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生き物好きの英雄道  作者: とこなつ
序 英雄出陣
4/12

3話 エルト王国

 チュンチュン


 鳴き声が聞こえ、日が差す。下は・・・・・砂ではなく、布だ。そしてここは宿ではなく、ソウシ達に譲渡された家である。ドアが開き、透き通った青い髪にと貝の髪飾りを着けた女性「イマレ」が現れる。ご飯ができたと知らせを受け、直ぐにベットから起き、食事に向かうソウシ。


 ここはエルト王国。ソウシ達はわけあって、この国に慕われてしまっていた。街道に出れば多くの人に囲まれるわ、買い物もろくにできず、待遇が急に良くなり、ソウシの人間不信な性格には辛い現実だった。


 意に反する結果になってしまったここまでの経緯を、ソウシとイマレの出会いの後から語ろう。それは少し日が落ち始め、草原の水平線が夕日によってぼやけ、金色に統一された頃だった。







 ソウシはイマレが過去にお忍びで訪れたというエルト王国を目指して、東に向かって歩いていた。


「ソウシ、そろそろ休まない?」


 日も落ちてきたため、ソウシはその提案を直ぐに飲み、キャンプでもしようとしたが、ソウシ達はその類の技量を持ち合わせておらず、草原のど真ん中で寝るしかないと気付き、肩を竦めた。


 ソウシが悩んでいると、イマレが「水のベットは、ソウシが濡れるし。」と呟いたのが耳に入った。その時ビビッとソウシが閃き、直ぐにスライムを召喚する。その数10匹程度。


「5匹ずつでベットになれたりするかな?」


 そう問うと、スライム達は、日本にあった気持ちよすぎるクッションを彷彿とさせる形状に変化した。乗ると沈み、体を包んでくれるため、外敵からの奇襲にも耐えられるようになっている。


 日が沈んだ草原にポツリと置かれた2つの半透明クッション。異様な光景だが、辺りには誰かの影一つ見えない。襲撃される心配はなさそうだ。


 イマレは目を輝かせたと思ったら、疲れに任せ、そのままスライムに身を投げる。プルンと音がしたが、ベタベタせずむしろサラサラしていてとても快適なので、いくら水人の姫様でも、襲い掛かる眠気には敵わなかった。


「ソーシー、おやす・・・・み・・・・・・・・・・・・・・・zzz」


「早いな。そんなに気持ちいか?」


 ソウシも同じくスライムに飛び込むと、3秒程度で落ちてしまった。そのまま夜明けまで、何事もなく、平和に起きることが・・・・・・・・・・・・・・出来なかった。




「ソウシ、起きて・・・・・はーやーくー!」


 何事かとソウシが起き上がると、イマレが涙目でお腹を押さえていた。何かしでかしたっけと、昨夜の記憶を追うソウシだが、原因が一向に思い出せない。


「お腹すいた」


 言われてみれば、昨晩は食事をとっていなかったと想起するソウシ。何かないかと辺りを見渡すと、川が少し遠くにあるのが見えた。幅は人2人分くらいで、そこそこ深く、魚も数匹泳いでいるのが見える。


 ソウシは川のど真ん中に立ち、魚が集まっているところを「水操作」で陸に水ごと飛ばした。強引な魚釣りだが、確実に釣れる方法だ。


 イマレも便乗して、結果、20匹取ることができた。そして、原始的に石で火を起こし、木に魚を刺して焼いた。


「そういや、イマレって海にいた頃って何食ってたんだ?」


「んーー?」


 口をモゴモゴさせつつ、イマレが答える。曰く、水人は1週間に7回程度食事するだけで、余裕に生活できるそうだが、魚だけでなく、サメやクジラなんかも5人くらいで仕留めて、捌いて、頂くそうだ。


 サメを生身で余裕で相手にする当たり、やはり強いのだろうと、ソウシは改めて認識する。しかしサメとは言うが、それはただの動物、実際には水中の上級魔物を狩りまくったりするらしく、水中で水人に敵う者などいないだろう。


 話を戻すが、2人が食している魚は、川魚とは思えないほどに身がしっかりとしており、白身の淡泊さは心地よい旨味を引き出してくれる。味付けは無いが、ソウシは日本を思い出してしみじみし、イマレは次々と食べる。イマレに関しては愛らしい見た目と食欲のギャップが凄い。


「ご馳走様」


「それは何?」


「あ・・・・ま、まぁ、俺の故郷に伝わる、食後の習慣かな?」


 それを聞き、イマレはソウシを真似するように手を合わせ、同じ言葉を口にする。そして火を消し、スライムも召喚から解除してソウシの体内に移し、2人はエルト王国に向かって歩いていく。


