017 ギルドの役割
「商品を横に流すだけでお金をガメているなんて言われることも多いけど、商業ギルドだってリスクを負っているのよ。仕入れた商品が売れなかったから赤字になるわけだからね。牛乳の場合は腐ったら売り物にならないし、腐らない商品でも倉庫のスペースを埋めちゃうもの。それに売れなかったら、仕入れの際に払ったお金がパーになるでしょ」
メリィさんがギルドの中を案内してくれる。
フレッドさんが卸した商品の数々は、冷蔵庫ならぬ冷蔵室の中に積まれていた。ひっきりなしに誰かしらがやってきては、たくさんの箱を持って出ていく。かと思いきや、逆に箱が積まれることもあった。流れが激しい。
「ギルドによって販路が異なるから、複数のギルドと契約するのもアリよ」
「そんなことしていいんですか?」
「もちろん。ギルドの状況や商品によっては、一つのギルドで捌ききれないことも当たり前にあるから。それだけじゃない。取引相手のギルドが機能しなくなる可能性だって考えられるわ。一種類の商品を複数のギルドに卸すというのは、最も基本的なリスク回避の手段なのよ」
「なるほど」
「ただ、それは酪農家視点の考え方ね。私のようにギルド側の人間からしたら、当然ながら自分のところとだけ取り引きしてほしいものよ。だから、商品によっては専属契約を結ぶことがある。独占的に商品を扱わせてもらう代わりに、通常よりも好条件を提示するものね」
メリィさんの説明はとても分かりやすかった。見た目だけでなく、商売の実力も立派のようだ。
「ウチは今、モーモータウンの乳製品を帝国全土に広めようと画策しているの。だから乳製品は基本的に専属契約の対象になっているわ。生産量がそれほど多くないなら、是非とも検討してちょうだい。フレッドが絶賛する程の出来なら買い手には困らないから。価格次第ではあるけどね」
「はい! 検討……というか、もうメリィさんと専属契約しちゃいます!」
「あはは、ありがとう。ミレイユちゃんは気前がいいね」
メリィさんがニヤニヤしながらフレッドさんを見る。
「それに比べてこの男ときたら、恋人のギルドと専属契約を結ばないのよ。信じられる?」
「ええええ! 本当ですか!? フレッドさん!」
「しょ、商売と恋愛は別なんだよ」
「牧場を始める時はお金を貸してくれって泣きついてきたのになぁ」
フレッドさんが「ふんっ」と顔を逸らす。恋人ならではのいい雰囲気だ。羨ましい。
(じぃやにもバーミリオンさんがいるし、私もいつか誰かと恋愛したいなぁ……)
自分が誰かと恋愛する姿は、どうやってもイメージできなかった。
「私からの説明はそんなところかな。何か気になることとかある?」
私は少し考えてから「あります!」と答えた。
「牛乳以外、例えばトマトとか買い取っていただけますか?」
「トマト?」
首をかしげるメリィさん。
「おいおい、酪農家になる前からトマト農家になることまで考えているのか?」
フレッドさんが呆れ顔になった。
「そ、そこまで考えているわけじゃないですよ! ただ、ウチではトマトも作っているので、余った分を買い取っていただけたらいいなぁ、なんちゃって」
私は頭を掻きながら「馬鹿な質問ですよね」とペコリ。
「んー、たしかに馬鹿な質問だけど」
と言いつつ、メリィさんは真面目に答えてくれた。
「買い取ることは可能よ。家庭菜園のトマトで余った分となると、数は10個から20個といったところだよね。その程度の量だとウチの特売所で捌くことになるから、買い取り額はこちらの言い値になるわよ。つまり割に合わない安さってこと。捨てるよりはマシって額でも問題ないなら持ってきてちょうだい」
「全然問題ありません! その時はよろしくお願いします!」
「オーケー、他は大丈夫?」
「はい! 大丈夫です!」
「だったら私はこれで失礼するわ。申し訳ないけど、今は仕事中で忙しいの」
メリィさんは腕時計を確認すると、私達の言葉を待たずに去っていく。フレッドさんと同じで、信じられないくらいの早足だった。




