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生き物好きの英雄道  作者: とこなつ
序 英雄出陣
3/12

2話 クリチャーマスター

何回か改稿しています。内容は差ほど変わりありません。

 どれくらい経っただろうか。


 波の音と、鳥の声、サラサラした地面に、心地よい日差し。・・・・・って鳥?鳥はどこだろう。というか、俺は溺れたはずじゃなかったっけ?落ち着こう、まず勇者召喚に巻き込まれてそれで、落とされて、なぜか生きてる。なんで?まあいい。とりあえず、目を開こう。


 ソウシが見た先は真水色の透き通った空。地面は砂で目の前には大きな海があった。兵団長ガリアに突き落とされ、溺れかけたソウシはなぜか生き残っていたのだった。まさしく奇跡だが、なぜ助かったのか思い出せない。微かに人の声を聞いたような気がしたのだが。


「まあいいや。ここはあのアルト王国ではない・・・よな。向こう岸に見えているあの陸がアルト王国があった場所だとすると・・・」


 見渡すと、右の方で向こうの陸はこちらと繋がっているらしいことがわかった。ここにいても何も始まらないので、とりあえず、辺りを探索しようと思う。


 こちらの陸の奥は森になっていて、一見すると、南の島という感じがする場所だ。ソウシは浜辺に沿って足を進める。だが、足の下にあった何かを踏みつけ、激痛が走る。


「いだあああ!?」


 よく見ると下にあったのは、貝・・・ではなく、ヤドカリだった。ソウシは目を輝かせ、ヤドカリを拾う。すると、ヤドカリも満更ではなさそうに喜ぶ。だが突然、ヤドカリが光り、ソウシの体に吸い込まれる。


 何が起こったかわからず、ソウシは焦るが、ふと思い出し、ステータスを見る。


 ――――――――――――――――――――

 月島蒼士 20歳 Lv 52

 職業 動物に愛されし者(アニマルマスター)

 筋力 50

 魔力 1,000,000

 能力 硬化

 ――――――――――――――――――――


 前回見た時より、少しばかり変わっていた。どうなっているんだ?これは職業のせいなのかな?と、ソウシは思案する。


 ソウシは表示されている「職業」の文字を触る。画面が切り替わり、職についての説明が出てくる。


 ――――――――――――――――――――

 動物に愛されし者

 動物に好かれやすく、好意を持った動物を眷属化する。

「眷属化」・・・動物を仲間にして自分に取り込む現象。眷属化した者は眷属の力を得る。また、眷属の強さによって得られる力も変わる。


 例

 下級動物「小魚」

 中級動物「エイ」

 上級動物「サメ」

 ――――――――――――――――――――


 眷属化という効果によるものだっていうのはわかった。だが、好意を持たれないと意味がないのなら、猛獣は仲間にするのが難しそうだ。


 ソウシは考えようとしたが、思考を放棄して、衣食住を整えることにした。


 建築や、鍛冶、織物などといった能力は持ち合わせていないため、建物は作ることができないため、直ぐに街を探すことにした。森を抜け、川を越え、また森に入る。当てずっぽうで歩き回るが何一つ見当たらない。


 休憩がてら木の下で座り、少し水でも飲もうとしたその時。草の中から、ファンタジーお馴染みの、スライムが出て来た。まんまゼリーが歩いているような感じだが。そのポップな見た目とは裏腹に、物凄く警戒している。


「おお!これがスライムか!可愛いい!!」


 一撫でしたいと近づくソウシ、だがやはり敵と見られた。辺りから10、20匹とスライムが現れ、ソウシに向かって攻撃してくる。


 小さいながらも、数が集まり、攻撃力は増す。60匹くらいになり、もういじめにしか見えなかった。


「なんで!? イタッ! やめ、て」


 ソウシはうずくまる。だが、スライムは攻撃を止めようとしない。傷がつくというよりは、殴られているような感じなため、どんどん記憶が遠くなっていく。ソウシはまたしても、死にそうになる。そして悲しみが彼を覆っていく。


