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コメディ系

職業、悪役令嬢

作者: 秋月 忍
掲載日:2020/05/26

※画像あります。作品右上の表示調整でオン、オフができます。画面が重い場合は、ご利用くださいませ。

 死神さんのミスで、突然死させられてしまった私。

 本当は、80歳まで生きて大往生のはずだったのに、同姓同名の有名人アイドルと間違えられたって本当ですか?

 間違いってわかった時には、もう肉体は火葬されちゃって、戻れない。

 私は、死の国連邦裁判所に訴えた。裁判の結果、当然『勝訴』なんだけど、肉体がないから、仕方がない、とりあえず、異世界転生してみなさい、という判決。

 なんでも、通常『転生』は、順番待ちで、記憶も消されるのだけど、「特別待遇」してくれるらしい。

 私は私の記憶を残し、同じくらいの年齢の女性に憑依するそうな。あと、みんなが見れないステータスって画面が見えるんだって。

 まあ、肉体がない以上、これ以上ごねてもしかたない。

 私は、裁判所の決定に従い、転生した。


 で。

 目が覚めると、見たこともない天蓋付きのベッドの上にいた。

 長い金髪。細い腕。絹のネグリジェ。

 おおっ。転生しとるっ。

 私は、冷静に自分の身体を確かめた。

 体の持ち主の記憶もある。知識もある。不思議だ。

「ステータス、オープン」

 試しに唱えてみると、ポンと空中に文字が浮かぶ。


 アメリア・ブロッコリーン 23歳

 職業『悪役令嬢』


「え?」

 職業『悪役令嬢』?

 何、それ。


 技能 婚約破棄


 ちょっと待て。

 婚約破棄って、技能なの?

 具体的に何ができるのよ。

 私は、ステータス画面に手をのばした。

 あ、ステータス詳細が出るみたい。


 婚約破棄 消費MP50 縁切りバサミを使用して、えにしの糸を切る。

 

 なに、それ。

 私は、思わず頭を抱えた。




「よし。これで依頼達成ね」

 私は縁切りバサミを片手に、汗をぬぐった。

 技能、婚約破棄。

 実は、非常に世のため人のためになる技能なのだ。

 最初にこの技能を使ったときは、半信半疑だった。

 私の親友が、別れた恋人に付きまとわれてたから試しに使ってみたんだけど。これ、本当に、相手の妄執とか切れちゃうわけ。すごくない?

 ちなみに、えにしの糸ってのは、『糸、検視』という技能を使って調べると、人間の感情の糸が見えるんだ。これ、関係性によって、色が違う。

 基本的に、良い感情は暖色。悪い感情は寒色。お互いの感情が交わっているところが、綺麗な赤色になっているのが、相思相愛の証。

 片思いのときは、交わっていても、つなぎ目の色が、赤にならないの。

 ストーカーなんかの場合、一方的に糸が相手に絡んでいるだけのこともある。

 そういうのは、バシバシ、この縁切りバサミで切っちゃってやると、お互いすっきり別の人生が送れるわけ。

 あ。もちろん、片恋でも、まじわっている場所が青紫だったりしてることがある場合は、断ち切ってしまったほうが良いみたい。愛って、憎しみにも変わるらしいから。

 まあ、そんなんで。私、悪役令嬢として、ひそかに社交界の『縁切り屋』になったわけで。

 いやあ。意外と、商売繁盛ですよ。もちろん赤い糸でつながった恋人どうしは切ったりしませんよ? 親に頼まれることがあっても、それはしません。だって、そんな非道、許されないですもん。それに、たぶん、赤い糸は切れない。実は、縁切りバサミ、暖色系に近いほど、切れ味が鈍るんだ。不倫相手の方が赤い糸で、政略結婚のほうが、青紫ってケースもあるの。そういう場合は、依頼人の立場によって受けるかどうか決めている。

