5話 キッモォイ!
俺とトラス・ファキトラシュは自転車で移動しているうちに、俺が最初にいたゴミ捨て場に戻ってきた。だが、ゴミ捨て場の前でモルド・ストントスと見たことの無い女がもめていた。その様子を見ている女も1人いた。
俺は様子を見ている女に声をかけた。
「ちょっと! あの2人はどうしたんだ?」
「単細胞だからちょっとしたことでしょうもない喧嘩をしているのだ」
「え? 全然分からないぞ? 詳しく」
「うん……そうだなぁ……。馬鹿のモルド・ストントスが馬鹿のラフア・フェイケルの使っている紙コップを捨てようとしてるんだ。そしたら馬鹿のラフア・フェイケルがキチガイみたいな顔で馬鹿のモルド・ストントスに文句を言っているんだよ」
――……ラフア・フェイケルか。召喚の遺跡のクソゴミガチャで財産を失った奴か。だから紙コップすら捨てられないのか…。
すると、トラス・ファキトラシュが俺の隣に立った。
「この際なのでラフア・フェイケルのことを紹介しておきます。モルド・ストントスの主であること。召喚の遺跡で爆死しまくって財産を全て失ったこと。ここまでは知っているでしょう」
「あぁ」
「実はあのラフア・フェイケルはこのシエノラット公国の君主なのです」
「……え? く、君主!?」
「そうです。見るからにあり得ないと思うのが普通です。普通の民よりもみすぼらしい格好をしているですから」
――確かにあのラフア・フェイケルはボロボロで汚いジャージを着ているな。君主らしさなんてみじんも無いなぁ。
トラス・ファキトラシュはもめている2人を見ている女に話しかけた。
「ラグ・ピエル」
「ん? あぁトラスか。なんだよ」
「もめているあいつらはどうでもいいのですが、ゴミ捨て場で気絶しているシャビ・エンプカーンを捨てたのはラグ・ピエルですか?」
――……え? ゴミ捨て場で気絶!?
俺はゴミ捨て場をよく見た。そこには不潔な女が気絶していた。しかもうつぶせである。
「ちげぇよ。あれを捨てたのはモルドだ」
「そうですか。ならいいです」
――……いいですじゃないよ! てかモルドは人をゴミ捨て場に捨てるとかどんな思考回路してんだよ!
俺はとりあえずシャビ・エンプカーンをゴミ捨て場から出すためにゴミ捨て場に向かった。しかし、ラグ・ピエルが俺の肩――ではなく首を後ろから掴んだ。
「やめとけ。あいつは捨てといて問題ない」
「いやいやいやいや! あるでしょ! 人がゴミ捨て場に捨てられてるんだぞ!?」
「いいんだよ。シャビとかいう粗大ゴミはあそこに放置しておくべきだ」
「……それは酷いだろ」
その時、トラス・ファキトラシュが俺の横に来た。
「シャビ・エンプカーンについて一つ言っておきます。シャビ・エンプカーンはこの世界屈指のキチガイです」
「……き、キチガイ!? もしかして人殺しとかするのか?」
「そんな事はしません。シャビ・エンプカーンは皆様に嫌われているのにぶりっ子行為をやめようとしないキチガイなのです」
「……ぶりっ子」
ぶりっ子。わざとらしい可愛さを振り撒く奴。そんな奴に否定的な感じの言葉である。
「でもぶりっ子ってだけでキチガイなのは可笑しいだろ!?」
「そう感じるのは貴方がまだシャビ・エンプカーンがどれだけぶりっ子なのかを見ていないからです。ちょっと真似してみます」
すると、さっきからずっと無表情だったトラス・ファキトラシュは違和感しか感じない笑顔になった。
「ラグの家で寝たいよ! ね! いいでしょ!? お願い! ……とか。なんで泊めてくれないの!? ケチー! バカバカバカー! ……とかですね」
そんな違和感だらけのトラス・ファキトラシュにラグ・ピエルが言う。
「トラス。お前はシャビと違って顔が醜くないからイマイチだ」
「そうですか」
――え?
俺はラグ・ピエルに聞く。
「シャビってブサイクなのか?」
「そうだ。この世界で1番ブサイクなんだ。逆にトラスはこの世界で1番顔が良い」
「……ちょっとシャビの顔見ていいか?」
「あぁ。どれだけ醜いか確かめるといい」
俺はもめている2人を避けて、うつぶせになって気絶しているシャビ・エンプカーンの顔を見た。
――っ!? おいおい! ここまでブサイクなのかよ! これでぶりっ子とか絶対嫌われるわ!
シャビ・エンプカーンの顔。顔面偏差値は1も無いだろう。それほどのブサイクである。
俺はトラス・ファキトラシュとラグ・ピエルの場所に戻った。そして、無言でうなずいた。うなずかざるおえなかった。
「そろそろ行きましょう。ここにいても面白い事は無いので」
トラス・ファキトラシュはそう言った。俺とトラスはゴミ捨て場をあとにした。