「なん、で。魔物、は、ダメ、なのか、よ・・・同じ、生き物じゃんか、う・・・」


 ソウシの膨大な魔力に悲しみがまとわりついて放たれる。それは動物にとって威嚇に近い現象だが、魔物に威嚇など効かない。


 そして、このときソウシは、この世界を憎んでいた。この世界に召喚した者・・・・・ガリア・・・・・勇者・・・・そして、その理由になっている「三大邪王」を。


 元の優しい性格がなくなり始めたその時、急に痛みが消えた。ソウシがゆっくりと目を開くと、そこには一匹のスライムが。


「ど、どうした?」


 グシャグシャの顔でソウシが尋ねる。するとそのスライムは体の一部を手の様に伸ばし、ソウシの頭に乗せてナデナデした。ソウシは嬉しくなり、スライムを抱きしめる。スライムはソウシの気持ちに気付いたらしい。


 その時、一気にスライム達が光り、ソウシに眷属化された。


 が、しかし、急にソウシの体に激痛が走る。それは、職の法則を破ったことによる、急速的進化とも呼べるものだった。


「痛ああ!? ウガッ・・・・ガハア! ・・・グフウううううう!!」


 甲高い音とともにソウシの職が変更されていく。ソウシの行動に沿うように、ソウシの気持ちに合うように。ソウシが壊れるのが先か、進化が先か。そのまま5分程経つ。


 痛みに耐えるその根性が功を奏したか、激痛は少し和らぐ。まだ痛みは続くが、何故か心地いい。よく見ると、体を緑に近い青の光が包み、回復しているらしい。


「これは・・・回復魔法っていうやつか?」


 倒れた状態で、ソウシは首を曲げる。すると、木の陰から、明らかに能力を使っていそうな人物が見えた。目が合ったため、その人物は隠れてしまう。同時に回復が消えて、痛みが戻ってしまった。


「いだあああああああああああああああ!?!?」


 ソウシはまた激痛に叫ぶ結果となった。


 慌てたように隠れた人物は飛び出し、ソウシの顔近くに正座し、全力で回復をする。ソウシはその人物を見て、何故か飛び上がった。


 その人物は女性だった。青で統一された可憐で、爽やかな衣装。海をイメージしたような貝の髪飾りに、川の様に透き通った髪。水から出てきたのか、滴が体に少しついている。ソウシにしては珍しく、人に目を奪われていた。


 ソウシは体に異常がないか確かめる。痛みはもう消えていて、スライムも眷属化していた。ステータスは、やはり変わっていた。


 ――――――――――――――――――――

 月島蒼士 20歳 Lv 60

 職業 生物に愛されし者(クリーチャーマスター)

 筋力 100

 魔力 10,000,000

 能力 硬化 粘着液

 召喚 スライム

 ――――――――――――――――――――


 動物ではなく、生物となっている。スライムが好意を寄せたことによる変化であるのは明白だった。そして、ステータスの全てが向上しており、ソウシも何気に嬉しかったのだった。


 そして魔物も眷属にできるようになり、召喚も可能の様子。魔物も動物と同じく、下中上の3級制らしい。スライムはやはり下級だが。


「・・・あの・・・大丈夫?」


 完全にスルーしていたが、さっきの女性。ソウシは恐る恐る目を向けると、心配そうにガン見されていた。先程、青い衣装と言ったが、形はオフショルダーに長めのスカートというふうな姿で、余り人と好んで話していなかったソウシには結構な刺激であった。


