第12話:申し訳ありませんでした
いつもありがとうございます。
今回の作品はリーン視点で通してるせいで師匠やその他の人達の思惑だったり裏で何やってるのかが出しにくいんですよねぇ。
後書きでその辺りの裏話を書くか閑話にするか考え中です。
ゴブリンの中にひとり取り残された私。
恐らく囮というか魔物の注意を逸らすために捨てられた、裏切られたと言っても良いのだろう。
でもそれに対して怒ったり文句を言ったりするのは今じゃない。
「ギギッ」
「ぐげげっ」
「くっ。まずはどうにか逃げないと」
1体2体ならどうにかなるゴブリンも、囲まれた状態で数百体を相手にするのはどう考えても無理がある。
ならどうにかして逃げるしか生きる道はない。
と言っても地上は魔物で埋め尽くされてるんだけど。
「地上が無理なら空に逃げれば良いじゃないの、よっ」
「ぐへっ」
私は襲い掛かって来たゴブリンを踏み台にしながら大きく飛び上がる。
ゴブリン達は私が落ちてくるのを待ち構えているけど、残念でした。
「『飛脚術』!」
自分の両足に魔法を発動させる。
この魔法は読んで字のごとく足で飛ぶ魔法だ。
まるで空中に見えない板があるかのように私は空を踏みしめて身体を斜め上方へと持ち上げる。
私の使う飛脚術だと緩やかな階段を駆け上がるようにしか使えないけど、達人になれば壁を登るように垂直に駆け上がったり、逆さまになって真下にジャンプしたりも出来るらしい。
今はゴブリンの包囲から逃げるだけなのでそんな複雑な機動は出来なくて良いんだけど。
上空3メートルくらいまで上がればゴブリン達ではジャンプしても届かない。
ゴンッ
「あいたっ」
背中に石か何かがぶつかって来た。
どうやらゴブリンが手に持っていた武器を投げつけてきたらしい。
そりゃそうか。ゴブリンだって無能じゃないんだから届かないならものを投げればよいって結論に至るのも当然だ。
私は次々と投げつけられる石やこん棒を空を走り回りながら避ける。
「くっ。数が多い」
時間が経つごとにどんどんゴブリンの数が増えてる気がする。
避けるので精一杯でなかなかゴブリンの囲いを抜け出せないし、時間が経って辺りが暗くなってきた。
そうなると飛んでくるものもゴブリンの姿も確認しにくくなる。
誤算だったのはゴブリンの方が夜目が利く点だ。夜になって私を見失ってくれたらという期待は持てそうもない。
飛脚術は曰く放出系の魔法に相当するからそう長くは維持できないし。
「こうなったら投石を無視して一直線に駆け抜けるしかないか」
一か八かの賭けに出ようとした私に追い打ちをかけるように空が光った。
ゴロゴロゴロッ。ザアーーーッ
曇っていた空から遂に大雨が降って来た。
そして何よりまずいのはただの雨雲じゃなくて雷雲だって事だ。
自然の雷が高いものに引き寄せられるから雷雲がある時は空を飛んではいけないのは常識だ。
早く地面に降りないと格好の的だ。と言っても地上にはまだゴブリンが犇めいている。
「くっ。どうすれば」
呟いた私の声は雨音にかき消され、次の瞬間激しい閃光と共に私の意識は途絶えた。
……
気が付けば私は地面に倒れていた。
いまだに辺りは暗く大雨が降り注ぎ空から雷鳴が聞こえてくることから、意識を失っていたのはそれ程長い時間じゃなかったみたいだ。
全身が酷く叩きつけられたように痛いけど、動けない程じゃない。
何とか起き上がって周囲を確認してみれば、私を中心に地面が焼け焦げていた。
どうやら落雷の直撃を受けて地面に墜落したみたいだ。
……それにしては自分が無事なのが不思議過ぎる。
私の周りには巻き添えを食らったであろう炭化したゴブリンの死体もあるし、私もそうなっていても不思議じゃないはず。
「ってそうだ。ゴブリンは?」
落雷の影響かほとんど音が聞こえないんだけど、辺りを見回しても沢山いたゴブリンの気配がない。
ゴロゴロゴロッ、カッ!
再び稲光が辺りを照らし、そこに立つひとりの人物の存在を私に伝えた。
その人は私が立ち上がっているのを見て、ゆっくりとした足取りで近づいて来てこう言った。
「街の外をランニングしてろとは言ったが、随分遠くまで走って来たんだな」
まるで散歩に行った公園で偶然会ったような気軽さで挨拶してきた片腕の男性は紛れもなく見知った人で。
「え……師匠?」
「おう。まあ雨の中、立ち話もなんだ。
近くにある廃村の家で休みながら話そう」
「は、はい」
なぜこんなところに師匠がいるのかとか分からない事だらけだったけど、とにかく師匠の後に続いて廃村、私達が依頼を受けた村へと向かった。
村長宅と思われる比較的大きな家の中に入り、暖炉に火を灯しながらタオルで頭を拭きつつ一息つく。
どうしよう。ここはやっぱり謝るべきだろうか。師匠の指示を無視して依頼を受けてここに来てしまった事を。
でもさっきの師匠の言葉は見なかったことにする、という意味だったようにも思えるし。
ううん。こういう時に甘えるのは良くないと思う。
「師匠。申し訳ありませんでした」
「何が?」
「その、師匠の命令を無視して依頼を受けたり街から離れたことです」
「ふむ。そうか」
師匠は短く返事をするだけだった。
「あの、やっぱり怒っていますか?」
「いや。そうでもない。幸い君は大きな怪我を負う事も無くこうして無事だったしな」
「ほっ」
ジンさんの言葉にほっと安堵した。
でも次の言葉を聞いて私は冷水を浴びせられる思いがした。
「俺がまだ師匠として尊敬されてもいなければ信用されてもいないのは分かってるからな」
だから指示通りに動かないのは自分のせいだとジンさんは自嘲した。
やっぱり、ジンさんは私の気持ちなんてお見通しだったんだ。




