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生き物好きの英雄道  作者: とこなつ
序 英雄出陣
7/12

6話 だが、狂人はもっと嫌いだ。

 水もない、木もない。動物もサソリのような魔物しかいない。地はカラッカラに干からび、肉の無い骨が、雑草のように辺りに散らばっている。


 時たま吹く砂嵐が、干からびた大地を、永久的に乾燥させ、二度と潤いを持たせることなく、猛威を振るう。


 生命が枯れた、無限と思える大地に、人影1つ見えるはずもないのだが・・・・・・・・


 “それ”は突如現れる。


 空間移動だの瞬間移動だの、それを気にできる者は誰一人いないこの地で、彼女は囁く。


「アハハハ、狩り尽くしたのでしょうか? なんて、つまらないのでしょう。此方は飢えて仕方ない・・・・・ 歯ごたえが欲しいと言っているでしょうに」


 誰も聞いていないのに訴えかけている。日本ではこういった者を「ぼっち」と言うのだろうが。


 いや、「天涯孤独」などと言えば聞こえがいいが。彼女の歩いた道には、赤と白、大地を含めると茶色しか残らない。それは残骸。彼女の飢える原因はシンプルに、食と戦が無いこと。


 それを満たすべく、ひたすら歩く。走る。飛ぶ。


 彼女は悪魔。この世界で誰にも属さず、己の気分で行動する、天災たる化け物。この厄に会い、生き残った者はそうそう居ないが、伝わる伝承には・噂では・討伐依頼書には、こう書かれ、呼ばれている。



「残忍の災禍 シャルテ」



 彼女、いや、“それ”は、今日も直向きに動く。この世界での天変地異を、望みを満たすために探し求める。


 続く荒野はどこまでも、その望みの邪魔をする。だが望みは、多くの生を感じ取るなり、速度を上げて飛び始める。


 ただ、ここから起きる、出来事を知らずに・・・・・・・・























 勇者一行が居なくなり、落ち着いた王国を出立するなり、いくらか魔物と戦いになるソウシ。


 いい加減腹が立ってきたのか、森のど真ん中で叫ぶ。


「なんで、全員邪紋付きなんだよおおおおおおお!!!」


「そんなことで叫ぶと、喉潰しちゃう」


 サッとイマレに指摘され、肩を竦めるソウシ。「玖」の悪魔を相手にすべく、ひたすらあちこちを移動し続けてはいるが、職のお陰で生き物に懐かれやすいはずなのに、動物一匹仲間にできないことが辛かったのだろう。


 ここ最近、邪紋付きの強い魔物が増え、生態系バランスの崩壊が始まってもいるらしく、片っ端からその魔物を退治してはいるが、やはり心が痛いとずっと嘆くソウシ。イマレにもスルーされることがあり、心が折れかけていた。


「じゃあほら、あそこの魔物。邪紋付いてない」


「え! どこどこ?」


 急に声色が明るくなり、辺りを見渡すソウシ。森の一角に、植物があった。それは2m位あり、見上げるほどでかく、紫色の汁を口のような花から滴らせている。


 汁は落ちるなり、地面を少し溶かしている。いわゆる消化液と言う物だ。明らかに触れてはダメな代物であり、日本のRPGゲームなんかではよく目にする「○○フラワー」と言う名前がお似合いの化物だ。


 見たところ、ランク指定「肆」か「伍」に当たりそうな生物だが、ソウシは目を輝かせる。


「おお! これぞファンタジー! かっけえええ!」


「え、これかっこいいの・・・」


 イマレが引いているが、ソウシは植物に興味津々だった。植物はソウシが目の前まで来ても動こうとしない。だが、撫でようとソウシが手を向けた瞬間。


「ブワア!」


 ビシャアア!!


