002 解任の理由
「か、かか、解任って、つまり、クビってことですか!?」
目をパチクリして素っ頓狂な声を出す私。
ライト様は「そういうことになる」と頷いた。
「私、何かとんでもない粗相をしでかしちゃいましたか?」
聖女が任を解かれるのは、原則として魔力が底を突いた時だけだ。魔力は先天的な資質であり、ひとたび消費すると回復しないから。
しかし、私にはまだまだ魔力が残っていた。常人の1兆倍とも言われる常軌を逸した魔力だけが私の取り柄なのだ。
「そなたは何も悪くない。おかげでこの国の民は潤っている」
「では、どうして……」
「この国自体が亡くなるからだ」
「えっ、それって……」
「そなたも知っていると思うが、我がホールデン公国は今、マイクロン帝国から降伏するよう勧告されている。これに断れば帝国軍との戦争になる。大帝国が誇る百戦錬磨の軍勢に向かって、10年以上戦争と無縁だった小さな公国の軍で挑むわけだ。結果は火を見るより明らかだろう」
「それで、降伏勧告を受け入れるわけですか」
「うむ。勧告に従って降伏した場合と戦って負けて降伏した場合では扱いが違う。当然、抗った方が我々や民に対する扱いは悪くなる。民の負担を考えた結果、勝ち目のない戦でいたずらに粘るより降伏するほうがいいだろう、ということになった」
「なるほど……」
「これから我が国は勧告を受ける方向で調整に入る。そなたの解任もその一環だ」
「分かりました。では、今後はただのミレイユとして生きていきます。直ちに王宮を去るほうがよろしいでしょうか?」
「いや、もうしばらくいてくれてかまわない。新たな住居を手配するなど、何かとやらねばならぬことがあるだろう」
「あっ、そうだ、お家が必要なんだ……!」
当たり前のことに考えが及ばない。ただのミレイユとして生きていくビジョンが見えなかった。物心が付いた頃には聖女の間で過ごしていたから実感が湧かない。
「諸々の手続きはじぃやに任せるといい」
「はい、そうします」
ライト様は視線をじぃやに向ける。
「じぃや、そなたも本日付けで解任とする。俺が生まれるよりも遙かに前から聖女の世話役として働いてくれた忠臣に対し、まともに労ってやることができず申し訳なく思う。そなたはミレイユだけでなく、俺にとっても親のような存在だった」
「そのお言葉だけで十分でございます。去就につきましても適当に考えておきますので、どうかお気になさらず」
「本当にすまない」
話が終わると、「では、これで」とライト様は去っていった。
「……じぃや、この国、終わっちゃうんだって」
「やれやれ、困りましたな」
「じぃやの力で帝国軍をやっつけられない?」
「頑張ればどうにかなるかもしれません」
「本当に!?」
「嘘です」
「もー!」
私達は声を上げて笑う。
それから、二人して大きなため息をついた。