第21話:ジンさんには不釣り合い
最後まで残っていた私がジンさんにタッチしたことでこのゲームは無事に終わった。
後ろを振り返ってみれば先に膝をついたり座り込んでいた人達がそろって青い顔をしている。
何があったのか、なんて聞くまでも無いね。
「師匠。もしかしてさっきの後ろの人たちにも効いてたんですか?」
「まあな。言っても距離によってかなり緩和されるからリーンが受けたのに比べればそれ程大したことは無い」
ジンさんの大したことは無いは彼らにとって重大だとおもうんだけど。
「あれぐらいで参るようなら実際の魔物を前にしたら動けなくなって死ぬだけだ。
突然想定外に強力な魔物に出くわしても普段通りの力を発揮できるようにしておくのは生き延びるには必須の能力だからな。
リーンには今後定期的にオーガ以上の殺気に慣れる修行も行うからそのつもりでいてくれ」
「はい!」
オーガの次に翼竜が出てきたって事は、翼竜の方が魔物の脅威度的には上って事なんだと思う。
ならオーガの恐ろしさくらい余裕で弾き飛ばせるようにならないとね。
青い顔でへたり込んでいる人たちを横目に私達は一足先に訓練場を後にした。
見学に来ていた年配の冒険者の人たちが楽しそうに「後の事は任せろ」って言ってたし大丈夫だろう。
「ちなみに、お前に耐えれてあいつらに耐えられなかった理由は分かるか?」
「え?えっと……身体強化をしてたかどうか、ですか?」
「30点。勿論強化してた方が良いけどな。
一番は修羅場を潜り抜けた数だ」
え、修羅場って言われても冒険者になってから私は廃村の件くらいしか身に覚えがない。
普通に考えれば彼らの方が何度も依頼を達成してる筈だし経験も積んでる筈なんだけど。
でもそれは大きな勘違いだった。
「奴らは翼竜に襲われる恐怖を知らない。
王都はな。10年前の災厄の被害を受けてないんだ」
「えっ!」
「考えても見ろ。ここには強力な軍隊は居るし、ここまでたどり着いた翼竜もせいぜい数百が良いところだ。
俺はその時居なかったが街に被害が無かったのは見れば分かる」
「あ、それで古いって言ってたんですね」
そっか。
港湾都市の方は10年前に軒並み破壊されたから新しい建物が多くて、逆に王都は昔のままの建物が残っていたんだ。
「だからさっきのやつらは本物の恐怖を知らないのさ。
だけどリーン。お前は違うだろ?」
「はい!」
うん。
10年経った今でもあの時の恐怖は忘れていない。
そして助けられた時の喜びも。
「それはそうとして、リーンは王都見物とかしたいか?」
「いえ、特には」
「そうか。まあ言ってもこれからちょくちょく来ることになるんだけどな?」
「そう、なんですか?」
「ああ。今後は今回と同じような依頼を定期的に受けてもらう予定だ。
それは体力づくりって意味もあるし、他にも幾つかメリットがあるからな」
「分かりました」
詳しく教えてくれないのは自分で考えろって事かな。
もしくは実際に体感すべき事なのかもしれない。
「よし。なら王都の旨いものでも食べに行くか」
「お供します」
言ってジンさんが向かったのは甘味所。
なにか物凄くジンさんには不釣り合いだなって思ってしまったのだけど失礼かな。
あ、でも他のお客さんも軒並み「うわっ、何あれ」みたいな目でジンさんを見てる。
「こういう店は俺ひとりだと来にくいからな」
「で、でしょうね」
「こうして誰かと一緒の時だけのお楽しみって奴だ」
「あぁなるほど」
確かにジンさんに向かった視線は続いて私の所に来て納得して離れていく。
……ん?
これって周りからどう見られてるのかな。
で、デートとか?
あ、でもジンさんにそういう気はなさそうだ。
「……私たちってどう見えるんでしょうね?」
「普通に冒険者仲間か、歳の離れた兄妹か。親子では無いことを祈ろう」
「あ、はは」
親子は流石に。でも都会は進んでるから若い内に結婚出産も多いのかな?
私?結婚は憧れるしお母さん達みたいに素敵な家庭を築けたら良いなとは思うけど、まずは雷神公の後を継ぐのが先だし相手も居ないし、ジンさん?ないない。私はもっと優しくて思いやりがあって困ってる人が居たら飛んで駆け付ける正義感の持ち主じゃないとやっぱり……
「ああーっ。やっぱり師匠だ!」
「ん?」
「え?」
ちょっと物思いに耽って居たところを思いがけない言葉に現実に引き戻された。
見れば茶色のショートヘアに犬耳を生やした少女が風のように飛んできてジンさんのケーキにかぶり付いていた。
「あ、こら。それは俺のだ」
「良いじゃん。師匠のものは仲良くシェアしないと、ね♪」
「ね♪じゃない。欲しいなら自分で注文しろ。金ならあるだろ」
「いやいや。師匠の食べかけってのが良いんじゃないか」
「どこがだ!」
うん、どこがだろう。
と、唖然と見ていた私と少女の目が合った。
瞬間にぱっと笑う少女。
「おお、これはもしかしなくても妹くんだね!」
「い、妹!?」
「いやいや皆まで言うな。分かっている。分かっているとも。
君もこの怪しい仮面の師匠になにかあると見込んで弟子入りしたのだろう。
実は私もなんだ。去年まで弟子として行動を共にしていたのだか晴れて念願が叶ったので一人立ちしたと言うわけさ」
「はあ」
凄い連撃トークで口を挟む間もない。
それでも彼女もジンさんに弟子入りしてたということは分かった。
それで妹(弟子)ってことなんだね。
「えっと私はリーンと言います」
「これは私としたことが名前も名乗って無かったね!
私はラフィカ。見ての通りの狼族さ」
ニカッと笑えば鋭い犬歯が見えた。




