第11話:静かすぎませんか
街を出て2日。
私達は道中に出てくる魔物を倒しつつ目的地の村を目指していた。
「いやぁ、リーンちゃん強いね。
Gランクだって言ってたから戦えないんじゃないかと思ってたんだよ。
その時は馬車の面倒を見てもらえば良いかなと思ってたんだけどね」
「ゴブリンとかの最下級の魔物なら故郷に居た頃にも相手したことがありましたから。それに」
「それに?」
「いえ、何でもないです」
思った以上に体が軽くて力強く動くんだけど、それはきっと身体強化のお陰というかこの魔導着のお陰だと思う。
つまりジンさんのお陰なんだけど素直に認めたくない自分が居る。
あの人は私を放り出して今頃どこで何をやっているんだろう。
ま、私の事なんて面倒なお荷物くらいにしか思っていないんだろうけど。
じゃなかったら大した指示も無く置き去りにするなんてしないと思う。
「にしても生憎の曇り空か。こりゃいつ降って来てもおかしくないな。
早く村を見つけて降り出す前に空き家の一つでも借りないとな」
掲示板では片道4日と書いてあったけど、荷馬車で移動する私達なら半分の2日で辿り着けるはず。
だからもうそろそろ見えて来てもおかしくないはず、なんだけど。
「ギギッ」
「ちっ。またゴブリンか。それも20体」
「距離のあるうちに減らします。
シーミアとマヤーレ、それとリーンちゃんは近くに来るまで待ってくれ。
コニーヨやるぞ」
「おう」
弓を構えるカーネさんと杖を構えるコニーヨさん。
ふたりの放つ矢と魔法でゴブリン達が吹き飛ばされていく。
特にコニーヨさんの放つ炎弾が纏まっているゴブリンを粉砕していった。
こうして見るとやっぱり魔法は強力だ。
私も早く攻撃魔法を覚えたいな。
「よし、行くぞ」
「おう」「はい!」
残りが6体に減ったところで私達も武器を持って突撃する。
シーミアさんが剣と盾のオーソドックススタイル、マヤーレさんは長剣を両手で扱うソードマンスタイルだ。
そして私が小剣で駆け抜けるスピーダースタイル。
3人の中では私が一番早い。
なので真っ先に私が1体のゴブリンに切り掛かり、そのまま向こう側へと走り抜けた。
怒ってこちらを振り返ったところでシーミアさんのシールドバッシュが叩き込まれ、挟まれてどちらの対応をすべきかと悩んだところにマヤーレさんの必殺の一撃が突き刺さる。
はっきり言ってオーバーキルだ。
「増援だ!」
「ちっ」
道の先から更に10体のゴブリンの姿が見えた。
「流石に多すぎない?」
「そうだな。もしかしたら近くにコロニーを造られたのかもしれない」
「コロニー……」
魔物がどこからどうやって生まれてくるのかは分かっていない。
ただ地域性はあって、この辺りはゴブリンと呼ばれる小鬼型の魔物は多いけどリザードマンと呼ばれる鱗を持つ魔物は滅多に現れない。
そして一部の魔物はコロニーという人間でいう街のようなものを作る習性のあるものが居る。
コロニーを造られてしまうと同種の魔物が通常より数倍の早さで増殖することが知られている。
このゴブリン達もそうしたコロニーで異常繁殖した可能性があるということだ。
「とにかく、この先にある村に逃げ込むぞ」
「「おうっ」」
私達は馬車と並走しながら邪魔をするゴブリンを突破していった。
そして日が暮れる前になんとか村を見つけた。
村の広場まで進み、後ろからゴブリンが追いかけてこないことを確認して、ようやく一息つくことが出来た。
ここに来るまでに50体以上のゴブリンが居た。どう考えても異常だ。
「くそっ。ゴブリンのコロニーが近くにあるとか完全に割に合わねぇぞ」
「帰ったらギルドに交渉しましょう。これは低く見積もってもEランクの依頼です」
「だな。もう大銅貨5枚分の仕事はしただろう。
とっとと村長あたりに挨拶して帰ろうぜ」
「……」
「……」
そう口々に文句を言うシーミアさん達。
でも私と、あとコニーヨさんは黙って辺りを警戒していた。
だって余りにもおかしいから。
「あの、この村静かすぎませんか?」
「あん?」
「そうだね。俺達が荷馬車で慌ただしく村の中に入ってきたのに誰一人顔を出さない」
「それにそろそろお夕飯の時間ですから、炊飯の匂いがないのも変だと思います」
「……おいおい。ちょっと待てよ!」
1つの予感を胸に私達は手近な家の中に入った。
そこには人の気配はなく、代わりに薄っすらと埃が積もっていた。
隣の家も、その隣の家も、もう何日も人の出入りの形跡がなかった。
「誰かー!誰か生存者はいないか!!」
「馬鹿よせっ」
「むぐっ」
大声を上げたシーミアさんを慌てて止めるコニーヨさん。
でも既に手遅れだったみたいで、声に誘われて出てきたのは村人ではなくゴブリン達。
それも私達を取り囲むように数百体も。
「ちっ。仕方ない。逃げるぞ。乗り込め」
シーミアさんの言葉に従って全員が荷馬車に乗り込むとゴブリンの壁に突撃していった。
ゴブリンは小柄だから荷馬車が当たり負ける事は無い。けど流石に速度は落ちる。
これは包囲を突破する前に追いつかれてまた囲まれてしまいそうだ。
そう思ったところで私の身体は宙に浮いていた。
「え?」
「すまん。後を頼む。きっと助けに来るから」
どうやら私はシーミアさん達の誰かによって荷馬車から投げ捨てられたらしい。
そんな、そんなことって。
地面に落ちた私を無視して荷馬車は走り去って行き、私一人がゴブリンの中に取り残された。