表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異なる世界の永遠達へ  作者: ニア
6/23

野宿

足が重い。地面が砂であるため、思うように足が進まない。踏み込んだ足が砂に埋もれ、地面を蹴ろうとした足先が砂を巻き上げて空を蹴る。


 後ろを確認すると、自分から4〜5m程度の距離を保って追いかけてくる黒い波が見えた。先程より少しは離せただろうが、それでも油断できない位置にいる。ひとたび転べば、命の保証はないだろう。しかし、転ばないよう気をつける、なんて事をする余裕も無い。ただひたすらに全速力で逃げている。


 目指すは、前方に見えている森。500メートルはあるだろうが、今の速度ならあと30秒くらいだろうか。体力自体にはまだ余裕があるし、森の中に入れば、地面がしっかりとしているため今よりも早く走れるだろう。そうすれば、逃げ切る事も出来る筈だ。


 そんなことを考えながら走っているうちに、何とか森の中に入ることができた。どういうわけだか、森の中に入った途端に、例の波は追いかけるのをやめて、そこから先に入ってこようとしなかった。念のため姿が見えなくなるくらいまで走ったが、そこからアレの気配がしなくなった。ひとまずは落ち着いていいと思う。


 近くの木に背をつけて、そこから滑るように座り込む。安堵するかのように大きくため息をついた。砂浜をこれほど走ったのは随分と久しぶりだったが、意外と呼吸は落ち着いていて体力も余裕があった。だが、それにしても…


「何だったんだ、あれは…」


 クラゲみたいな体に、タコのような触手。まるで、液体が意志を持って動いているかのような見た目をして、襲いかかってくるとは。あんなものがそこら中にいるのだとしたら…、考えただけで恐ろしくなる。

 しかし、絶対に無いとも言い切れないのは事実だ。安全を確認できるまで、ここから動かない方が賢明だろう。ただ、動かないにしても明かり、特に火が必要だ。海が近いためか風が少し吹いてくる。風自体は冷たく無いのだが、それでも少し寒さを感じる。それに、野生動物を追い払うのにも有効だ。火がある場所には基本的に近づかないだろう。


…静かだな。


 風が吹いているのにもかかわらず、木々は一切揺れていない。木々が揺れる音も聞こえて来ない。動物が動く音も、全く聞こえない。暗い森の中にたった一人でいるという事実に、恐怖よりも孤独感が勝った。

 なぜこんな事になってしまったのだろうか。突然、自分が積み上げてきた物との繋がりを断たれ、見ず知らずの土地に投げ出されて。こんな時に冷静さを保っていられる自分が、頼もしくも感じるし、心配にもなる。この冷静さが、自信による物なのか、それとも諦めによる物なのかが分からないから。

 いざという時に、体が動かないなんてことがあったら困る。何としてでも、無事に弟たちの元へ戻らなければならないのだから。


移動は明日の朝にしよう。暗い森の中を歩いていたら、方向が分からなくなって迷ってしまう、それに見通しが悪いため、何かが潜んでいたとしても気付けない。何がいるか分からないこの場所で、この視界の悪さは致命的だ。


 立ち上がり、その場からあまり離れないよう、できるだけ近い位置に落ちている木々を拾い、地面の表層を軽く掘って木を集める。そして肝心の火をつける方法だが、それには丁度あてがあった。可能性の一つでしか無いが、やってみる価値はあるだろう。


 あの時、俺があの城の暗闇の中で光を欲した時に、ライトと呟くとそれに応えるように光球が発生した。例の魔法という物だ。それがどういった仕組みで構成されているのかはさっぱりわからないが、あの時成功した条件とほぼ変わらないならば、成功の見込みは十分あるだろう。


「火よ」


 目の前の薪木に火がつくイメージをしながら呟くと、手のひらの上に小さな火が現れた。どうやら上手く行ったらしい。こうなってくると、発動の条件などが調べたくなってくるが、どういった副作用が起こるか分からないまま試すのは危険だろう。早く安全な場所に行きたいものだ。

 魔法で現れた火は、無事に薪木へと燃え移り、パチパチと音を立てながら揺れていた。体がゆっくりと温まっていくその感覚に心地よさを覚える。


 今夜はこのままここで野宿する事になる。体力を温存するために寝ておきたいが、そうすると火の管理ができない。明日の朝から探索を始めて、食糧や水の確保もしておきたい。火の様子を見ながら、明日からの計画を立てる事にしよう。


 そう意気込んでいた筈なのに、時間が経つに連れ瞼が重くなっていく。必死に目を開こうとしても、目の前で揺らぐ火が眠りを誘う踊りとなって、また意識が遠のいていく。

しばらくする頃には、すでに意識が途切れ、眠りについてしまっていた。

今後の流れを考えていたらいつの間にか一週間が過ぎていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