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024 成功の第一歩

 メリィさんの部下の方々が牛乳の瓶詰めをしてくれた。私達よりも遙かに手慣れていて、ものの数分で終わった。


「ごめんね、SランクなのにAランクの代金しか渡せなくて」


「いえ! 事前にちゃんと説明があったので気にしていません! Bランク以下でもAランク分のお金がもらえたわけですし!」


 今回はAランク扱いで取り引きする、と最初から決まっていた。だから、メリィさんから私に支払われるのはAランク相当のお金だ。


 それでも5万4000ゴールドになった。1本300ゴールドの180本だ。


「ミレイユちゃんの牛乳はこんな感じで売られることになるわ」


 メリィさんが私とじぃやに牛乳瓶を1本ずつ渡してきた。


 牛乳瓶をよく見ると、側面にロゴが入っていた。デフォルメされた牛の顔と「ミレイユ牛乳」の文字。


「わぁ! すごく可愛いです!」


「ロゴはウチで適当に考えた暫定的なものだから、気に食わないなら変更することだってできるよ」


「気に食わないなんてそんなことありませんよ! でも、名前が『ミレイユ牛乳』だと私だけの手柄みたいになるので、じぃやの名前を入れたいかも……」


「ありがたいお言葉ですが、ここはミレイユ様のお名前だけでよろしいかと」


 じぃやが答えた。


 メリィさんが「私もそう思う」と同意する。


「どうして? じぃやと一緒に作ったじゃん!」


「じぃやは脇役であり、主役はミレイユ様ですので。このような場合は主役の名前しか書かないものです」


「じぃやさんの言う通りでもあるし、『ミレイユ・じぃや牛乳』だと語呂が悪いのよね。もしじぃやさんもロゴに入れたいとのことなら、文字ではなくその横の牛の顔をじぃやさんのシルエットにするとか、そういった方向で調整するべきだと思う」


「私はしがない燕尾服の老いぼれですので、シルエットには合いません。この牛の顔はよく出来ておりますから、このままにするべきだと思います」


 じぃやがここまで意見するのは珍しい。普段は「ミレイユ様がそう仰るなら」とすぐに譲歩する。だからこそ、私はじぃやの意見に従った。


「そういうことなら、このままでお願いします!」


「それがよろしゅうございます」


 じぃやが優しく微笑む。


「また肩たたきしてあげるから、それで許してね、じぃや!」


「もう歳ですので、瓶に名前が載るよりそちらのほうがよほど嬉しいですな」


 ふぉっふぉっふぉ、とじぃやは笑った。


 私達が話している間に、メリィさんの部下達が続々と引き上げていく。


 話が落ち着いた頃には、メリィさんしか残っていなかった。


「ねぇミレイユちゃん、よかったら専属契約しない?」


「専属契約ですか」


「うんうん。牛乳瓶の用意や瓶詰め作業だけじゃなくて、必要なら搾乳や加工もウチの者にやらせてることができるわよ。じぃやさんと旅行に行きたいと思っても、酪農家だと家から離れられなくて辛いよね? でも、専属契約だったらウチが代わりに管理するから安心して羽を伸ばすことができるわ」


「おおー!」


 すごく魅力的なお話だ。


「もちろんすぐに決めろとは言わない。専属契約のことをまとめた資料を持ってきたから、まずはそれを見てくれれば――」


「します! 専属契約!」


「早っ! まだ話している最中なんだけど」


「ごめんなさい! でも、します! 決めました!」


「本当によろしいのですか? ミレイユ様」


 じぃやが心配そうに見る。


「ありがたいけど、もう少し落ち着いて考えたほうがよくない?」とメリィさん。


「だってウチには、複数のギルドと取り引きするだけの量がないですから! それだったら特典のある専属契約のほうがいいじゃないですか!」


「いや、まぁ、そうなんだけど、他のギルドだともっといい条件で買ってくれるかもしれないよ。ミレイユちゃんの牛乳はそれだけ美味しいし。それに、ウチでSランクのついた牛乳だって売り込めば、どこのギルドも取り引きしたがるから」


「そうかもしれませんが、それでもいいんです。今の条件に不満がないので!」


「ミレイユちゃんは変わり者ね」


 メリィさんは笑いながら、資料を渡してきた。10枚前後の紙を束ねたもので、専属契約について書かれている。イラスト付きで分かりやすい。


「とりあえずその資料には目を通して。返事はそれから聞かせてちょうだい」


「分かりました!」


「契約を持ちかけた私が言うのもアレだけど、契約する時は条件をしっかり確認するようにしたほうがいいわよ。人は見かけによらないからね」


「メリィさんも本当は悪い人だったりしますか?」


「ふふっ、その可能性もありえるわよ」


「うっそだー!」


「さぁ、どうでしょう?」


 メリィさんは柵へ向かい、愛馬に乗った。


「今日は素敵な取り引きをありがとう。今後もよろしくね」


「はい! よろしくお願いします!」


「じゃ、また明日!」


 メリィさんがこちらに背を向ける。「これは世界が変わるぞー!」と叫びながら、嬉しそうに去っていった。




 ――――……。




「ねぇじぃや、Sランクだってさ」


 メリィさんの背中が消えた後、私はじぃやに話しかけた。


 じぃやは「ですなぁ」としみじみした様子。


「Sランクって瓶1本当たり500ゴールドだよ。今日と同じ量でも8万だか9万ゴールドになる。これが1ヶ月続いたら100万とか200万の稼ぎだよ」


「いやはや、大金持ちですな」


「…………」


「…………」


 しばらくの沈黙を挟み、そして。


「そんなに稼いだら好きなもの食べ放題だよ!」


「たまりませんな」


 私達は、ぐへへぐへへ、とニヤけまくった。


「まだまだどうなるか分からないけど、今日はパーティーだぁ!」


「かしこまりました!」


 その日、私とじぃやはフレッドファーム産の最高級シャトーブリアンを堪能した。

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