 おずおずと無事を知らせると、相手はほっとしたように頬を緩める。そしてまた目を合わせ、その娘は口を開く。


「私、イマレ・・・・君が、溺れかけたの、助けた」


 ソウシは思い出した。溺れかけた時に微かに聞こえた声を。あの時の優しい声がイマレだったことを知り、即座に礼をする。


「大丈夫。畏まらないで・・・それよりも、君の名前は?」


「・・・俺は月島蒼士だ」


 ソウシも自分の名前を名乗る。そして、ここまで来た経緯、自分の事についても。


 そのついでにイマレについても聞こうとしたが、驚いたことに、彼女はソウシの過去を聞き悲しみ、泣いていた。



 そして、彼女は文字通り、女神のような神々しい笑顔で、泣きながら彼に抱き着き、囁く。




 「辛かったんだね―――――――」




 まるで自分の体験談を話すように、ソウシの空しく力の抜けた心を抱擁するかのように。


 その言葉は、彼の何か大きなものを呼び覚ました。


 優しい言葉など、親か、親友だった勝島正人位にしかかけられたことがなかったソウシは、何故か急に涙を流してしまった。


 見ず知らずの女性に胸をそっとつけられ、顔も右肩にかかっていたため、ソウシはおっかなびっくりではあったが、ここまで優しくしてくれるこの子を、どういった感情で迎え接したらいいのかわからなかった。


「グスッ――――俺は余り人を信用できないんだ。でも、君は多分いい人間なのかもしれないな」


「――――――――ソウシはイマレを“人として”見てくれるの?」


 ハグを解除し、当たり前だろ?と流すように発言するソウシ。イマレは気が抜けたような顔で、少し頬を染める。


「で、イマレはこれからどうするんだ?」


「・・・・・・・・・もうイマレには、行く先なんてないかな。命も狙われているし。」


 急に物騒な言葉が出てきた。胸騒ぎとともに、口が開き、そのことについて詮索してしまう。


 だが、私のことはいいと、黙秘された。しかしその顔はとてつもない冷たさを帯びていることに気付いた。


 確実に過去に何かあったのだろう。探求心が何故か疼き、気になってしまい、相談に乗るとソウシは迫る。人を余り好いていなかったのに、イマレは放って置けないと考える自分に、少し呆れるソウシだった。


 そして、数分経ち、正直に話してもいいと考えたのだろう。イマレも過去を打ち明ける。


 曰く、彼女の住む土地は、海の底の「サラストシアル」という海底都市。彼女らは「水人(すいじん)」、言わば亜人。魚のエラと似た器官を持ち、水と空気の両方から酸素を得られるらしい。正に水陸両用というわけだ。そして、少し前、そのサラストシアルは「災害王」によって滅ぼされた為、イマレは命からがら逃げてきたということらしい。


 そして驚くことなかれ、イマレはその都市の次期女水帝、つまり女王になる人物だったのだ。


 割と高位の存在らしく、肝も据わっているはずなのに、説明した彼女の顔には、まだ孤独感と沈み切った暗さが見えた。


 命からがらということは、恐らく親は――――――――


 推測に過ぎないが、恐らくその故人を生み出したのは、彼の「災害王」だと想定し、ソウシは彼を憎んだ


「――――――――――俺に出来ることはないかな?」


「・・・え?」


 ソウシとしては、勇者としての素質もなく、死にかけ、動物(魔物)と友達になれないのかと落ち込み、生きる道を失いかけたところを2度も救ってもらい、気遣ってもくれた人を見捨てるなんてことはできなかった。


「あー、その、イマレが安心できるところに落ち着くまで、一緒に来てくれて構わない。」


 その干天の慈雨的な温かさに、胸が熱くなり、イマレはまた、ぽろぽろと涙を流した。


「いいの? イマレ亜人だし、凄く迷惑かけるかもしれないし・・・」


「亜人は関係ねえし、君からの迷惑なんて迷惑のうちに入らないと思う。俺だって、生物が好きなだけのただの一般人だぞ? そんな俺を救ってくれたにも関わらず、心の傷すら癒してくれた。恩に恩を重ねられちゃあ、人間不信だと自負している俺でもときめいちまうぞ。」


