9話 トイレが汚い
自転車でしばらく移動した。
「そろそろガベルアンジ王国に入ります」
トラス・ファキトラシュはそう言った。
――ダスト・ガベルアンジには気を付けろと言われたんだ。絶対会わないようにしよう。
町の広場に着いた。俺とトラス・ファキトラシュは自転車を降りて、町を歩いた。しかし、町には誰も出歩いていない。
「静かすぎるだろ」
「この国は基本こうです。皆揃いも揃って怠惰なんです」
「マジかよ」
――普通じゃないじゃん。怠惰じゃん。
少し歩いていると、雑草がぼおぼおのさびれた公園に女が3人いた。3人のうちの目の下に濃いクマがある女がトラスに近づいた。
「やぁトラス。……なにしてんだ?」
「こんにちはガベジ・ガベルダンプァ。今地球から転生してきたこの人を案内しているところです」
「あぁ、そうか……」
ガベジ・ガベルダンプァという女はそう言うと、公園のベンチで寝転がった。
「もう名前は言いましたが、あの女はガベジ・ガベルダンプァ。いつもやさぐれている哀れな女です」
「……なんでやさぐれてるんだ?」
「この世界に生まれてしまったからです」
「えぇ……」
このダメダメな世界に生まれてしまったからやさぐれた。この世界が夢も希望も無いクレイジー世界と知ってしまったのが原因である。
「あそこでレジャーシートを敷いて寝ている女は右側がスクラ・ダスタエルで、左側がゲスリ・オバサベジです。あの2人は野宿をしているだけです」
「え? なんで野宿?」
「誕生日パーティーの時に家の中でカメムシバズーカを撃ってしまったからです」
「え……」
――おいおい! あれを撃ったのか!? あんなの使ったら家にはもう入れないだろ!
「…………」
トラス・ファキトラシュは黙り込んだ。そして、ゲスリ・オバサベジに横に行った。
「ゲスリ・オバサベジ。貴女は正義の味方ですね」
ゲスリ・オバサベジは寝ているので聞いていない。
俺にはゲスリ・オバサベジがなんで正義の味方なのか分からない。
「おいトラス。なんでゲスリは」
「少し前にここにダスト・ガベルアンジが来たようです。ですが、カメムシバズーカで撃退してくれたようなのです。そこの壊れたベンチにカメムシバズーカが置いてありますので」
「えぇ!? まさか……ゲスリはダスト・ガベルアンジにカメムシバズーカを……」
「撃ちました」
――おいおいおい! それはヤバいだろ! あれはさすがに……。
「そういえば、なんでここにダスト・ガベルアンジが来たって分かったんだ?」
「ダスト・ガベルアンジの足跡があったからです」
「足跡?」
「ここにあります」
俺はトラスが指差した所を見た。しかし、足跡は無かった。
「何も無いぞ?」
「臭いで足跡ができているのです。ダスト・ガベルアンジの足からは酷い加齢臭がしますので」
「か、加齢臭……」
俺は足から酷い加齢臭という言葉を聞いてなんだか困惑した。
公園でゆっくりしている時、俺はトラスに聞く。
「ちょっとトラス」
「なんですか?」
「……トイレは……あるか?」
「ありません」
「ですよね」
「冗談です。トイレはあります。あそこにありますよ」
「マジか!」
俺はトラス・ファキトラシュが指差した所を見た。そこにはトイレのような汚い建物があった。汚いが俺は躊躇せずにそこに向かった。尿意はもう我慢できない。
――……うっわ! めっちゃ汚い! すっげぇ臭い! 便器は……あ……ぼっとんトイレだ。……まぁ水道管は無いか。
俺は激臭な耐えながら、排便を済ませた。なぜかトイレットペーパー(質はかなり悪い)はあったので拭くことはできた。
俺はトイレを出た。すると、トラスが俺を見た。
「言い忘れていましたが、案内は終了です。ちなみにですが、ダリヤーンプオ大陸の西部にあるスオクラバップ帝国には何もありません。人も誰1人として住んではいません」
「そうか」
「あとは……自由に過ごしてください。死んで異世界転生するのも良いですし、この世界でつまらない生活をし続けるのも良いです。……前者をおすすめしますが」
――この人死ぬのをおすすめしちゃったよ……。
ベンチに座っているトラス・ファキトラシュは座ったまま寝た。俺はとりあえず、町を探索することにした。