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人は見かけじゃわからない!  作者: さわしずく
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前編

ざまあものは初めてです。よろしくお願いします!

私がまったりとベンチに座って本を読んでいると、中庭の一角が騒がしくなった。

中心にいるのは、黒いぐりぐりの巻き毛に派手な化粧。趣味の悪いびらびらのドレスを着たご令嬢だ。


…なんだっけ、名前忘れちゃったわ。公爵令嬢ってところは覚えてるんだけど。


興味のないことにはまったく記憶力が働かない。困ったものね。

公爵令嬢の後ろには、取り巻きのご令嬢がフォーメーションを作って控えている。毎度、綺麗に間隔がそろっているので、練習しているのだろうか。律義なことだわ。


「おほほほほ!ごきげんよう!」


派手な令嬢はのけぞって誰かに挨拶した。


「あ、ヴィヴィアン様。ごきげんよう!」


明るい声で返事が返ってきた。


そうだそうだ、ヴィヴィアンだ。思い出した。またすぐ忘れそうだけど。


「あぁら!今日もそのドレスですか!?リリアナ嬢!」


いつもに増して鼻高々のヴィヴィアンが声をかけたのは、リリアナという少女だ。

今日は新しいドレスを自慢したいらしい。


「このドレスですか?古いけど、気に入ってるんですよ~」


リリアナは遅れて入学してきた男爵令嬢なのだ。金髪碧眼、小柄で清楚、透明感のある美少女だ。朗らかに答えてくるりと一回転して見せるのだから、まったくヴィヴィアンの意図は伝わっていないようだ。

