到着
歩き続けている内に、だんだんと城壁の様子が見えてきた。入口らしい門の前には、中世の鎧を着た兵が二人、先程横を通り過ぎていった馬車がちょうど入国の手続きをしているらしい。馬車に乗った行商人の様な男が懐から一枚の板の様なものを見せ、それを受け取った兵は、男の馬車の中身を確認する。兵が右手を上げると、馬車はそのまま門をくぐっていった。
…男が兵に見せていたものが気になるな。許可証か、又は身分証明書か。どちらにせよ、俺はそんなものを持っていない。無くても入れないことは無い筈だが、いくつか質問をされる事は確実だろう。書類だったとしても、出身地などの項目は書く事ができない。
あまり気は進まないが、背中で寝てるこの少女に聞くほかないだろう。
声をかけながら背中を揺らすと、微かに聞こえていた寝息が止まる。
「休憩するんですか?…あれ?…すみません、いつの間にか寝てしまってました」
「疲れてたんだから、気にしないで。それより、もう門が目の前なんだけど、このまま行っちゃって良いのかな?他の所と同じ感じで入国できる?」
「え?はい、そうですね。基本は他の街と変わらないと思います。ギルドカードなどを使って入るか、持ってない場合は審査を受けるかの二択です。…ありがとうございました。もう降ろしてもらって大丈夫です。」
「俺は、後者になりそうだな…。君は?」
「名前を教えたのに呼んでくれないんですか?…メアナでいいですよ。」
「えっと…メアナは?」
「実は…私も同じになりそうです。」
そう言うと、メアナはポーチの中からお面を取り出して身に着けた。シンプルなデザインで、メアナの髪色と同じく、明るい緑色の模様がついていた。
「これで大丈夫です。行きましょう。」
彼女の行動に違和感を覚えたが、宗教などの理由があるのかも知れない。結局、詳しい事を聞こうとせず、他に気になった事について聞く事にした。
「そのお面、明らかにそのポーチより大きいよね。どうやって入れたの?」
「これですか?実はこのポーチ、ラージポーチなんです!安物なのでそこまで入りませんが、それでも一人旅には十分な量が入るんですよ」
「そうなんだ。聞いた事はあったけど、実物は初めてみるから驚いたよ。その見た目は指定して作って貰ったの?いいデザインだね」
まるでラージポーチを知っているかの様に話されたため一応はのっては見たが、重要な情報は一切得られなかった。
結局、何もわからないまま審査を受ける事になった。メアナが言うに、とりあえず嘘さえつかなければ良いらしい。促されるままに正体不明の石板に手を置き、そのまま質問に答えていった。途中、出身地を聞かれた際は焦ったが、日本とだけ言うとそのまま通された。
「無事に入れましたね。」
「ああ、意外といけるものなんだな。もしかして日本って意外と知られてたりするのかな?」
「いえ、少なくとも私は聞いたことがないですね。でも、重要なのは虚偽の報告をしたかどうかなので大丈夫だったんです。ほら、机の上に四角い魔道具がありましたよね?あれは、話す人の声の高さや動悸、目線などから嘘を判別する魔道具なんです」
...また知らない単語が出てきたな。魔道具...か。また今度にでも調べてみよう。
「そうなんだ...まぁ、おかげで助かったけど。それで、仮の身分証をもらったけど、正式なものってどこでもらえるんだ?」
「それは、役所に行ったりギルドで貰ったりと色々ですね。そこに定住するなら役所で色々手続きが必要ですし、職業柄頻繁に移動するハンターはギルドから発行されるギルドカードが身分証の代わりになります」
「どっちの方がいいと思う?」
「個人的にはギルドカードですね」
「そっか、じゃあちょっと待ってて」
近くを通りかかった人を観察する。ラフな格好の人もいれば、まるで兵士のように鎧を着込んだ集団もいる。間違っていたら恥ずかしいが、おそらく後者がハンターと呼ばれる集団なのだろう。
「すみません!...」
話しかけて、ギルドの位置を聞くと快く教えてくれた。
「場所はわかったから、とりあえず行ってみよう」
そう言うと、メアナは、はい。と答えてついて来た。
謝罪