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生き物好きの英雄道  作者: とこなつ
序 英雄出陣
9/12

8話 闇と闇

 暗く、暗く、長き洞窟。闇が千里をも閉ざし、一歩歩けば足取りが確実に覚束なくなりそうな程に見えない。


 轟く空洞音と、滴る水の音。そして呻き声が少し。その他の音は一切なく、夜中の山道に匹敵するレベルで不気味かつ陰湿だった。


 充満する石と無臭に思える水の臭い。そして腐敗臭。一般人が1週間住めば気が動転し、発狂・暴走・狂乱・錯乱の症状を起こしかねない。


 正に最悪で最低の衛生環境だった。


 ガラガラと音がして辺りに光が満ちた。光が照らし出したのは一筋に伸びる洞窟。否、「監獄」。岩の壁には所々に鉄格子。そこに手を巻き、呻く何か達。服は布を巻いただけ、汚れが目立ち、目が向けられないほどに痛々しかった。


「ダシて・・・ここから・・・・・・たすけて・・」

「えぇええん・・ヒッグゥ・・・ぅうあああああああああん!!」


 青年、少女、老婆に、亜人。人格性別出身身分問わず、多くの者が現在進行形で収容中。特に子供にとっては、何もかもにおいて悪質な場所であり、しっかりと監獄としての役目を果たしていた。


 足音が光りの方向から聞こえる。その数2つ。1つはフード姿で、顔が見えない。


 そしてもう一つが、


「・・・・・・ここは?」


 透き通った、洞窟の雰囲気とは正反対の美しい声。イマレだ。眉を寄せ、怪訝な表情で恐る恐る問う。


 しかし、フード姿は何も答えない。イマレより背が高く、ソウシよりほんの少し上背が高くもあるその者は、顎をしゃくり、進めと指示する。ガチャっと金属の音が響くが、その音源はイマレの後ろにあった。


 銀色に光る、手枷。後ろで縛っているというのもあるが、その強度は水人のイマレにも解くことができないほどで、自由などどこかに捨てたような代物だった。


「・・・・・・・・」


 無言でイマレを背後から押し、暗闇の奥へと足を進める男。周りの者は、可憐な子が来たことに言葉を失いつつ、烈火のごとく燃える虹彩を男に向ける。


 子供の泣き声、老人の咳き込み、男性の傷に嘆く声、女性の啜り泣き。その全てが閉じれぬ鼓膜に流れ込み、顔に憂愁の色が灯火のごとく映る。


「・・・・・もう少し空気は良くならない?」

「・・・・・・・・」


 相変わらずの無言。イマレの淡い期待は砕け散ってしまった。洞窟の奥は酸素も薄く、少し蒸し暑く。ここに入れられているのは体の強いものばかりだ。


 中には魔物も居た。しかし、特に印象的なのは、朱色に染まった毛を揺らし、狼のような顔をした「獣人」だ。イマレのような亜人の一種で、魚ではなく獣――――――所謂、人間ではない哺乳類とのハーフだ。


 その獣人は、薬か何か、その束縛により本来の力は出せそうになく、フ―フ―と過呼吸気味のパンティングを行っている。


 そして、印象的だった理由と言うのが、彼がイマレの入る牢の正面の牢だったからだ。


 鉄格子の戸が開かれ、イマレを入れて、戸を閉め、明かりに向かって去っていく男。そして洞窟の入口は閉ざされ、本当に暗闇へといざなわれる。視界の頼りは明るさに慣れる事だけだった。


「フー フー フー ・・・・ッ・・アンタも、大変、だったな。フー フー」


「・・・此処はどこなの?」


「・・・・・・・・・こ、こは・・・監獄。フー そうとしか、聞いてねぇなぁ」


 空洞音と騒めき声の中、質疑応答が始まる。監獄と言う恐怖の塊のような言葉に、眉が動き、喉を上下させるイマレ。彼も他に何も聞かされてはいないらしく、その為か、目に角が立ち、ただでさえ物々しい面が余計に苛辣な物になっていた。


