと仮面から覗く目を見れば優しげで、その眼差しをラフィカさんに向けたままおもむろに手をラフィカさんの頭に乗せた。
「まあ噂は色々聞いている。頑張っているみたいだな」
「~~っ、師匠!」
ぽんぽんっとジンさんが優しくラフィカさんの頭を撫でるとラフィカさんの全身が淡く光を放った。
それを受けてラフィカさんは感極まったようにジンさんの腰に抱きつく。
「はふぅ。やっぱり師匠の頭ぽんぽんは最高っす。
師匠~、師匠~」
「こらくっつくな。気が済んだら帰って寝ろ」
「師匠とですか!?」
「ひとりでに決まってるだろ」
若干幼児退行した感じのラフィカさんを邪険にするジンさん。
と言っても今この瞬間もジンさんの手はラフィカさんの頭の上なんだけどね。
そうして10分くらいジンさんのなでなでを堪能したラフィカさんはようやく立ち上がった。
「ふぃ~。あまり妹くんから師匠を奪うのは良くないから今日のところはこれくらいで勘弁するかな。
ではでは、またね~」
そう言ってラフィカさんは来た時同様、颯爽と立ち去っていった。
ものすごい身の変わり様だ。
「……師匠のなでなでってそんなに気持ち良いんですか?」
ついそう聞いてしまった私にジンさんは意味ありげに笑ってみせた。
「気になるなら明日体験してもらおう」
「え……」
それは死ねと仰ってる?気のせいだと良いなぁ。
そして翌朝。
冒険者ギルドで港湾都市向けの依頼を見繕った後、王都の外までやってきた。
それは良いんだけど、なぜか私の腰にはロープが巻き付けられ、その端をジンさんが持っている。
「あの師匠?この腰に巻かれたロープはいったい……」
「そんなの決まってる」
なぜか物凄く嫌な予感がするんだけど。
それを肯定するようにジンさんが走り始めた。すごい速さで。
ロープで繋がれた私も当然一緒に走るしかない。
「師匠。速すぎ!」
「安心しろ。まだただの全速力だ」
ただの全速力って。それどこにも安心する要素ないよ!
そして1時間と経たずに私は地面とお友達になっていた。
ていうか、おかしくない?
行きの時はさっきのと同じくらいの速度でまる1日走り続けても何ともなかったのに。
「ほら立て」
「うっ、はい」
「よし」
何とか立ち上がった私の頭にジンさんの手が乗っかる。
するとさっきまで立つのもやっとだったのにみるみる体力も魔力も回復していった。
まるでジンさんからエネルギーが流れてくるようだ。
なるほど。これがジンさんの頭ぽんぽん効果なんだね。
もしかしたら行きの時は、おんぶしながら今のと同じことをずっとされてたのかも。
「ではもう一度行くぞ」
「うひぃ」
思わず変な声が出た。
ジンさんは気にした様子もなく、先程同様に全力疾走。
もちろんロープで繋がれている私も走るしかない。
走っては休みを何度か繰り返した頃。
「止まれ人攫い!我が剣の錆びにしてくれる」
前方から騎乗した一団が来たなと思ったら突然そんな事を言ってきた。
時々、ふとエッセイとかを書きたくなる症候群ってありますよね。
こちらも気分転換にどうぞ。
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