025 第一章 エピローグ
次の日――。
今日も私は、朝にしっかり目を覚ました。じぃやにおぶってもらうことなく自分の足で一階へ行き、顔を洗ってシャキッと決める。などということにはならなかった。
「うぅぅ、もう歩きたくないよぉ、じぃやぁ」
「もうって言いますけど、今日はまだ一歩も歩いていませんぞ」
ワガママな私をおぶって、じぃやが家の外へ行く。
17歳にもなってこの甘えん坊ぶりはどうなんだと思うけれど、じぃやにおぶってもらうと安心するのだから仕方ない。悪いのは私でなくじぃやだ。
「見て下さい、ミレイユ様」
「わぁぁぁぁ! すっごお! 上手くいったぁー!」
外には緑が広がっていた。かつて更地だった場所に牧草が生えている。チモシーとアルファルファがこれでもかとあって、なんだか別の場所に来たみたいだ。
「「モォー」」
ウシコちゃんとウシピッピちゃんがこちらに向かって鳴く。彼女らが何を言いたいのかは分かる。
「いいよ! 言っておいで!」
「「モォー♪」」
私が許可すると、2頭は嬉しそうに牧草地へ移動した。生い茂る牧草をむしゃむしゃ食べて、好き放題に行ったり来たりしている。
「じぃや、私も! 私も牧草地を歩きたい!」
「ではまず服を着替えないといけませんな」
じぃやは家に戻り、玄関で私を降ろした。
「パジャマのままでいいもんねー!」
私は靴を履き、大興奮で家を飛び出した。
「ミレイユ様、そのような格好で外へ行かれては……」
じぃやは途中で言葉を止め、「やれやれ」とため息をつく。
そんなじぃやに気にすることなく、私は牧草地を駆け抜けた。
「どう? 牧草は美味しい?」
「「モォー♪」」
「それはよかったぁ! 後でお乳を搾るけど、その時以外は好きにしていていいからね!」
2頭の牛と楽しく過ごす。
「牧場経営の道が見えてきましたな」
じぃやがやってきた。手には大工道具とミラクルジョウロを持っている。さらに竹の籠を背負っていて、その中には大量の木材が詰め込まれていた。
「ミレイユ様、我々の牧草地を柵で囲みましょう」
「そんなことする必要ある? ウシコちゃんもウシピッピちゃんも逃げないよ?」
「分かっております。柵で囲むのは対外的な意味があるのです」
「対外的って?」
「私やミレイユ様と違い、他所様はウシコちゃんやウシピッピちゃんが逃げないということを知りません。ですから、柵のない牧草地に放していると不要な心配をさせてしまいます」
「あーそっか! それはよろしくないね! 分かった! 柵で囲おう!」
「かしこまりました」
「でもその前に、ウシコちゃんやバリチェロのお家を庭の外にお引っ越ししない?」
「それでしたらご安心を。既に済ませておきました」
じぃやが「あちらです」と家に手を向ける。
今まで庭にあった動物小屋が、家と庭を囲む柵の外に移っていた。
「本当だ! いつの間に!?」
「ついさっきです」
「そんなに早く引っ越しできるの!?」
「大きくて持ちづらいですが、重さは大したことありませんので」
「もしかしてじぃや、小屋を持って運んだの?」
「さようでございます」
「さっすがじぃや!」
「ふぉっふぉっふぉ」
私達は手分けして柵を設置していく。木材は明らかに足りなかったのだが、じぃやがどこからともなく補充してくれたおかげで奇跡的にも足りてしまった。やっぱりじぃやはすごい!