 森一つ、山一つ越え、ついに王国が見える。壁に囲まれ、警備は万全。町と城が見え、繁栄しているのが一目でわかった。


 だが、その大きな壁の一角、丁度門と思われる箇所で何か大きなものと人が戦っているのが見える。


「あれ、ドラゴンか?」


「そおみたい・・・・・・助ける?」


 ソウシは一瞬躊躇うそぶりを見せる。助けようとしたのか、それともドラゴンに興味があったのか、仕方ないと、王国に向かって走り出す。イマレも女の子とは思えない速度でソウシについて行く。


 ソウシもイマレも、ステータスの値が高く、足の力も凄いため、秒速80mくらいで走ることが可能だ。そのため横から見ると、有名カーレースゲームにしか見えないのだった。


 風を薙ぎ、草原を駆け抜けるソウシ達。目前の城の入り口付近には、青く、それでいて赤き炎を吐く、典型的なドラゴンがいた。それに対抗している兵士達も腕利きなのか、だいぶ持ちこたえてはいるものの、敗北色が濃厚だった。















 その兵士の1人が咆哮を上げ、剣でドラゴンに切りかかる。それをドラゴンは片手で受け止めてしまう。


「くそっ、これでもくたばらんか・・・」


 力強い男兵士の渾身の一撃は、カツンと音を立てて止められる。それをあざ笑うようにドラゴンは鼻を鳴らす。


 兵士のほとんどは疲弊、もしくは消されてしまっている。今回の相手は王国の定める警戒度で「(しち)」の値に属し、下手をすれば王国が蹂躙されかねなかったため、納得とも言える。


 だがこの緊急事態に、兵士が40人しか呼ばれなかったことに、切り込んだ男は少し腹を立てていた。いや、この時期、護衛などに向かう兵士も多く、致し方ない結果ではあるのだが。


 男は剣をしっかりと持ち、耐えていたが、相手が本気を出して腕を押し出したことにより吹っ飛ばされてしまう。


 そして、口を大きく開けたドラゴンは、気合玉の様に火を正面一点に収縮し始め、いつ放たれてもおかしくなかった。


「俺もここまでなのか・・・・」


「兵長!!」


 周りの兵士が男を守ろうと走り出す。だが男はやめろと叫ぶ。


「こんなところで無駄死にするなよ。こいつに勝てる方法を確実に見つけ出すのがテメェらの仕事だろうが!」


 それを聞き、我に返ったように止まり、ドラゴンから離れる兵士達。兵長の言葉に感服し、悲しみ、次々に言葉を述べる。


「すみません。必ずこの国を守って見せます!」


「この命、無駄にしません兵長おおお!!」


「ああ、頼んだぞ」


 ドラゴンはもう今にも放たんとする様子。兵長ももう駄目だと、目を閉じる。彼が走馬燈を見そうになったその時。


 ザバアアアアアアア!!


 轟き響き、地が揺れる。咄嗟に目を見開き、兵長は背後に目を向ける。そこに映っていたのは、紛れもない大量の堀の水であった。


 このエルム王国は、魔物の大群がよく押し寄せることがあり、それに対抗するために城壁周辺に堀を作って、中に水を入れているのだ。水に落ちた魔物を城壁から矢で討つというのが基本戦法になっている。


 その堀の水は、龍のごとく華麗に宙を舞い、ドラゴン目掛けて一直線に飛んでいく。消防車顔負けの勢いと正確さで、彼の化物の頭部の左側に直撃。不意を突かれ、バランスを崩し、右に倒れる。収束されていた炎球は兵長から的を外し、少し横に放たれる。


 煙幕を巻き上げ、そこにあったはずの土の土地は、破壊されたというより、溶けたという表現が相応しい状態だった。あれが自分に当たっていたらと思うと、身の毛がよだった兵長だったが、それよりも増して驚愕することになる。


「ええと、粘着液でああしてこうして・・・」


 そこにいたのは、若き青年と青い少女。そして青年が、暴れる龍を粘着液と呼ぶもので拘束していく。兵士も肩透かしを食らったように腰を抜かし、すべての視線が青年に向く。


 その大衆の目を全く気にせず、ソウシはドラゴンを撫でるが、一向に収まる気配を見せない。怒り奮闘しているドラゴンを見て、そのままソウシは疑問を口にする。


「なあイマレ、このドラゴン、全く俺に好意持ってくれないんだけど」


「それは、邪紋が付いているからだと思う・・・」


 イマレがドラゴンの首に指を指す、そしてソウシもそこに目を向ける。ドラゴンの左首に左右対称で赤黒く奇妙な模様が描かれている。これが邪紋と言うものだ。


 イマレ曰く、邪紋は絶対に外れず、付けた主人に絶対服従になるという。今も多くの人や亜人、動物、魔物が服従させられているとのことだ。ほとんどが悪人による仕業だが、この邪紋の源は彼の「洗脳王」だという。


 邪紋が広まり、1400年は立っているらしいが、それにより苦しめられた者も少なくないということを理解したのか、ソウシの顔が歪む。


「こればっかりは仕方ないのか・・・・・・・・嫌、でも何とかすれば邪紋も、」


「無理だよ、ソウシ」


 断言され、ソウシも打つ手なしだった。だが、人以外に手は出さないと頑固にとどめを刺さないソウシ。その言葉を聞き続け、むしゃくしゃしたのか、イマレがドラゴンの頭部を蹴り飛ばした。


 ズドオオオオオ!!


