3話 あ、おっさんだ
「カウテラツリアはどうでもいいです。とりあえず案内を続けます」
トラス・ファキトラシュはさっさと切り替えて案内の続きを始めた。
「地図に書いていますが言っておきます。このダリヤーンプオ大陸には北部にガベルアンジ王国、東部にカラルサス共和国、南部にシエノラット公国、西部にスオクラバップ帝国があります。それで今私達がいるのはシエノラット公国のゴミ捨て場前となっています」
持っている地図はこの世界の全体を書いているものでダリヤーンプオ大陸を中心として書いているわけではないので、地図としてはあまり役に立たないのだ。一応、ダリヤーンプオ大陸と4つの国の名前は書いてあるがそれ以上細かい事は書いていない。
「言っておきますがこの世界には地球にあるような素晴らしい見所というものは一切ありません。なのでなんとなく私が紹介したいと思った事を適当に紹介していきます」
「そ、そうか」
「では行きましょう。言っておきますが、車や馬車などの便利な物はありません」
――マジかぁ。てことは徒歩か。俺は歩きすぎると足が悲鳴をあげるんだよなぁ。修学旅行の時の苦い思い出だ。
「徒歩だと思いましたか? いいえ自転車です」
「自転車はあるのかよ!」
「買ってきますのでお待ち下さい」
「え? いやちょっと! 自転車って高いだろ!」
「そうですね。金貨50から100枚位です。日本の単位で言えば5000円から10000円程度でしょうか」
――そのくらいだと安いのか高いのか分からないなぁ。
トラス・ファキトラシュは自転車店に入った。俺は店の前のベンチに座ってトラス・ファキトラシュを待つ事にした。
「この自転車が金貨200枚ですか? 高すぎませんか?」
――トラスの声だ。売っている自転車が高かったのだろう。
「いや、高くない!」
――今度は店員の声だ。声的にはおじさんだろう。
「10分の1にまけてください」
「金貨20だとぉ? そんなのあり得ない! 商売にならん! 帰れ!」
「そうですか。地獄に落ちなさい」
その直後、発砲音がした。俺は驚いて店の中に入った。
どうやらトラス・ファキトラシュが店員に向かって拳銃を撃ったようだ。だが、銃弾は店員には当たらず、後ろの壁に当たったようだ。
「売ります! 売ります!」
「金貨2枚でお願いします」
「はい! 金貨2枚ですね! 2つなので合計は金貨4枚! ありがとうございました!」
店員はビクビク怯えながら超格安で自転車をトラス・ファキトラシュに売った。
だが、俺はトラス・ファキトラシュに言う。
「ちょっと! 何してるんだよ!?」
「自転車を買っただけです」
「いやいやいや! 拳銃で脅しただろ!?」
「何がいけないのですか? 商品を高めに売り付けるクズにはこれが一番です」
――ヤバい! この女はヤバい!
2つの自転車を外に持っていったトラス・ファキトラシュは自転車の調整をはじめだした。少し、時間がかかるようだ。
その間に、俺はとりあえず店員に話しかけた。
「店員さん。大丈夫か?」
「あ、あぁ、大丈夫。……おや? 見たところもしかして日本人か?」
「え!? そうだけど……」
「そうか…。てことは転生者という事かな? 自分も同じなんだ」
「え!?」
自転車店の店員は中年のおじさんでスーツを着ている。少し禿げているが、髪は黒いので日本人なのだろう。
「俺は虎川大輝だ」
「自分は馬田一也だ」
日本人に会えるとは思ってなかったので、少し安心した。
自転車の調整はもう少しかかりそうなので馬田一也と話すことにした。
「自分のこの世界に来てからの愚痴を聞いてくれ」
「どんな愚痴だ?」
「オーダ・ダテプープって奴がいるんだが、そいつ自分の事をなんと呼んだと思う?」
「……おっさん。とか?」
「いや、もっと酷い。エロ漫画のキモいおっさんだ!」
「え……」
エロ漫画のキモいおっさん。色々なエロ漫画に登場している見た目からかなり醜い男。総じて、エロ漫画の主役である女の子を犯す事をする存在である。
「自分は女の子を犯した事なんか無いぞ! それ以前に童貞だぞ! それなのに見た目だけでエロ漫画のキモいおっさんと呼ばれた。あんなのと一緒にされたくはない!」
「それは誰だってそうだよ」
どんな男だって、エロ漫画のキモいおっさんとか、エロ漫画のキモい野郎とか、エロ漫画のキモいガキにはなりたくない。だが、見た目やちょっとした行動だけでそういうエロ漫画のキモい男と認識されてしまう事があるのも確かである(地球では稀にあるようだ)。
「オーダ・ダテプープには気を付けろよ」
「お、おう」
その時、トラス・ファキトラシュが店に入ってきた。
「虎川大輝。調整が終わりました。出発しましょう」
「あぁ、分かった」
俺は馬田一也に見送られて、トラス・ファキトラシュと共にどこかを目指した。