016 商業ギルドのメリィ
「じぃやって、本名は何なんだ?」
「あー、それ、私も気になってた! じぃやの本名って何?」
「じぃやでございます」
「うっそだー!」
「ふぉっふぉっふぉ」
フレッドさんの手配した馬車で雑談に耽っていると、商業ギルドに到着した。
馬車から降りた私は、目の前のギルドに大興奮。
「近くで見るのは初めてだけど、本当に大きいー!」
「モーモータウンは酪農が盛んだからな。町の規模に反して商品の数が多い。ギルドには相応の広さが求められるわけだ」
「そうなんですか!」
「とはいえ、駆け出しのギルドなんかは小さいぜ。ウチの牧場より小さいギルドだってある。あと、駆け出しでなくても、あえて手広くやっていないギルドもある。厳選した商品を少ない顧客へ流すタイプだ。高級店に特化したタイプだな」
「なるほどー! じゃあじゃあ、目の前のギルドはどうですか? 大きいほうですか?」
「今は中堅くらいだけど、いずれ帝国で一番のギルドにのし上がるわよ」
フレッドさんの代わりに答えたのは、ギルドの中から出てきたお姉さんだった。何かのオイルを塗りたくっているのかと思う程に艶やかで長い黒髪と、へし折れそうなくらい細くて赤いフレームの眼鏡が特徴的だ。年齢はフレッドさんと同じくらいかやや年下で、私にはない凜々しさがある。
「貴方が人を連れてくるなんて珍しい、いや、初めてね、フレッド」
お姉さんは眼鏡をクイッと上げる。その仕草だけで、私は「カッコイイ……」と呟いてしまった。まさに大人の女って感じで惚れ惚れしてしまう。
「昨日ちょっと世話になったから、そのお礼に商売のことを教えてやっているんだ。この女――ミレイユは酪農家として活動するつもりらしい」
「モーモータウンで酪農家になるって相当な肝っ玉ねぇ。周りは手強いでしょうに」
フレッドさんが「そう思うだろ?」とニヤリ。
「ミレイユのところで生産された牛乳は信じられないくらい美味い。生産コストが分からないのでなんとも言えないが、味だけならウチを超えているぜ」
お姉さんの顔つきが変わった。驚いた様子で私を見る。
「フレッドにそこまで言わせるって相当ね。初めてのSランクもあるかしら」
「Sまでいけるかは分からないが、Aはあると思うぜ。B判定だったウチの上位ブランドを明確に上回っていたからな」
「それは凄いわね」
私達を置き去りにして、二人はいい感じに盛り上がっている。
「あのー、フレッドさん、そろそろ紹介していただけませんか?」
恐る恐る声を掛けた。
フレッドは「すまんすまん」と謝ってから、お姉さんに右手を向けた。
「彼女の名はメリィ。この商業ギルド〈ザ・パープルン〉の副ギルドマスターを務めている。此処の責任者さ」
「付け加えるならフレッドの恋人よ」
メリィさんが「よろしくね」と手を差し伸べてくる。
「はい! よろしくお願いします!」
元気よく応じて握手しながら、私は「ん?」と思った。メリィさん、今、なんて……ハッ。
「ええええええええ!? フレッドさんの恋人ォ!?」
「驚くまでの間にラグがありすぎでしょ」
メリィさんが笑う。それから尋ねてきた。
「私が彼の恋人だとおかしいかしら? 彼には釣り合わない?」
「違います! 逆です! 逆、逆! だってだって、フレッドさんって他の人を寄せ付けない尖った感じがあるじゃないですか! とてもではないですがメリィさんのような美しい女性とお付き合いできる風には見えませんよ!」
「ぷぷっ、あははははは! それもそうね! そういうことならたしかにおかしいわ! 見る目あるわね、ミレイユちゃん!」
豪快に笑うメリィさん。よほどウケたようで笑い転げている。
一方、私はフレッドさんから「おい」と頭を叩かれてしまった。