「・・・・あなたの名前は?」


 首を傾け、水色の髪が地面へと着きかける。暗い中でもまだ捨てぬ希望に満ちた強い眼は、獣人の彼へと一直線に向けられていた。


 頭を掻き、鳴り続ける苦痛の鼓動と、息切れを落ち着け、鉄の棒を2つ越してイマレを見据えて答える。


「カルデュ・ボストロだ」


「そう・・・・・・・・・・」


 暫く沈黙が流れる。空洞音は相変わらず鳴り続け、その恐怖心を撫でまわし、ウザいほどの湿気は晴れることを知らず、人々の負の感情は暗い洞窟にベストマッチだった。


「ねぇ・・・・ボストロ。辛そうだけど、何かあったの? その・・・・・薬飲まされたとか、暴力されたとか・・・・」


「フー 薬だな。それも、俺を・・・ここまで弱らせるんだ。・・・用心し過ぎだっての。睡眠薬を・・・・フー 不意に吸わされて、盛られたって・・・・・・感じだな。断片的な記憶でしか・・・・・・・ねえけど。 フー」


 自分の来歴を語るボストロ。それを聞き、どう考えても犯行的なその行為と薬が、別の意味だがシャルテに匹敵するくらい恐ろしいとイマレは感じる。その犯行が自分にも起こっていたことを思い出しただけでも、寿命が縮んでしまう。


 シャルテとの戦いにおいて、戦闘に気を取られてもいたし、砂埃等で気付くことができなかったのは確かだが、敵の接近に全く気が付けなかったのは、イマレも度し難いと思うほどの、不届きかつネグレクトな失態だ。


 今、ソウシは無事だろうか。シャルテに負けていないか。そう思うと心配でならなかった。戦慄の予感を長年の勘より感じ取ったイマレの手は、今にも崩れそうなほどにか弱く震えていた。


「はぁ。だいぶ落ち着いてきたか。・・・・・力でねえけど」


 ボストロは肩を回し、首を左右に曲げ、呼吸を整え、「ポスッ」と力なく掌と拳を合わせる。空洞音が鳴り響き、溜息交じりの吐息をその音に沿うように吐く。


「まあ、か弱い嬢ちゃんには向かねえとこかもしんねえが、そう震えんな。別に何か被害が出てるわけでもねぇ。ここにいる者の顔ぶれは変わっていないし、洞窟奥の魔物と人族は俺達亜人を挟んでいるから問題なし。―――――――――――――――――ってその華奢っ子な姿で亜人か?」


「・・・・嬢ちゃんだの、華奢っ子だの。そんなに弱く見える? これでも水人の次期女王だったんだけど」


 散々イマレを子ども扱い、ここの安全性を説明し始めたところでイマレの力を確認。しかし、それでも獣人には劣ると思ったか、


「へぇ。水人とはまた強くて珍しい。が、俺には敵わねえな!!!」


 さっきまでの苦しそうな表情は洞窟の奥にでも放り投げてしまったか、ボストロは暗い中でも一際目立つ明るい表情でカッカッカッと笑う。場を弁えず、自分最強な考えを信じて疑わないその姿勢に、さしものイマレも少し焦れる思いを隠せずに、横座りから脱し、格子に蹴りを入れてみようとする。


 しかし力は入らず、空回りして、地面に背から落っこちる。手枷が背中を強く押す、そのヨガ的体操姿勢を急に取ってしまったものだから、激痛が走り、即座にうつ伏せになる。柔和な顔に少量の冷や汗を垂らし、ヒューヒュー唸るイマレを、思い出したように眺めて見せるボストロ。


「おいおい、無理すんな。嬢ちゃんが強いのは分かってっから。体を壊すとまともに寝れねえぞ。あ、その手枷だと寝にきぃな・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい、居るだろ? 臭いでわかんぞ監視員さんよお」


