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018 最後の助言

 商業ギルドを後にした私達は、馬車でフレッドファームへ向かう。


 フレッドさんのアドバイスもいよいよ最後だ。


「ラストは今のミレイユに最も大切な物だ。なんだかわかるか?」


「分かりません!」


「即答だな……」


 フレッドさんが苦笑いを浮かべる。最初に感じた怖さは完全に消え失せていた。


「答えは牧場だよ。今は牧場を持っていないんだろ?」


「はい……。でもでも、土地ならありますよ!」


「家の周りにある更地のことか?」


「そうです! それです!」


 我が家の周辺は広大な更地になっている。それも含めての物件なので、更地の所有権は私達にあった。


「広さは申し分ないが、あそこは牧場に不向きだったはずだぞ」


「そうなんですか?」


「あの家の前の持ち主は貴族の令嬢だったんだが、最初は牧場を開こうとしていたんだよ。家の建築と同時に土壌調査を行ったり、俺や他の酪農家に牛を譲ってくれと頼んできたり、中々やる気があったぜ。だが、土壌調査が終わるなり牧場の計画を中止しやがった。それだけあの更地はひでぇ状態ってわけだ」


「前の持ち主のことは知っていましたが、牧場を開こうとしていたとは知りませんでした」


「せっかくだから土地について話すとだな、牧場に向いている土地ってのは、要するに牧草地のことなんだ。牧草地は商品の品質を高めるだけでなく、生産コストの低下にも繋がる。加えて家畜のストレスを緩和する効果もある。家でちびちび飼育する分には牧草地でなくてもかまわないが、本気で酪農家をやるならそれなりの牧草地を用意したほうがいい」


「それは……お金がかかりそうですね……」


「まぁそうだな。質のいい牧草地は空いていないから、牧場を経営するならまずは牧草地作りをすることになるだろう。どれだけケチってもそれなりの金がかかることは間違いない。先行投資と思って割り切ったほうがいいぜ」


「ひぇぇぇぇ、それは困りました。ウチは貧乏なので……」


 お金を稼ぐ為に酪農家を始めようと思ったのに、酪農家を始めるのにも大金が必要ときた。お金を稼ぐ為のお金稼ぎが必要だなんて、なんだか頭の痛くなる話だ。


「金銭面についてはそれほど悩まなくてもいいぜ。ローンを組めばどうにでもなる。生産物の品質を俺が保証してやれば、銀行はかなりの低金利で融資してくれるだろう。なんなら今から銀行に行くか?」


「うーん……」


 どうしたものかと考える。不思議なことに頭の中は冷静で、すぐに答えが出た。


「お気持ちはありがたいのですが、牧草地とかは自分達でどうにかしてみます!」


「ほう、大丈夫なのか?」


「分からないですが、頑張れるだけ頑張ってみます。酪農家に興味を持った動機が食い扶持を稼ぐことですので、とりあえず小さな牧場を目指してみます。それであれば、牧草地もそれほど広くなくて済みますよね?」


「それもそうだな。ただ、俺としては勿体なく感じるよ。そこらの雑魚ならともかく、ミレイユの牛乳は本当に美味い。その気になれば世界を狙えるレベルだ。だから、ついつい事業を拡大する方向で考えてしまう」


「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」


 馬車が到着した。フレッドさん、私、じぃやの順で降りる。


「モォー♪」


 館の入り口前で待機していたウシコちゃんは、私を見て鳴いた。バリチェロもじぃやに気づいて嬉しそうだ。


「フレッドさん、今日はお忙しい中、色々と教えてくださりありがとうございました」


「気にするな。俺のほうこそいい息抜きになった。牧場経営は大変だが、それ以上に楽しいものだ。二人が酪農家(ライバル)になる日を心待ちにしているよ」


 フレッドさんはこちらに背を向け、「じゃあな」と言って館に入った。


 私達はそれぞれの相棒に騎乗して帰路に就く。


 帰り道、じぃやが尋ねてきた。


「牧場の件、何か手があるのですか?」


「とりあえずミラクルジョウロに頼ってみようかな。更地に水を撒くの。それで何の効果もなかったら、肥料とか色々買って自分達で牧草地を作ればいいと思う。あれだけの土地を更地のままにしておくなんて勿体ないしね。じぃやはどう思う?」


「ミレイユ様と同意見です。我々には知識と経験の両方が不足していますので、まずはお金をかけずに挑戦してみるのがいいでしょう。投資するのは手応えを掴んでからでも遅くありません」


「だよね」


 私達の牧場が見えてきた。それと同時にお腹がぐぅと悲鳴を上げる。いつの間にか日が暮れて夜になろうとしていた。


「酪農家かぁ……大丈夫かな」


 空を眺めながら呟く。独り言のつもりだったが、じぃやが反応した。


「不安ですか?」


「今更になってちょっとだけ不安になっちゃったかも。たくさん話を聞いていたら、なんだか難しそうな気がしたもん。やることがたくさんあるし、よく分かんないことだらけだし。それに、自分がフレッドさんやメリィさんみたいな風になれるとは思えないよ」


「大丈夫ですよ、ミレイユ様なら」


「どうしてさー?」


「困ったらミラクルジョウロがありますし、じぃやだってお側におります」


「ま、困ったらじぃやに任せればいいもんね!」


「その通りです」


 じぃやが「ふぉっふぉっふぉ」と笑う。


 ポジティブな感情とネガティブな感情がせめぎ合っているが、じぃやが一緒なら不安で潰れることはない。


「明日も頑張ろうね、じぃや」


「もちろんですとも」

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