005 セカンドライフの幕開け
私達はモーモータウンに到着した。
「ミレイユ様、危険なのでお戻り下さい」
「大丈夫だって! じぃやは心配性だなぁ!」
牛に乗って移動する私を見て、じぃやはヒヤヒヤしている。この牛は道中で助けた子で、今ではすっかり懐いていた。
「じぃや、私達のお家はどこー?」
「そこを右に曲がって真っ直ぐ進んだ先にあるはずです」
「ほいほーい」
のんびりした調子で移動する。無事に生きていけるのだろうかという不安はあるけれど、それ以上にまだ見ぬセカンドライフが楽しみだった。
テクテク移動していると、老夫婦が近づいてきた。
「お嬢ちゃん、今日からこの町で過ごすのかい?」
「はい! ミレイユ・ガーネットと申します! よろしくお願いします!」
「牛具もなしに乗りこなすとは、すんごいお嬢ちゃんだねぇ」
「うへへ、ありがとうございます!」
会話をそこそこに移動を再会して、私達は家に到着した。
こぢんまりした二階建ての一軒家だ。石造りで、屋根や壁が真っ白に塗装されている。十分な広さの庭があり、そこには空のプランターが並んでいた。家と庭を木の柵がぐるりと囲んでおり、その周囲には広大な更地が広がっている。その更地も私達の土地だ。
この家は元々、子爵様のご令嬢が別荘として作ったものだ。しかし、完成から程なくして帝国の降伏勧告があり、その煽りを受けて使われることなく売りに出された。おかげさまで、築一年にも満たないピカピカのお家がセカンドライフのスタート地点だ。
「近い内にお家を用意するから今は我慢してね」
「モー」
私達は騎乗している相棒から降りて家に入る。
中には見るからに高そうな家具や食器が残っていて、私達を歓迎してくれた。部屋を見て回りたいところだが、ひとまず居間にあったふかふかのソファへ腰を下ろす。
「紅茶を淹れましょうか?」とじぃや。
「その必要はないよ。じぃやもお疲れでしょ? 座って座って!」
「それでは……」
じぃやが向かいのソファに座る。ふかふかさに感動したらしく、恍惚とした表情で「ふあぁぁ」と間の抜けた声を出した。
それを見た私は、「でしょー?」とニヤニヤ。
「いやはや、これは実に素晴らしいソファですな」
「なっがい距離を移動しただけあったねー!」
私は立ち上がり、じぃやの後ろに回って肩を揉む。
「ミレイユ様!? 何を……」
「私からのお礼よ」
「お礼?」
「功労を讃えることができなくて申し訳ないって王子殿下が嘆いていたでしょ? だから、私がこうして代わりに労ってあげているの。世間知らずな聖女のワガママにいつも付き合ってくれたお礼よ。ありがとうね」
「ミレイユ様……」
「そんなわけで、今後もよろしくね! ぶっちゃけ、じぃやがついてきてくれるって言わなかったら、私はぴーぴー泣きながら路頭を彷徨っていたのよ!」
「そう思ったから付き添うことにいたしました」
「さっすがじぃや! よく分かってる!」
「ふぉっふぉっふぉ」
しばらく休憩した後、私達はご近所さんに挨拶して回った。