「まあ、『透化』だけなら気づかれるか。流石獣人だな。で、その娘の枷を外せと?」


「もう、俺に使ったような薬が嬢ちゃんにも効い来てるだろ?」


 どういった関係か、ボストロの問いに答えるようかの如く、さっきから全く見えていなかった一人の男が現れた。その容姿は、イマレを連れて来た男と同じフードで隠れており、ほんの少し見える顎は、若く、凛々しさが垣間見えていた。そして、ミステリアスクールな一面があるその人物の左腕は、フード越しでもわかる。無いのだ。


 急に出て来た事と、その左腕を不気味に感じ、眉ひそめ、牢の奥へと後ずさるイマレ。


 ボストロは「心配すんな」と片眼をつむって、イマレに目配せ。むず痒いものを覚え、牢の壁にまで更に後退し、イマレは鈍い音を立てて頭を打つ。


「いっっっったぁぁぁあああ!?」


「おいおい、安心させたつもりだったんだぜ? 泣かせたのは俺じゃあない。うん、俺じゃあない」


 青い髪の少女の目に涙で瀕死の表情を、作ったのは俺じゃないと責任放棄するボストロ。疑心暗鬼に屈辱と恥辱を調味料に少し加えて睨む少女と、あっけらかんとして後頭部で手を組む獣人を、取り合うようにフードが介入。


 少女の格子の前に立ち、腰をかがめて様子を窺う。その姿勢で4秒ほど。そして、今だ健在の右腕を眼前まで持ち上げ、何か呟いたかと思うと、イマレの手枷が溶けていく。


 ドロッとした感触に熱さを錯覚し、身をびくつかせ、瞼をシャットアウトしたが、それも杞憂。温度に変化は無く、ただ形状が液体になっただけだった。


「あ、ありがとう・・・」


「礼を使う相手が違う気がするぞ、少女よ」


「そうだぜ、この俺がこいつに申し出たんだからよ」


 何故か、見ず知らずで、百鬼夜行の一員でもおかしくないような男に頭を下げているイマレを、不本意だと男衆が吐露する。


 時間感覚が無く、今だ空洞音と呻き声が残る暗闇で、そこだけ妙な空気が流れてしまう。


「まぁいい。そろそろ食事にするか。持ってきてくれ」


「はいはい」


 フードに指図するボストロ。相変わらず、2人の関係がわからず、モヤモヤした感情を募らせるイマレは、我慢できずに、口を開く。


 解放された腕を少し回して、冷やされた格子に近づいてから、2つの顔を交互に視界に吸い込ませながら、


「・・・・2人って、仲良いの?」


 その質問に、行きかけた足を止め、肩越しに少女の入った牢を見るように、フードは彼女に振り返る。


「違うぜ? 俺はここの生活に慣れただけだ。未だここが何か教えられてねえから不安は拭えねえが、食事や睡眠に不自由を余り感じねえからな」


 答えたのはボストロの方だった。フードも開口はせず、そのまま光が入って来る戸を超えて閉める。


 ボストロは獣人だからか、はたまた元居た環境のせいなのか。この悪環境を「慣れた」で終わらせるその根性がどこから来るものなのか。全く理解できないイマレを尻目に、ボストロは洞窟の奥―――――――魔物が収容されている区間に目を向ける。


「なぁ。奥がやけに静かになってねえか?」


 唸り声に轟き、叫びに咆哮、打撃音や能力を使ったような音が遠くからほんの少し響いていたのだが、それらが一切なくなっていて、これまでにないくらいの不気味さが漂っていた。


「・・・・・・ほんとだぁ・・・」


 耳を澄ませて、微かな音を感じ取ろうと奮闘したイマレでも確かに理解できる。生気と言ったものを感じ取れない。


「ねぇ・・・・お父さん・・・・これから僕達どうなるの?」


「大丈夫だ。すぐに帰れるさ。だから安心しなさい」


 子供をあやす親の声がする。その優しい声質に、細胞レベルの微かな震えがあるのを、獣人の耳は逃さなかった。捕虜と言う感じでもなく、ただ捕まっているだけではない。何か目的があってのこの場所だ。確実に未来が保証されたという「保障」がどこにもない。