 畳みかけるように説得すると、イマレも目に輝きを見せ始める。


「―――――正直、一人では心もとなかった。ここまでだっていくつもの死線を退けてくれたし。君には本当に感謝している―――――俺に出来ることならなんだって尽くすよ。」


 余りにも遠回しなプロポーズに近い発言だが、後半の言葉を確と受け止め、イマレはその身を震わせていた。


「こんなに・・・幸せに・・なったのって、何時ぶりだろう・・・・・ 是非・・・傍に。」


 長く暗闇を彷徨っていたイマレは、一筋の光を前に力なくして、その光にもたれかかる。光、ソウシは受け止め、泣き崩れる彼女をそっと撫でた。

















 数分後、再び向き合う2人。日は西に傾き始めていたため、柿色に空が染まっていた。


「じゃあ、これからよろしく。イマレ」


「よろしく」


 2人は手と手を取り合い、握ろうとした。


 その途端、突如イマレが光り、「眷属化」されてしまった。


 驚愕するソウシ、いくら亜人でもそれはダメだろうと、大量の汗を出しつつステータスを見る。彼女が召喚できる存在であってくれと、教徒でもないのに過去最高に祈りを捧げるソウシだが、その前に気付くことが色々あった。


 ――――――――――――――――――――

 月島蒼士 20歳 Lv 159

 職業 生物に愛されし者(クリーチャーマスター)

 筋力 10,000

 魔力 10,000,000,000

 能力 硬化 粘着液 水操

 召喚 スライム イマレ

 ――――――――――――――――――――


 全ての項目において跳ね上がっていたのだ。レベルは光人を遥かに凌駕し、筋力魔力共に上位の中でもトップ級に、能力の水操作に関しては、レベル次第では、世界規模の水を扱えるようになるものだった。


 そして召喚という項目に「イマレ」の文字があることに気付き、力が抜けて尻餅をつくソウシ。何とか起き上がり、地面と垂直に出した手に力を込めるようにして、イマレを想像する。目の前が光り、数十秒ぶりにイマレが姿を現す。


「ふう、ビックリした」


「これ亜人も眷属化できるのか・・・・・・むやみに眷属化して相手が召喚可能じゃなかったら・・・・・・・・・・・・・・・」


「亜人は皆上級存在だから、心配ないと思う。」


 その言葉を聞き、目から鱗な表情になるソウシ。聞くと、やはり亜人は人と魔物の両方の能力を引き継ぐため、元々のステータスが高いらしい。だから、眷属化してもほぼ確実に召喚できるのだとか。


 そして、後で気づくことだが、眷属の食事は必要なく、生物に愛されし者(クリーチャーマスター)になったことにより、眷属化した全ての生物を必ず召喚できるようになったのだ。だから、ソウシの心配は杞憂というものだった。


 生物次第では様々な戦略を組むことが可能で、眷属は主が死なない限り、不滅。一心同体ということだ。眷属の数によって、ソウシの力も増すため、無自覚だが、ソウシも異常なチートだった。


「びっくりしたけど、改めてよろしく。イマレ」


「よろしく、ソウシ」


 再び握手する2人。互いに急な生活の変化に戸惑っていたが、分かり合える者同士、運命の悪戯か何なのか、こうして巡り合うことができたのだった。


 異世界に来て初めての人型の仲間。王国の兵団に何故か裏切られ、むなしく死にかけたソウシは、なんとか地に足を付け歩き出すことができた。そしてソウシはこの世界での第一歩になる目標を決めることにする。


「それで、今後の方針だが。イマレは災害王にやられたんだよな」


 コクリ、とイマレは頷く。そしてソウシは、眷属になってくれた彼女への感謝や、この世界に来る要因になった三大邪王を討つという意志の元、まず災害王から滅すことに決めた。他の邪王はゆっくりでいい。


 そのために住居、と言うよりしっかりとした寝床が欲しくなったソウシは、イマレが知っていた、この近くにある王国に向かうことにした。


 その王国は「エルト王国」という、この大陸で、最も広い王国だった。


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