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時と領域が錯綜する中で  作者: siKisAi
6/7

幕間1 領域

 ■■■

「………こいつは一体、どういうことだ…?」

「………」


 午後9時を指しかけた部屋に霊徒の少女が1人、呆然と立ち尽くしていた。

 その少女は全ての情報をシャットアウトし、主導権を握る争いに没頭している。


「どうなってんだおい!てめえ、話が違うじゃねえか!」

「ボクのせいにするな!」

「いや、貴様のせいだ」

「はあ!?発案者はお前だろ?」

「昨日の迫撃、主導権は貴様だったな?」

「それが?昨日の話はもう終わったじゃないか」

「その後、ここまで来たのは誰の足だ?」


 今夜、楸は遥香と共に叔母の家にいる。

 当然帰ってくるはずがない。が、そんなことは知る由もない。


「……ぐ…、ちっ……!回りくどいことしやがって…」

「だから言ったろうが、てめえがもたもたしてるからこんなことになるんだよ」

「そ、そんなこと知るかよ…まさか、9時に家にいないなんて聞いてないし…」

「そんなこと今さら通用するかよ」

「そもそも、『昨日は9時半に行ったから今日も同じ時間でいいだろ』なんて言ったのはどこの誰だ?」


 束の間、姫委綏の脳内が静寂に包まれる。


「……最もだな」

「うるせえ!誰だって普通はそう思うだろうが!」

「貴様らはワレの労力を無意にするのがそんなに楽しいか?」

「好きでこんなことやってられるか!」


 遥香の部屋のすみにはズタズタになった鏡が置かれている。

 鏡や水面など、何かを映すものは全て霊徒の領域(フィールド)に繋がっている。

 姫委綏の1人、威圧は少し考えると即座に代替案を出した。


「予定変更だ、ここ(この鏡)から直接リシェル(楸のところ)に行く」

「ここから?この鏡まだ使えるのか?」


 過激の思う通り、とてもではないが鏡であった、と言えるような様相ではない。


「ああ」

「楸は察しがいいから2度同じ手は通じねえってぐらい分かるよな?」

「楸だってワレらの特殊能力(オリジナルスキル)を忘れてるわけがないからな」


 特殊能力―――文字通り、霊徒が持つ特有の能力。

 姫委綏のそれは「目醒めているすべての霊徒の位置を把握できる」ものである。


「先に向こう側で待ってるってことだな?」

「ああ」

「ならアタシが取る、てめえさっさとそこ代わりやがれ」

「はあ!?待てよ!」


 出遅れまい、と勝ち気が割って入る。

 しかし、あいにくその余地はなかった。

 やはり、姫委綏の中で無能と判断されてしまえば、これ以上主導権を握って身体を運用することができなくなってしまうのだろう。

 かなり焦っている様子だった。

 だが、この作戦の成功は姫委綏の乏しい結束力に懸かっている。


「てめえは足手まといだ」


 過激はそう言って勝ち気を一蹴する。


「だが、貴様には少し荷が重いだろう、楸はプライド高いとはいえ、早々この手の挑発に乗るとは思えん」

「何が言いたい?」

「つまり、その適役はワレしかない」


 威圧の挑発なら可能性は低くはないことは他の2人にもわかっていた。


「………ならてめえがやれよ」

「賢くなったな」

「ほざけ」


 さらに念を押す以上に釘を刺しておくことを忘れない。


「言っておくが、決闘になったらすぐにアタシと変われよな」



 ■■■


 遥香の通う高校は図書室の蔵書量が都内有数であることが唯一の自慢だ。


 そのため校舎と独立して建てられており、図書室自体もかなり広い。


 厳密に言えば「室」というよりは「棟」と呼ぶべき規模であり、地下に書庫、1、2階が図書室となっている。


 しかし利用者数はあまり多くなく、生徒会や職員会議の場で度々、「他の公共施設に寄贈するべきだ」と言われているほどである。



 だが、その大規模な蔵書量に目をつけ、朝から晩まで読書に熱中する少女―――柚柑がいた。


 彼女はただただ本を読み続け、時折窓の外を見たかと思えばそれを書架に戻しに行き、また別の本を手に取るなりそれを読み始める、といったことを飽きもせずに延々と繰り返す。

 まさに「本の虫」という言葉は彼女のためにあると言っても過言ではないほどである。

 春休みの誰もいない日の深夜も、その少女は本とずっと会話していた。


「あら…?まさかこんなところに霊徒がいるなんてねえ……」

「………!?」

「ねえ……もしかして無視する気じゃないわよねえ?」

「………月珪樹げっけいじゅ……?」


 声だけが聞こえたかと思った途端、銀色の少女―――月珪樹が目の前に姿を表した。

 だが、柚柑は特に意にも介さない様子でそのまま本に目を戻す。


「……久しぶりね…何か用?」

「フフフフフ………相変わらずの虫ケラっぷりね、柚柑」

「…用がないなら、」


「別に用がない訳じゃないの、むしろとても大事な用があるけど」


「……何が?」


 月珪樹は書架の上に座り柚柑を見下ろして続けた。


「…楸の居場所を教えなさい?」


 そんなことだろう、と柚柑は思った。

 柚柑は楸がこの世界に来ていることは察しがついていたが、正確な居場所までは把握していない。


「フフ…別にわたしはあなたに少しの怨みもないし……無理やり吐かせるようなことはしたくないんだけど………」


「そんなこと、わたしには分かりかねるわね」

「そう………」


 月珪樹は金色の瞳でじっと柚柑を見つめると白い首を横に傾げる。


「本当になにも知らないのね……?」

「ええ」

「じゃあ、楸の他に霊徒は来てるでしょ?……誰?」

「知ってるくせに、何もわざわざ言わせることないでしょう?」

「フフフ……ごめんなさいね?」


 月珪樹はどこか冷たい目をしてこちらを見下ろす。

 まるで存在そのものが残忍酷薄、冷酷無慙であるかのように。

 仲が良かったときもあったが、今は柚柑にとって極力関わりたくない。


「……用が済んだなら帰って」

「フフフフフフ……ありがと、柚柑」


 少女は銀の髪を靡かせ、夜の闇に消え去っていった。

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