「見たぞ。ブロッコリーン公爵令嬢。君が、縁切り屋だったとはな」

 壁の影から、笑みを浮かべて現れたのは、茶色の短髪の美形。この国の皇太子、ジョージ・キャ・ベッツ殿下である。

「な、なんのことかしら、おーほほほほ」

 私は、ごまかしながら高笑いする。え? 恥ずかしくないかって? 仕方ないじゃん。これ、職業『悪役令嬢』の、条件反射だもん。

「俺が結び付けた糸を、ことごとく断ち切ってしまうとは」

「なんのことかしら」

 縁切りバサミを後ろ手に隠し、しらを切る私。

「まあいい。君のその技能を、封じてしまう方法を俺は知っている」

 にやり、と、皇太子は笑った。

「な、何を?」

 皇太子の視線が私を捕らえる。なんか、心臓をつかまれるような感じがした。

「ふふふ。君は、自分の関係する『糸』を見ることができない」

「ぐっ」

 皇太子の言うとおりだ。私は、自分に関係する糸は見れない。まあ、見えたら見えたで、嫌だとは思う。

「……何をしたの?」

「俺が君をどう思っているか、ブロッコリーン公爵から話はなかったか?」

「うっ」

 私は思わず唇を噛んだ。

「殿下との婚約のお話は、丁重にお断りしたはずですわ」

「簡単に断れるものだろうか?」

 自信たっぷりに、皇太子が微笑む。

 何? この自信。

 私は、ひそかに皇太子のステータスを開いた。


ジョージ・キャ・ベッツ 26歳

 職業 皇太子


 ふむ。フツーだよね。そりゃあ、そうだ。

 

 技能 縁結び


 は? なに、これ?

 

 縁結び 消費MP50 えにしの糸を結び付け、強固にする。


 へ?

 私はポカンとする。

「俺は、君と違って、自(・)分(・)の(・)関(・)係(・)す(・)る(・)『糸』をも操ることができるんだ」

 得意げに語る、皇太子。

「だから安心して、嫁に来なさい」

「じょ、冗談じゃないわ」

 私は、縁切りバサミを構えた。

「殿下のような技能持ちがいらっしゃるなら、なおさら、私、退けません」

「ふふふ。そういうところ、大好きだよ」

 色気を感じさせる目で、私を見つめる皇太子。思わずドキリと……なんて、してないから!

「絶対、糸を断ち切りますからね!」

 今は無理でも、修行すれば、自分の関係する糸を見れるようになるかもしれない!

 少なくとも、私の技能は、社交界で求められてるんだから!

「君が見ることができるようになるころには、きっと運命の赤い糸に変わっているよ」

 皇太子は自信たっぷりだ。

「じょ、冗談じゃないわっ!」

 絶対に、そんなのあり得ないから! 悪役令嬢の名に懸けて、婚約なんてするもんですかっ!

 私はギュッと縁切りバサミを握り締めた。



「だから、あきらめて、皇太子妃になれよ」

「絶対、いやですっ!」

 私は、目に見えない糸が、絡まっていくのを感じながら、今日も修行を続ける。

 世のため、人のため。私は悪役令嬢をつづけないといけないのだ。職業変更(クラスチェンジ)なんて、しないんだからね!

 縁切りバサミは、今日もバッサリと人のえにしを切りまくるのだから。


挿絵(By みてみん)


イラストは、彩瀬あいりさまからいただきました!

ありがとうございます!



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― 新着の感想 ―
[一言] イラスト素敵ですね!! そして縁切り……貴族社会には確かに必要なスキル(;'∀')
[良い点] なるほど斬新でした。 結んだ縁が良縁とは限らないわけですね。 そんな時には、必殺のハサミの出番ですか。 23歳は結構良い年齢でしょうから、クラスチェンジしても良いと思いますけどね。 [気…
[一言] 縁切りバサミ・・・だからか~~自分が女性に縁が無いのは~~。 なわけないW
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