 消化液を吐かれ、ソウシは手の感覚がないことに気付く。彼は溶けているかとも思ったが、実際は火傷のようになっていた。


「ぐ・・・・痛いなこれ・・・」


「ソウシ!? 馬鹿なの!? 死ぬよ!?」


「これくらい、なんてことない。鹿にどつかれた程度、だ、くっ・・・」


「いや、結構効いてるよね。ほら、早く離れて!」


 そう言われても引き下がらないのがソウシ。植物で、少し知性を持った貴重な生物をみすみす手放すような男ではない。だが、直ぐには懐かない。


 どうすれば敵でないと、好意をもって接することができるか考える。ふと、ソウシは過去の出来事を思い出す。それはスライム達と会った時だ。


 悲しみがこもった魔力が放出していたのを、今更ながらに思い出したソウシだが、そのお陰でスライムは彼の気持ちに気付いてくれたのかと仮定する。


「なら、敵意がないと、魔力で証明するか。あの時は感情が不安定だったから、自然と出ていたが、魔力が溢れ出るのをイメージして・・・」


「ギュルル?」


「ソウシ?」


 優しい風のような、黄色を感じさせる、心地よい魔力が辺りに満ちる。植物は消化液を垂らすのをやめた。そして、ソウシが近づくなり、花(頭?)を擦りつけてくる。


「おお、やめろ、くすぐったい」


「ソウシ凄い・・・職業もそうだけど、ソウシの動物に対する研究心も馬鹿にできない・・・ でも、そんな怪我してまで仲間になろうとする? 普通・・・」


「そりゃあ、これだけ懐いてくれると嬉しいだろ? 人以外の生き物は気持ちに正直だからな」


 そう言うソウシの左手をイマレは治癒する。ソウシも痛みが引いていき、額の汗も無くなってくる。


「それに比べて人間は薄ぎたな・・・・ あ、イマレに関しては例外だぞ? 流石に人だからって恩人は無下にできないからな」


「ふふふ、ソウシは身寄りのないイマレを救ってくれたんだから、おあいこ」


 互いに笑いあうソウシとイマレ。そして、植物に意識を向ける2人。


「それじゃあ、俺の仲間になってくれないか? ええと、この植物の名前って・・・」


「ウドルムっていう名前だよ」


「ウドルム! 眷属化!」


 ソウシは改めてウドルムに手を添える。ウドルムが光りだし、ソウシに吸い込まれ、一心同体となる。そして、ソウシは新たに力が湧いてくるのを感じる。


 お約束と化してきたステータス調査。前触れもなくソウシはメニューを開く。


 ――――――――――――――――――――

 月島蒼士 20歳 Lv 270

 職業 生物に愛されし者(クリーチャーマスター)

 筋力 30,000

 魔力 10,001,000,000

 能力 硬化 粘着液 水操 消化液

 召喚 スライム イマレ ウドルム

 ――――――――――――――――――――


 少しづつだがレベルも上昇している。強くなっている。ソウシはしっかりと自身の強化を吟味する。


 ウルドムを仲間に出来たことに、高揚感を感じ、ステータスを閉じる。


「それじゃあ、悪魔探し、再開するか」


「そうだね」


 改めて、足を踏み出し、草を分け、森を抜けて進む。


 広い草原に出て、ソウシ達は進む。地は固くなり始め、気づいた時には草が生えていなかった。


 そして、遠く、巻き上げられた砂により、見えずらいが、何やら人の気配を感じる。


「イマレ、誰か来るよな」


「うん。3人くらい来てる」


 それらは物凄く焦っているようだ。何故なら、肩で息をするように、喘ぎ、


 必死に逃げていたから_________














 ズバシッ!!


 うっすらと見えた人影が縮んだ。正確には倒れたのだが。


 ソウシ達は急いで駆け寄ろうとする。砂嵐が弱まり、人が・・・亡骸が見え始めた。男性2人に、女性1人。

 厳密には“もう1人”いたのだが。

 それを見て、イマレもソウシも額から脂汗を流す。


「アハハ。なんて幸運なのでしょう。此方の追い求めていた者がようやく見つかりました・・・」


 紅蓮にすら見える濃き赤は、もはや芸術の域に達しているかと思えるほど、雑に、繊細に彼女の身に描かれている。黒く、首元までしっかりと覆うドレスに、黒い髪、赤のリボンと左頭についた鹿のような巻き角。


 そして1つだけ大きく発達した、右指の人差し指の爪から、ポタ、ポタ、と、滴を垂らしている。


 決して、ケチャップを使っていたわけでなく。どう見ても普通ではなかった。人を超越した魔力を放ち、それは狂気に満ちていた。


「・・・あんたが悪魔か? どう見ても致死量以上の血が見える気がするんだが」


「沢山食べたせいでしょう。そんなことはどうでもよろしゅうて。其方の魔力が異常に高く感じるのですが、其方は強いのでしょうか?」


 さらっと恐ろしい発言をし、倒れている3人を薙ぎ払い、ソウシに視線を置く。


「アハ、自己紹介まだでしたね。此方はシャルテというエンシェントデーモンです」


「・・・・・・まさか・・・“残忍の災禍”なの?」


「あら、よくご存じで。世間ではそう呼ばせているの。そのほうが、恐怖感が増すでしょう?」


 息をのむイマレ。ソウシも、結構シャレにならない、相当強い相手だと、本能的に感じる。


「さて、其方も名を」


「・・・月島蒼士だ」


「ツキシマソウシ・・・ですか。では、いざ、勝負しましょう!!」


 スパンッ!!!!