ぐっとヴィヴィアンは言葉につまったが、なんとか口を開いた。


「そ、そちらの家では、ドレスも満足に用意できませんの?」

「うちはしがない男爵家ですから~とてもとても!」

「わたくし!今日も新しいドレスですのよ!」

「とってもお綺麗ですよ!」

「くっ」


ほら、伝わっていない。こんなことを、最近ずっと行っているのだ。

何故こんなことをヴィヴィアンが行っているかと言うと、多分先日のお茶会が原因なのだ。

ヴィヴィアンの婚約者である第一王子が、リリアナに声をかけたから。


それだけだ。


何をそんなに虐めることがあるのだろう。たった一言二言なのに。

まぁ、私には関係ない。こうして穏やかに学校生活を送るのが一番だ。

騒ぎがおさまってしばらくすると、隣に誰か座った。


リリアナだ。


「ジュリ様。お隣、座らせてもらいます」

「いいけど」

「他のところは騒がしくて」

「でしょうねぇ」


リリアナは誰にでも話しかけるので、ここで本を読んでいる私にも時々話しかけて来ていた。私が名前を覚えたのは最近だけど。


「最近、ヴィヴィアン様に声をかけられるようになったのは嬉しいんですけど、ああして囲まれるとドキドキしちゃいます」

「…ドキドキですむのね…」

「後ろの方々は、やっぱりお話しくださいませんけどねぇ」

「…しゃべりたいの?」

「えぇ!せっかく学園に入ったのだから、お友達が欲しいです。まぁ、将来医者になるためにここに来たので、本分は勉強ですが」


リリアナは、こんなことをけろりとした顔でのたまうのだ。


「私は友達じゃないの?」

「え、私のようなものが友達と言っていいんですか?」

「かまわないわ」

「まぁ!ジュリ様!ありがとうございます!さすがです!」

「さすがって何よ」

「皆さま、ジュリ様には一目置いているようですから!」

「一目置くと言うか、遠巻きにされていると言うか…」

「え?」

「なんでもないわ」


私達はしばらく話をすると、教室に戻った。


〇〇〇


家に帰ると、第一王子が話しかけてきた。


「ジュリ、ちょっといい?」

「なんですか?」

「そんな迷惑そうな顔しないでよ!僕は君の兄貴だよ!」


そうなのだ。あの公爵令嬢の婚約者は、私の兄なのだ。

まぁまずくない顔だが、それほどではない。それなのに何故か自信満々な王子様だ。

名前はアロンと言う。


「なぁ、最近リリアナって可愛い子が入学してきたんだけど、知ってる?」

「知りません」

「嘘つけ!お前と話してるところ、何度か見たぞ!」

「それならそう言えばいいじゃないですか…」

「ちょっと、デートする機会を作ってくれよ」

「嫌です。この前、別の女性と遊んでたでしょう。あっちはもういいんですか?」

「いいの!もう飽きたし!次だよ次!リリアナ嬢!」

「最低。というか、婚約者と仲良くすればいいんじゃない?」

「えー。どうせ結婚するんだし、今は別にいいわ」

「死ね。この女の敵」

「兄貴にひどい言い草!!」


このアロンというのはとても気移りが激しいのだ。これまでの女性遍歴はもう数えきれない。もともと覚えるつもりもないのだけれど。

割と雰囲気イケメンで、肩書が王子だから入れ食い状態なのだ。卒業するまでに百人斬りすると豪語している最低男である。


まったくあの公爵令嬢もこんな男のどこがいいのだろう。彼女との婚約はつい先日決まったばかりだが、彼女は早々に自慢していたので嬉しかったようだ。

だから、ああして王子に近づく女たちを牽制しているのだろう。


適当にアロンをあしらうと、私は自室に向かった。アホの相手をしている暇はないのである。


〇〇〇


私は、放課後空き教室でぼんやり外を見ているのが好きだ。

今日もそうしていたら、誰か駆け込んできた。

息を乱した例の公爵令嬢だ。


また名前を忘れてしまった…………。


彼女は私を見ると、はっとして淑女の礼をした。


「し、失礼しました。ジュリ様がここにいるとは知らず…」

「別に、何かしてたわけじゃないわ」

「すぐ、出て行きますから」


顔を上げた彼女の顔は、化粧が崩れてひどいことになっていた。髪の巻きも取れている。


「ねぇ、ちょっと、あなた」

「はい?」

「化粧がすごいことになってるわよ」

「あっ!お見苦しいところを…」


慌てて隠そうとするが、しっかり見てしまった。化粧は全面的に崩れているので、これではお面が必要だ。仮にも公爵令嬢がそれでは可哀想だ。ちょうどいい具合に、私のカバンに化粧品が入っている。


「こっち来なさい」

「え」

「とって食いやしないわよ。その顔、直してあげる」

「も、申し訳ありません…」


おずおずと近づいてきた彼女の顔をまじまじと見ると、本当に化粧が厚い。


「…一回、全部落とすわよ」

「え!?う、それはちょっと」

「観念なさい!!」

「あぁっ、ジュリ様!?」


遠慮なくぐいぐいと落としていくと、思いのほか愛らしい顔が出てきた。

睫毛は自前でバサバサだし、肌も綺麗だ。いつもはむしろ汚くしていたと言ってもいい。


「…なあに、あなた、化粧しなくてもいいくらいじゃない」

「あー…えーと…」


バツの悪そうな顔をする彼女に、ピンときた。


「その化粧、わざとなの?もしかして、趣味の悪いその服装や、キツイ態度も?」

「お、お願いです!ジュリ様!このことは黙っててください!」

「えぇ?」

「わたくし、どうしても婚約解消したいんです!」


さすがに、これには私も驚いた。だって、皆に言いふらして喜んでいたではないか。


「あなた、兄上が好きなんじゃ…?」


私がぽかんと口を開けていると、彼女は心底嫌そうに顔を顰めた。


「…ジュリ様には申し訳ありませんが、アロン様は大変な女好き。しかもあちこちに節操なく手を出してはポイ捨てです。控えめに言って、最低野郎です。微塵も好意は持てません」