「これで……おしまい!」
「お疲れ様です、ミレイユ様」
「じぃやもお疲れ様! たくさん働いたからお腹がペコペコだよ」
「同感です。朝食にしましょうか。いや、この時間だと昼食も兼用ですかな」
「だったらいつもの倍は食べないとね!」
じぃやと一緒に家へ戻っていく。
そこへ、フレッドさんとメリィさんがやってきた。
「信じられん……牧草地ができているぞ」
「え、待って、昨日までただの耕地じゃなかった!?」
二人は我が家の牧草地を見て驚愕している。
「こんにちは、フレッドさん、メリィさん!」
私は二人に駆け寄り、ペコリとお辞儀する。じぃやは家の中へ入っていった。
「こんにちは……って、どうなってるの? これ」
メリィさんが口をポカンとさせながら牧草地を眺めている。
「ふっふっふ、秘密です!」
「今から食事にしようと思っていたのですが、お二方もご一緒にいかがですかな?」
じぃやが戻ってきた。私の横に立ち、「どうぞ」と何やら渡してくる。
ベージュのカーディガンだ。パジャマのままだとはしたないからこれで誤魔化せ、ということだろう。じぃやの気配りには頭が上がらない。
「そうしたいのはやまやまだが、今日も今日とて時間がなくてな」
「フレッドに同じく。今日は挨拶だけのつもりですので」
「かしこまりました」
じぃやはスッと私の後ろに下がった。
「牧草地になっていたのは意外だけど、私の言った通りでしょ?」
メリィさんがフレッドさんを見る。
「たしかに。この土地は牧場に適していないと思っていたのだが、そんなことはなかったようだ。広さも申し分ないし、これなら十分にやっていけるだろう」
フレッドさんは、メリィさん以上に驚いている様子だった。無理もない。昨日までここは更地だったのだから。もふもふの耕地でも驚いただろうに、それをすっ飛ばして牧草地になっているのだから摩訶不思議ったらありゃしないはず。
「それで、専属契約の件は考えてくれた?」
「はい! 資料もちゃんと見ました! その上で、メリィさんのギルドと専属契約を結ばせていただければと思います! まずは牛乳から!」
「「まずは牛乳から?」」
フレッドさんとメリィさんがハモる。メリィさんがフレッドさんに「真似しないでよ」と言い、フレッドさんが「お前こそ」と返した。流石は恋人同士だ。
「それで、まずは牛乳からってどういうこと? いずれはトマトもってこと?」
「トマトもそうですが、他にも色々と挑戦できればいいかなって。フレッドさんのところみたいにバターやチーズなんかも作ってみたいです!」
「これはこれは、とんでもないライバルが現れたわね。どうするの、フレッド」
メリィさんがニヤニヤしながらフレッドさんを見る。
「ふん、そっちはSランクでこっちはBランクだ。価格帯が違うから競合にはならんさ。それに流通量にも天と地の差がある。何の問題もない」
「とかなんとか言ってるけど、本当は焦ってるんでしょ? やばい相手が出てきたぞって」
「うるさい!」
二人のやりとりに、私は声を上げて笑った。それから、二人に向かって頭を下げる。
「フレッドさん、メリィさん、色々と教えてくれてありがとうございました。商売のこととか、ギルドのこととか。おかげで決心することができました!」
「「決心?」」
「はい!」
大きく頷いた後、二人に向かって宣言した。
「私、今日から牧場を経営します! 立派な酪農家になってみせます!」
二人は一瞬だけ驚いた顔をした後、笑みを浮かべた。
「歓迎するぜ、ミレイユ」
「悩んだり困ったりしたら何でも頼ってね」
「はい! よろしくお願いします!」
「立派になられましたなぁ、ミレイユ様ぁ」
じぃやが号泣しながら拍手している。
「他人事じゃないんだからね、じぃや。これからも一緒に頑張るよ!」
「もちろんですとも!」
こうして、私とじぃやの楽しい牧場生活が始まるのだった――。
第1章、これにて終了です。
見切り発車でしたが、ここまでどうにか毎日更新を続けられてよかったです。
第2章以降については、需要がたくさんありそうなら執筆を、と考えています。
現時点では何も決まっていない為、ステータスを「完結」にしています。
今後1週間以内に判断を下し、続きを執筆する際はステータスを連載に戻します。
ここまでの物語はいかがでしたか?
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