 水人としての格を見せつけるが、ドラゴンの頭はフクロウに引けを取らないほどに回転した。勿論一撃で昇天してしまったが、それを見てソウシは頭を抱えて泣き叫び、エルト王国の兵達は皆顎を落としかねない状態で放心していた。


「イマレええ! ひど過ぎない?もう少し優しく・・・」


「痛ませてない・・・むしろ優しさのつもりだったんだけど。それにやっておかないと、また人にも動物にも被害が出るよ?」


「はっ!! それは駄目だ。こうなったからには、洗脳王も俺の標的になるわけか・・・・ぐぬぬ、目標がハード・・・・」


 ソウシの宿敵?に洗脳王がラインナップインしたところで、兵長がソウシに駆け寄ってくる。


「ええと、貴殿はソウシという名であっているか?」


「・・・・・月島蒼士です」


 イマレや動物とは気兼ねなく話すのに、やはり人と話す時は距離をとるソウシ。アルト王国での出来事から人間不信が加速しているようだが、一応話は聞けている。


「今回のこの討伐、誠に感謝します。王国の存亡を懸けた戦いだったため、我らも死を覚悟しており、」


「ああ、堅っ苦しいのはやめてくれ。別に感謝しなくていいし、とりあえず王国に行かせてくれ」


 そう言い、ソウシは王国に目を向ける。灰色の如何にも城というものを感じさせる壁は、人10人分ほどの高さがあり、町を囲むように作られたそれは、見えている端から端で90mはありそうで、ソウシもその規模には驚いていた。


 そして、堀付き城壁の要、「跳ね橋」もまた、固そうな木材と鉄の骨組みと、それを持ち上げる強靭な鎖で構成されており、難攻不落にも見える。


 その完成度の高い城とは裏腹に、何故か兵はボロボロ、数も少ない。それに疑問を持ったソウシは男に聞く。


 彼が言うには、最近邪王の動きが活発になり始め、魔物なども多くなり、そのほとんどが邪紋付きらしく、商業馬車の護衛や警護に多くの戦力が分散されてしまい、あのドラゴン1匹に苦戦してしまったという。


「理由はわかった。まあ、とりあえず俺は住める場所が欲しい。動き続けたから疲れている。それでだが、この王国に宿はあるか?と言っても金無いけど」


「そんな、ソウシ殿を宿なんかには泊まらせませんよ! 国王に報告しますから家、いや、屋敷でも贈呈されてもらってください!」


 物凄く胴上げされている気分になったソウシは、少し怪しみ、何か企んでいないか聞いたが、イマレに阻止されてしまった。


「折角のお言葉、ありがたく受け取るのがいいと思う」


 ソウシは、面倒事は御免とばかりに肩を竦めるが、仕方なく国王に会うことにした。


 跳ね橋をくぐるとそこはまさしく、中世や西洋なんかを思わせる見事な城下町が広がっていた。レンガの家に出店、宿屋に酒場に武器屋、馬や中級の魔物に馬車を引かせているのも見える。


 そして、いわゆる冒険者と言うものらしい人物も多く見かける。剣や杖、盾や弓、槍や斧なんかを皆持っている。それだけで強そうだが、やはりランクと言う物もあるのだろう。明らかに魔力が多いパーティーと少ないパーティーに分かれているのがソウシにもわかった。


 大きな城下町の街道を進み、アルト王国を思い出すようだがそれでいてより豪華な城にたどり着く。


 兵長と呼ばれる男、名は「ダルク」。彼に案内されるままに王室に案内される。道中ソウシのことを気にする者も多かったが、ダルクの話を聞いた途端、直ぐに謝辞を述べ、感謝で土下座しかねぬ勢いだった。ソウシはソウシでそれらすべてをスルーしたのだが。


 王室は長方形型で意外と狭く、会議室のような雰囲気で、長いテーブルとその2対の長辺に7つずつの椅子、短辺の片方(部屋の入口より遠い方)に国王が座る椅子がある。


 まあ、その椅子に、もう国王は座っているのだが。


「報告は聞いているですぞ! ソウシ殿、此度は誠に感謝するのですぞ!」


 その国王は戦士の様に筋骨隆々とした体に、小粋だが男らしい顔。しかし喋り口調がどうも違和感があり、何とも言えない男だった。


 彼は今回のソウシ達の活躍により、自然と嬉々たる表情になっていた。不覚にも王国が崩れかけていたところを救われたのだから当然だ。


 そんなどこか抜けているこのエルト王国の王の名は。


「私の名前はハーデルタ・クライン8世と申しますのですぞ!」


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