「あ、やっぱ。そういう噂、知ってたの」

「わたくしたちの情報網を侮らないでいただきたいですわ」

「わお」

「それに、大したお顔でもありませんのにナルシストですし」

「うん」

「百人斬りだなんて、まったく馬鹿げています」

「どこでそれ聞いたの」

「わたくしたちの情報網を…」

「OK。わかったわ」


目の前で憤慨する公爵令嬢の言い分を聞いて、なんとなく理解した。


「つまり、わざと嫌われようとしてたってわけ?」

「う。は、はい。だから、友人に協力してもらって嫌な令嬢を演じていたのです…リリアナ様には申し訳ないことをいたしました…」


あの背後に控える令嬢達は、威圧感を出すための協力者だったらしい。


「回りくどいことせずに、直接兄上に言えばいいのに」

「…たまりかねて、この間、陛下に直談判しに行ったのですが」

「父上に!?」

「何故か、ますます息子の嫁に欲しいと気に入られてしまいまして。どうにかしてわたくしを次期王妃にすると言われてしまいました」

「あー…」


頼りないアロンにはしっかりした嫁が欲しいということなのだろう。


「当然、アロン様にも言いに行ったのですが…。まぁ、それが、ついさっきです」

「あぁ、そうなんだ」

「そうしたら、嫉妬しているのかと襲われそうになりまして」

「はい?」

「わざと婚約解消を言い出して気を引こうとしているのかと思われたようです」

「うちの愚兄が本当に申し訳なかったわ…。だからここに逃げ込んだのね?その、えーと、大丈夫だった?」

「股間に一発くれてやりましたから、留飲は下がりました」

「わお。やるわね」


つまり、アロンに襲われそうになりもみ合いになったので化粧が崩れたらしい。

だが、結構危なかったと思う。何しろ百人斬りは本気らしいから、機会があれば据え膳食っとけという感じなのだ。我が兄ながら、底抜けのアホだ。


私は目の前の公爵令嬢を見つめた。アホに恋する愚かな公爵令嬢だと思いきや、なかなか見る目のある面白いご令嬢だったらしい。


「えーと、ごめんなさいね。あなた、名前は…」

「……………わたくし、一応、ジュリ様のお兄様の婚約者なのですが…」

「興味がないと覚えられなくて」

「…………ヴィヴィアンですわ」

「よし。覚えた。あなたのこと、気に入ったわ」

「え?」

「その婚約破棄、一緒にやってあげます」

「ほ、本当ですか?」

「あのアホには、そろそろ引導を渡してやらないとね」

「一体どうやって…?」


にっこりとヴィヴィアンを見ると、きょとんとした愛らしい顔で私を見ていた。


いい。可愛いじゃない。これなら、十分だわ。


〇〇〇


別の日、私はリリアナと会っていた。

アロンとヴィヴィアンの婚約破棄と、とある目的のために協力を依頼したのだ。

一通りの計画を話して、リリアナに聞いてみた。


「私のお願い、聞いてくれる?」

「もちろんです!なんだか楽しそうですね!」

「あなたのそういうとこ、好きだわ…もちろん報酬は払うから」

「ありがとうございます!」


さて、これで作戦開始だ。


〇〇〇


数日後、家に戻るとアロンが楽しそうに話しかけてきた。


「ジュリ!リリアナに伝えてくれたんだな!」

「デートできましたか?」

「お、おう!もちろん!その日に最後までいってやったぜ!」

「さようですか」

「さんきゅ!これからも頼むよ!」

「死ね。女の敵」

「だから言い方!!」


私は部屋に戻るまで笑うのを必死にこらえた。

それからも、リリアナとアロンは何度か会っていたようだ。

計画は順調に進んでいる。


〇〇〇


学年末にはパーティーがある。

それぞれが着飾って、相手をつれて会場に訪れる。

相手は、婚約者がいれば婚約者を連れて行くのが普通。いない場合はどうにかして相手を調達しなければヒソヒソされてしまう。

アロンは、婚約者がいるにもかかわらず、相手にリリアナを選んだ。

ヴィヴィアンは、会場の控室で私が選んだドレスを着て目の前に座っている。髪の毛は緩やかに巻いたハーフアップだ。

彼女は完全に困惑しているようだ。


「あ、あの、一体これは」

「黙って、私に仕上げをさせてちょうだい」

「で、でも」

「うるさいわよ」


無駄に濃く仕上げていた化粧は全て落として、彼女の素顔を生かした化粧をする。

少し手を加えただけで、輝かんばかりの令嬢のできあがりだ。少々あどけないのは年齢のせいだ。これからどんどん美しくなるだろう。


「うーん。上出来!」

「ジュリ様…あの、わたくし、本当に一人で会場に行くのですか?」

「大丈夫。私に任せて」

「は、はい…」


ヴィヴィアンは不安そうに、それでも顔を上げて会場へ向かった。


私も、準備して向かうことにした。


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