 当てもない可能性に懸けただけだ。だが、それは子を安心させるのに十分な材料だった。クスクス、と言う笑いの後、親と子は雑談を始めた。


「ここがどういう所か、聞き出したいもんだが・・・如何せん力でねえしなぁ」


 拳を開閉し、神妙な顔で思考を巡らせ、脳内悪戦苦闘するボストロ。さっきから寒気が消えないイマレは、顎に手を当て脱出方法を思索。少しでも早く、彼の生死を確認しに行きたいという不安の靄が、脳から離れずに油の様にへばり付いている。


 暗がりの中、またもや空洞音が響く―――――――


「ボストロ・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「あぁ? どうしたよ」


「なんか、鳴いて・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、叫んでない?」


 先程から聞こえる空洞音。その抽象的でどこか現実味を帯びていなかった音は、段々と大きく、重く、高くなっている。


 魔空が薄くなり始め、どこか、気温が上がり始めているような気もする。それは錯覚などではなく、扉付近の牢にいる子供達も、敏感な肌でそれを感じ取り、口々に「暑い」と連呼し始めた。ボストロもその違和感を身に染み込ませ、表情に曇りを見せる。そして、静かな波乱は、もう、しっかりと幕を全開していて―――――――


 コツ、コツ、と、音がする。その音は5つ程遠くより発したと思った途端、急に静寂を守った。


 戸が開け放たれ、光が強く差し、燃やすように明度を上げた。これまで2度見たフード姿だが、体格が1回り大きなその巨体の男は、胸を大きく膨張させ、


「これよりイイ!! 移動を開始するウウ!! サアア!! 牢を開けるぞオオオ!!」


 言い放ち、大声疾呼する。軽く地震を起こしそうなその重い声は、洞窟の先の先まで響き散らした。大男の後ろから10人ほどの一般身長の男達が颯爽と入って来る。フード姿は相変わらずだが、その足の動きは忍者を彷彿とさせていて、牢の開錠もお手の物だった。


 鉄が綻ぶように落ちていき、扉がギイイと悲鳴のような音を立てて開いていく。流れる星のごとく早業で、牢内の人質に枷を着けていく。


 青年、少女、老婆に、亜人。ありとあらゆる人材が、今や傍から見れば罪人連行の図だ。しかし、それはいつの間にやら消え失せていた魔物を除いてだが。


 洞窟に一列に並ばされる各々。イマレ、ボストロは列の最後尾。その後ろは、鼻息1つ聞こえない蛻の殻な牢屋のみ。


 開け放たれた戸が、神々しい程に光を強め、さっきまで殆ど何も視認できなかった暗闇が、嘘、虚無、法螺を唄うかのように、岩肌の青黒さを露わにする。


 蒼髪の少女は、その頬に僅かに感じる炎暑に、眉を寄せ、戦慄をその肌細胞1つ1つで感じ取る。


「サアア!! 出ろオオオオオオオオオ!! 列を乱すなアア!! しっかりついて来おイイ!!」


 行進よろしく戸から出ていく一行。


 光の先はここにいる者全員が未知で、それはイマレも例外でなく、


 この暑さ、この熱さ、この厚さ。それが何故、何で、何処から来るのか。そして、此処がどこで、何で、何のためにあり、この後の自分の命運はどう軌跡を描いていくのかがとても不安で、溢れても蒸発してしまいそうな、か細い冷や汗が背筋を伝う。


 辺りが朱と黄に包まれ、ほんの刹那の間、瞳孔が物体を確認するのを阻止した。そして、網膜が強光に慣れ始め、明るくなった廊下を視認。しかし、先ほどの洞窟牢屋とは打って変わって、完全に人の手で舗装されていた。薄灰色で壁も天井も床も統一され、どこか異空間に足をつけているように思わせる。廊下は先でカーブし、どうやらその先からグルっと一周して背中の方向から繋がっているらしく、そのまま円形廊下ということらしい。


 そんな構造ならば、必ず円の中心に何か空間があるはずであり、そこが埋まっているというアイデアは完全に脳から弾き飛ばされる。


 しかし、その考察は頭を巡る前に解答を得ざるを得なかった。円の中心に向かい、壁には幾つもの長方形の穴が開いている。縦に長いそれが、奥を透かし、廊下の一行に訴えていた物というのが――――――――この灼熱の元凶だった。


