006 ご近所さんの感想
モーモータウンは小さな町だが、その存在感は侮れない。町人の多くが牛に関する牧場を経営しており、乳牛と肉牛の両面で公国の食生活を支えていた。帝国領となった今でも、点在する牧場の勢いは衰えていなかった。
「やっぱり人って十人十色だね。優しい人もいれば、怖い人もいた!」
「そうですな」
ご近所さんへの挨拶回りを終わった後、私達は徒歩で買い物に出ていた。生活必需品を調達しながら、挨拶した方々に対する感想を話す。
「バーミリオンさんはいい人そうだったね」
「クーマ牧場のご婦人ですか。頑張っている姿が素敵でしたな」
「じぃや、もしかしてバーミリオンさんに惚れちゃった?」
「ふぉっふぉっふぉ、それはどうでしょうな」
バーミリオンさんは、最初に挨拶したご近所さんだ。
フルネームはバーミリオン・クーマで、乳牛専門のクーマ牧場を一人で経営している。年齢はじぃやと同じくらいで、70~80代といったところ。「主人に先立たれて数年、私も歳なので数頭を世話するだけで精一杯なのよねぇ」というセリフが印象的だった。
「フレッドさんのことはどう思う?」
「野心に満ちていていいと思いましたよ。ミレイユ様は苦手そうでしたな」
「あはは、まぁね」
フレッドさんことフレッド・パーマーさんは、新進気鋭の若い経営者だ。若いといっても31歳なので、私からするとお兄さんである。雷のロゴを看板に掲げていて、巷では「稲妻のフレッド」として名を馳せているらしい。本人が誇らしげにそう言っていた。
フレッドさんの牧場では、たくさんの乳牛と肉牛が飼育されていた。担当するのは雇われた人達で、フレッドさんはそれを監督しているらしい。
乳牛を家族のように可愛がるバーミリオンさんとは対照的に、フレッドさんは完全に家畜として見ていた。全ての牛に番号札を付け、「1番の牛はー、2番の牛はー」といった調子で話していたのが印象的だ。
口調がすごくきついので私は苦手だった。じぃやのことを「おっさん」と呼んだ時は、ジョウロで頭を叩いてやろうかと思った。
「フレッド君のセリフでグッときたのがありますよ」
「そんな名言あったっけ?」
「いずれ食肉と化す対象に愛を抱くと後が辛いからな、というものです。ミレイユ様が牛を番号で呼ぶ理由について尋ねた際の回答ですな」
「たしかにそんなこと言っていたね。私には冷たい人だなぁって印象だったけど」
「そんなことありませんよ。本当に冷たい人間なら、そもそも辛い気持ちにはならないものです」
「あっ、そっか」
「彼はまだ31歳で、牧場経営を始めて数年とのことでしたが、これまでに辛い思いをしてきたのでしょう。その上で今があるのです。口調や振る舞いは粗暴という他ありませんでしたが、根は優しくていい人だと思いますよ」
「じぃやは人のことをよく見ているなぁ!」
「ふぉっふぉっふぉ、伊達に年は食っておりません」
「さっすがぁ!」
買い物を終えたので、寄り道することなく家に戻った。