 痛い。熱い。痺れる。――――――――激しい衝動が抑えられない。



 ソウシはシャルテの動きが目で捉えられなかった。瞬き1つで相手の視界から消えるなど、悪魔らしく、常人的ではない。



 右手が痛い。イマレが残忍の災禍だとか言っていたことや、生きる者が次々と犠牲になっているという噂があったが・・・・・・・・いや、それよりも痛い。例えるなら蟹10匹にしっかりと挟まれたってところか。


 蟹は種類にもよるが、50や100キロ位の力、平気で出せるからな――――――ってそうじゃなくて!!


 ――――――ここまで冷静に考えられるんだから心配はないだろう。それよりイマレとあいつは・・・・











 ドカアアアアアアアアアア!!


「イマレ!?」


 振り向くと、イマレが遠くに横たわっていた。息をしていないのかと思うほどに、静かになっていた。


「イマ、レ、・・・・ぐっ・・・・」


 ソウシは右腕を見ると、食い込むように大きな傷ができていたことに気付く。痛む腕を押さえつつ、イマレに近づく。だが、さっきまで見えていなかったシャルテが、ソウシの行く手を阻む。


「な、んで・・・お前はこんなことを・・・・」


「それは・・・楽しいから、でしょうか」


 余りにも自分勝手な理由、何も救えず何もできない自分、そんな苛立ちと無力感に歯を食いしばり、相手を睨むソウシ。


 シャルテはニマーっと、まるで滑稽なものを見るかのような目で微笑む。


「しかしどうして、戦わないのでしょう。どうして動かないいのでしょう。あなたは私を楽しませてくれると思ったのですが」


 孤独感・恐怖感・嫌悪感といったものがソウシを塗り潰していく。だが、明らかに変な精神異常に彼は違和感を覚える。


 震える体をどうにか力で抑え込み、手にサッシュクローをはめる。その強靭な爪でシャルテを切ろうと走る。


 斜めに振り下された爪は、無を切り、空気を振動させる。さっきまでそこにいたはずのシャルテは後ろに回り込んでいた。


 そして、躊躇いもなくソウシの背を、左足を軸に、右に1回転して蹴り飛ばす。


 爆音を立て、イマレの隣に吹き飛ばされる。すると、イマレも意識が戻ったのか起き上がり、辺りを見渡し、ソウシを認識する。


「ソウシ!? い、いま回復する!!」


 緑の光が辺りに満ちて、ソウシの傷を塞いでいく。シャルテはそれを物珍しそうに一瞥する。


「ほう、回復が使えるとは珍しい。まあ水人の姫様なのでしょうし、当然なのかもしれないけれど。」


「いたたた・・・ ありがと、イマレ」


「よかった。それより、あれは異常。この世でも数少ない、古参の悪魔。あの強さは規格外」


 エンシェントデーモンとシャルテが言ったが、それは、500年ほど生き続けて、ようやくその高みへと至る、長老種なのだ。その中でもシャルテは喧嘩っ早く、デーモンの中でも一際目立っていた。その性格ゆえ下剋上などをいくつも体験しており、過酷な環境でも死ぬことなく生きてきた。


 威風堂々たる態度で誰からも見下されず。活殺自在な性格で誰からも恐れられていた。そのため、誰も戦おうとせず、結果的にシャルテは1人寂しく飢えていたが。


 それも終わり。目の前にいるのは、決して自分を飽きさせない、強者だと信じているから。


「アハハハハハ。さあ、戦いましょう。私は飢えていたのでしょう。滾って仕方ないです!!」


 笑いとともに、黒く、鋭い翼を広げ、体を捩らせながら、来る戦いに昂奮冷めやらぬシャルテ。


 対して、腰を上げ武器を構え、狂った化け物を視認するソウシ。伴って、イマレ。


 悪魔とはいえ人に見えてしまい、その性格も相まって、ソウシはガリアのような醜さを彼女から感じる。イマレをいたぶった、その愚行を、片時も忘れんとばかりに、顔を歪ませる。


「イマレ、援護を頼まれてほしい」


「頼まれた。 任せて」



 このとき、この世界で、数少ない強者を除けば、最強にして最凶の、攻防戦が始まった。



「人は余り好きじゃないんだ。だが、狂人はもっと嫌いだ。俺は、イマレと、犠牲になった多くの生命に懸けて・・・・・・・ シャルテ! お前を討つ!!」


「アハハハハハハハハハ!! 全身全霊で戦いましょう!!」


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