第18話:昨日より重くないですか?
結局その日は盗賊に遭遇した後に最初に見つけた町で宿を取ることになった。
私は体力もだけど、肉体の限界を迎えてご飯を食べ終えたら倒れ込むようにベッドに入った。
約半日。
身体強化をしたうえでの全力疾走+遭遇戦。
ついでに言えばジンさんを背負った状態で、だ。
自分のことながらなんで途中で倒れなかったのかが不思議なくらいだが、今はそれを考える余裕もない。
「明日は日の出と共に動くぞ」
「はい……」
ジンさんのそんな声を聞きながら私は深い眠りの中へと落ちて行った。
目を開ければ明日になっていた。
疲労のせいか夢も全く見なかったので感覚的には目を閉じて開けただけで時間が飛んだ気がする。
声のする方を見れば既に起きていたらしいジンさんと目が合った。
「起きたか。なら朝食を食べて出るぞ」
「はい」
昨夜は気にする余裕は無かったけど、そう言えばジンさんと同じ部屋だった。
その方が安いのは分かるし、今更ジンさんが私に何かするとは思ってはいないので問題は無いんだけど、宿の人とかにはどう見られてるんだろう。
1階の食堂で朝食を受けとりながら宿の女将さんを見てみるけど特に気にしてないっぽい。
まぁ職業意識から客の内情には踏み込まない様にしてるのかもしれないし、色々思っていても表情にはださないか。
と、そうだ。
「師匠。町を出る前に衛兵の詰所に寄りたいんですけど」
「盗賊の件か?」
「はい」
「なら必要ない。ここの衛兵が無能じゃなければ既に存在は把握しているはずだ」
「え、それならどうして討伐しないんですか?」
「そりゃお前。盗賊だって馬鹿じゃない。
兵士がやってきたら逃げるなり隠れるなりするだろう」
あ、それもそうか。
どこかに拠点を構えてるにせよ、襲撃地点の近くでは無いと思うし、見張りの1人や2人居るだろうから危険を察知したら逃げるよね。
「ああいう奴は明らかに獲物と思える奴しか狙わないからな」
続いたジンさんの言葉に疑問を覚える。
「それって私達が獲物に見えたってことですか?」
「それはそうだろう。
なにせ大人の男性を背負った少女が慌てて街道を走ってるんだ。
傍から見れば道中で魔物に襲われて怪我をした父親を運ぶ娘と勘違いされてもおかしくない。
金を持っているかはともかく、奴らにとって年ごろの娘はそれだけで良い獲物だからな」
なるほど。言われてみればそうか。
でも大の大人を背負って全速力で走る少女って、よく考えれば普通じゃないと思うんだけど。
そこまで頭が回らなかったのかな。
それにあっさりと彼らの囲みを突破出来たし、そんなに強い人達じゃなかったのかもしれない。
もしくは。
「実は私って結構強くなってたりしますか?」
「勘違いするな。あれは向こうが油断していたにすぎん。
奴ら身体強化も碌にしてなかったし、姿を見せればこっちがビビッて止まると思って、林に隠れてた奴らは牽制の矢すら準備してなかったからな。
きちんと態勢を整えていたらEランクの冒険者パーティー程度の脅威度はあった」
Eランクって言う事はシーミアさん達くらいってことかな。
彼らと戦う所を想像したら、多分1対1でも厳しいんじゃないかって思う。
「さ、それよりも食べ終えたなら出るぞ。急がないと昼までに王都に着けなくなる」
「あ、はい」
慌てて食器を返却して宿を出た後、町の外で昨日と同じようにジンさんを背負う。
「あの師匠。急ぐなら師匠も走ってくれた方が速いと思うんですけど」
「それはそれだ。こうしないと修行にならないだろう?
それより口だけじゃなく足も動かせ。キビキビ全速力で走る」
「はぁい」
釈然としないものを感じながら街道を走る。
ただその足は昨日に比べると若干重い。
身体強化は問題なく出来てると思うし出来てなかったらジンさんから叱責が飛ぶので大丈夫だと思う。
ということは昨日の疲れが抜けきっていないのだろうか。
いや、違う。
「師匠。昨日より重くないですか?」
「よく気が付いたな」
いやよく気が付いたなってどういう事?
勘違いじゃなければジンさんから掛かる重圧が2割増しくらいになってる。
「リーンは若いからな。
一晩寝ただけでしっかりと肉体は成長している。
なら更なる成長を促すにはそれに見合った負荷を掛けてやればいい。
予め厳しい修行になると宣言してたよな」
「い、言いましたけど」
これもその一環だったのか。
どうやってるのかは分からないけど師匠は昨日より重いらしい。
ただ幸い今のところ魔物や盗賊の妨害は無いので昨日と同じペースで走れている。
やっぱり王都の近くは盗賊も少ないのかな。衛兵の監視とかも厳しそうだしね。
お陰で私は止まる間もなく王都まで駆け抜けることになってしまった。
「はぁ、はぁ。ここが、王都」
「そうだ。リーンは来るのは初めてか」
時刻は11時前後と言ったところかな。何とか間に合った。
外門の前でジンさんを降ろすと一気に疲労がやって来たのか、へたり込みながら息が切れてしまう私。
身体が重い。
さっきまで意気揚々と走れていたのが嘘のようだ。
「ほら立て。荷物を届け終えるまでが依頼だ」
「は、はい」
ジンさんに手を引かれるようにして立ち上がった私はジンさんの後に続いて王都の中へと入った。
ちなみに検問は冒険者証と依頼証を見せたらすんなり通れた。
仮面を付けてるジンさんは不審人物に思われないかなと心配したけど杞憂だったみたい。