「サァアアテエエ!! もう見えているが! 貴様らには“アレ”の養分になってもらアアウウ!!」


『アレ』などという言葉で済ませられるような代物ではないが、今はそんなことはどうでもよかった。


 ――――――――“養分”


 その言葉の真意を理解できた者は年齢が十を超えた者ばかりで、年少は無理解。彼らの親は枷をチラつかせながらも、未だ未熟な我が子を庇いだす。震え、怯え、恐れ、抗弁を漏らす人々。かくいうイマレも大男の発言に耳を微動させるが、彼女にとって今はそれどころではなかった。自分の命よりも気になってしまう。灼熱の元凶であり、“アレ”と呼ばれたインクレディブルかつ幻のような存在。





 そして、過去に海に厄災をもたらした因縁の相手。





 今もドミノのように続く長方形の穴より窺えるそれは、間髪入れずに叫び続けている。空洞音を連想させたのも「彼」であり、その甲高い音に見合うほど悶え苦しんでいた。


 廊下から、距離にして4、50mの位置にいる彼は、両腕を、この世のものとは思えない、曖昧で茫然とした巨大な枷で固定され、キリスト教を通り過ぎた綺麗なY字をキープ。その身は一糸乱れぬ赤で覆われ、足元は足が見えないほどに燃えていた。背には突起した岩石、頭には片折れの前向きの角。目は綺麗な白円だが、開いた口内からドロッとしたものが垂れ落ち、地面を焼き、相変わらずな赤い歯を見せたことにより、ただの化身的な存在にしか見えない。


 荒れ狂い、ノイズのような音を枷より鳴らし、雄叫び。それが激震を生み、イマレたちの廊下に、そして下にも上にもあるらしい廊下にもその脅威を伝えていく。


「いやあああ!! こわいよぉぉぉ・・・」


「ううううぅぅぅぅ・・・・・」


「な、なんだ、今の」


 大男から気を逸らせ、ようやく円中の存在に気付き始める一行。子供が泣きわめき、親や独り身の顔も、対照的に蒼白になっていく。


 大男含め、ここの施設の者は、フード下から覗く口で、逆三日月を作り赤き者を見る。


「おいおい、あんた等。あれは禁忌に触れる行為のはずだ。何故アレがここにいる? あと、養分ってんなら、飯は必要なかったんじゃねえのか」


 それまで沈黙しつつ、様子を窺っていたボストロが、大男に並ぶ背を更に反り、開口一番毛の混じった顔に激昂を浮かべて、低い怒号を浴びせる。傍から見ればどんぐりの背比べ的な光景だが、ボストロは怒髪衝天、大男は冷静沈着としていて、若干ボストロのほうが大きく見える。


 イマレはボストロの発言から、彼はアレがここにいることに怒っていて、疑問を抱いているらしいと推測。


 獣人の並べ立てる質問に嘆息しつつ、物怖じなく、ちゃらんぽらんとした態度で男は答える。


「メインディッシュに答える事情など何もないが、まぁ、冥土の見上げに持っていくといい」


 フードがめくられ、その屈強で醜悪な面を全員にひけらかし、嬉々とした表情で、窓奥の獄炎に身を包むものを片手のひらを上に向けて指す。


「――――――――すぅぅ。お前らも聞いておけエエエエエ!! 貴様ら養分を吸い尽くし、世界を担ってくれるあのお方こそオオ!! 邪王の一角にして最強の存在ィイイイ!! この“炎上のシンジケート”が管理し、現在はそのお力を伸ばしておられるお方ァアア!!!」


 その次に紡がれた言葉は、全員の顔を一変させるのに蚊ほどの力をも必要としなかった。涙を浮かべ失墜する捕虜、有頂天外している男を見て眉間が食い込む獣。


 そして、蒼髪の少女は脳裏をかすめた何かに頬を強張らせて三白眼を見せながらも、傷弓之鳥のように膝を落としてしまう。




「『災害王』様だァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


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