5話 会長と副会長ともう一人
「やぁ、ファンヌ。君はどうしてそんなに美しいのだ?」
「ぐっ!」
第二王子エクセル・ヒュッセ・セルファートは生徒会室の出会い頭で胸を打つ言葉を投げかけてくる。
一度は愛してしまった第一王子と同じ顔でそんな言葉を投げかけたら嫌でも意識をしてしまうものだ。
それでもファンヌはその感情を認めるわけにはいかない。
冷静になり、こちらが上位でエクセルを恋に落とさせることが必須なのだ。
この口ぶりからエクセルはファンヌに恋愛感情を抱いていると思いがちだが……実際そうではないとファンヌは感じている。
第二王子エクセルは万人に優しい。上級貴族から平民までどんな人にも平等に接す。
あんな歯の浮くセリフをどんな人にも吐くのかと思ったら、ぐいぐいと押してくるのはファンヌだけである。
だけど照れを一切なくそんな歯の浮くようなセリフも吐くことなどできない。
ファンヌはエクセルのことを測りかねていた。
どちらにしろ婚約の言葉を吐かせる必要はあるので策略を練るには変わらない。
「今日は」
「どっきゅーーーーーーん!」
生徒会室に突如入ってきた爆弾頭。
ゆるふわな金髪と神が作った人形かと思うほうど美しいバランスで整われた顔立ち。
やや低めの背丈には似つかわしい熟れた肢体。
ティートリア・ヒュッセ・セルファート。
セルファート王家第一王女、エクセルとは双子の姉となっている。
「ティー様」
「ティー」
「ファンヌさん、エクセルくん……今日も良い天気ですねぇ」
あざとく間延びした声でティートリアは呟く。
彼女もまた生徒会の役員の一人であった。
「何で運動着なんだ。制服はどうした」
「聞いてくださいよぅエクセルくん。ティーはいやがらせを受けていたのですぅ」
お昼の時、クイーン寮のトイレであった騒動のことだろう。
あの後どうなったかファンヌは知らない。
「それでこの運動着を着ていたのですがぁ、何かみんなティーのことをじろじろ見て……照れちゃいますぅ」
ティートリアは体をくねくねとさせ、その薄く白い生地の中極端に盛り上がった胸部を見せつける。
(そりゃそんな暴力的なものを見せられたら男子はたまらないでしょうね)
ファンヌは自分には無いものを見て、気づかれないように舌打ちをした。
「水着にした方がよかったですかねぇ」
「さすがに水着は……。ティー様は王国の至宝なのですから慎みをもたなければいけませんよ」
「え~、結構褒めてくれるんですよぉ。この前海にバカンスにいった時も男の人みんな褒めてくれましたしぃ。ファンヌさん、今度一緒に海に行きましょうよぉ」
「お断りします。水着なんて……ティー様のようにスタイルがいいわけでもないですし」
「大丈夫ですってぇ、貧乳だからって恥じることないですってばアヒャヒャヒャ」
ファンヌの瞳が怪しく光る。
ファンヌはヴェイロンに復讐するためにこの学園で暗躍していたが、エクセルの婚約者となり、王にさせ、実権を握った際には行いたいことがある。
(この女を……)
「胸が無ければパッドを付ければいいんですよぉ。アヒャヒャヒャ」
(絶対この女を断首台に送ってあげるわ」
王国王女、ティートリアは天使のような容姿、豊満な体つき、愛らしい仕草で絶大な人気を誇っているが、性格が悪く、笑い声に品がない。さらに一言多いことが貴族界で有名であった。
存在するだけで勘に触るため同性の友人がまったくおらず避けられているのである。
彼女の人となりを知らない人に好かれ、貴族かつ同性から蛇のように嫌われている。
それが王女ティートリアである。ファンヌがティートリアに容赦無いのはこのようなことが原因の1つであった。
ただ性格は悪くとも、容姿だけは完璧なためお近づきになりたい男が多く、間違いを犯さないために学園での男子との接触は禁止されている。
「さっき何か言おうとしていなかったか?」
「そうでした」
エクセルは話題を強制的に打ち切りファンヌに話を振った。
「本日、顧問の教員からお話を伺ったのですが……、どうやらセルファート魔法学院との交流試合があるそうですね」
セルファート王国には2つ魔法学院があり、王国の名を宿したセルファート魔法学院とファンヌ達が所属するエストリア魔法学院の2つである。
「兄上が生徒会長を務めていたな」
ファンヌとしては因縁ともいえる相手が所属する学院である。
古くから交流を行っている二大学院ではあるが、最近ではセルファート魔法学院の生徒の能力が向上しており、格差が生まれているという噂もある。
さらに第一王子ヴェイロンが入学してからさらに磨きがかかったとか……。
「交流会に参加するのは生徒会の務め……ですが」
「よわりましたねぇ」
ティートリアは首をかしげる。
「ティーは来賓席でお仕事をする役目があるので……参加できないのですぅ」
「去年もされてましたからね。わたくしとエクセル様が参加するので大丈夫ですよ」
「申し訳ないですぅ。ティーに出てほしいってみんな言うんですよぉ。ティーが可愛すぎるのが問題なのですよねぇ、アヒャヒャ」
(本当に一言多いわね、この女)
これくらいの言葉はいつもことなのでこの程度では断首台ゲージは上昇しない。
だが問題はその日にちである。
てっきり1ヶ月ほど時間があるかと思えば急遽来週になってしまったようだ。
準備期間が短いのは向こうの学院も同じだが……こちらは今、動ける人間がファンヌとエクセルしかいいない。
「交流会では何の試合を行うのだ?」
「今まではテニスだったようです……が、今年度から種目は変わるようですね」
「それはいったい……」
ファンヌはその競技名が書かれた書類をばっとエクセルに提示した。
「ヌーレスト博士が理論を作った、魔法学院ならではの魔法競技。テニスの最強進化系、その名も」
ファンヌはどこからかラケットを取り出す。
「テニヌ!」