021 メリィの試食
「メリィさん! どうしたんですか?」
「フレッドの所に行ったから、ついでに寄ってみたの」
「そうだったんですか! 入って下さい! 今お茶を出しますから!」
チラッと後ろを見る。じぃやは既に食卓の上を片付け終えていた。流石だ。
「お気持ちは嬉しいけど、すぐに帰るから気にしないで」
「そうですか……」
「あ、でも、よかったらあれはもらってもいいかな?」
「あれって?」
「フレッドを唸らせた牛乳! 実はそれが目当てで来たのよね」
「分かりました! じぃや、牛乳をお願い!」
「かしこまりました。地下で瓶詰めしてまいりますので、少々お待ちを」
「ごめんね、急に押しかけちゃって」
「そんなことありません! 嬉しいです!」
メリィさんは「よかった」と微笑み、周囲を見渡す。
「周辺の耕地はミレイユちゃんの?」
「そうです! チモシーとアルファルファを育てて牧草地にします!」
「いいじゃん! こんなにいい耕地があるならここで牧場を開けるでしょ。フレッドが『ミレイユの家の周りはクソみたいな更地しかない』とか言ってたんだけど、アイツの目って腐っているのかしら?」
「ど、どうなんでしょう」
私は「あはは」と笑ってごまかす。
「あ、そうそう、メリィさん、ウチのトマトも食べてもらえませんか?」
「トマト? 家庭菜園しているんだっけ?」
「そうです! 昨日収穫した分が余っているので!」
「かまわないわ。ところで、ミレイユちゃんはなんでそんなに嬉しそうなの?」
「え? 分かります?」
「分かるわよ。ずっとニコニコしているじゃない」
「えへへ。実はメリィさんが初めてのお客さんなんです。だから嬉しくて!」
「そういうことね」と、メリィさんは笑った。
「ちょっと待っててくださいね!」
メリィさんを玄関前に突っ立たせたまま、キッチンへ走る。冷蔵庫からトマトを取り出した。
「お待たせしました! トマトです!」
「ありがとう……って、もしかして此処ですぐに食べろってこと?」
メリィさんは大玉のトマトを手に持ち、苦笑いを浮かべている。
私は躊躇うことなく「そうです!」と頷いた。
「じゃ、じゃあ……」
眼鏡をくいっとしてから、メリィさんはトマトに齧り付いた。
「わお、このトマトすごく美味しいわね」
「本当ですか!」
「ええ、本当よ。思っていた以上にレベルが高いわ。この質で量産できるなら、是非ともウチで扱わせて欲しいわね。高級レストランに売れるから」
「量産って、どのくらい必要ですか?」
「1000個くらいかな」
「せ、1000個……! ちなみに、1000個でいくらになりますか?」
「このトマトだったら1個200ゴールドでも売れるから、買取額は150前後が妥当かな。それが1000個だから」
「1万5000ゴールド!」
「違う、15万よ」
「じゅ、15万!? 1日で!?」
「そりゃトマト1000個だからね」
私達の生活費は1日約5000ゴールドだ。それを踏まえると、15万は大きい。
「変に期待させてもいけないから先に言っておくけど、この質のトマトを1000個も作るのはすごく難しいから、実際はもっと安くなると思うよ」
「ですよね」と言いつつ、私は心の中でニヤニヤしていた。
たしかに質を維持したまま量産するのは難しいだろう、普通だと。
しかし、このトマトは普通ではない。ミラクルジョウロを使っている。適当な土に種をまき、そこへジョウロで水やりをしただけの代物だ。その気になれば容易に量産できるはず。夢の膨らむ話だ。
「お待たせいたしました。牛乳でございます」
じぃやが戻ってきた。手には二本の牛乳瓶を持っている。
「ささ、ご賞味下さいませ」
「ありがとう。楽しみだわ」
メリィさんが牛乳瓶を1つ受け取った。
「ミレイユ様もどうぞ」
もう1本は私の分だったらしい。流石はじぃやだ。
「メリィさん、乾杯しましょ! 乾杯!」
「ふふっ、いいね」
「「かんぱーい!」」
互いの牛乳瓶をカチッと当ててから、瓶に口を付ける。
私は迷うことなく一気に飲み干した。フレッドさんも言っていたけれど、どこの牛乳よりも美味しい。どれだけ飲んでも飽きなかった。
一方、メリィさんは慎重に味わっていた。香りから入る飲み方がフレッドさんと全く同じで、私はクスリと笑ってしまう。
「これは……たまげたわね……」
牛乳を飲み終えたメリィさんは、言葉通り心底たまげた様子で呟いた。そのまま顔をこちらに向ける。
「ミレイユちゃん、この牛乳、どのくらい用意できる? 今日」
「えっと、二頭分です。あ、でも、少し足りないかも。私達が飲んじゃったので」
「約二頭分ね、オーケー」
メリィさんは眼鏡をクイッとする。それから前のめりで言った。
「この牛乳、全てウチで買い取らせてもらえない?」
――私とじぃやの表情が、パッと明るくなった。




