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時と領域が錯綜する中で  作者: siKisAi
5/7

005 家は洋風、食は和風

「……絃…理…?………!?、絃理!?」


 2ヶ月ぶりに会った叔母―――夕香の顔はまさに「死人に会ったような顔」そのものだった。


「叔母さん、わたしだよ」

「……え?」

「わたしは遥香、お姉ちゃんは…とっくに」

「遥香…?なんで?だって遥香はあなたの右に…」


 夕香は遥香の右の楸を指差している。


「この娘は…その……」

「第2世代の第5フィールドの主、楸」

「楸……?」

「ちょっと楸?」

「ほら、よく顔を見て…あなたの娘はそこの遥香よ」

「………」

「叔母さん、とりあえず中…入ろ?」



 ■■■

 夕香の家の外装は普通の家とは対して変わらず、見事に住宅地に溶け込んでいる。

 しかし、内装は想像をはるかに越える景色が広がっている。

 珍しいもの好きの夕香はヨーロッパの骨董品収集が趣味であることもあり、家中の至る部分が西欧化している。

 リビングにはちょっとしたシャンデリアが下がっていたり、綺麗な絨毯が敷かれていたり、階段をわざわざ螺旋状にしたりと、外見とは違って中はまるで芸能人の別荘のようになっている。


「まるで美術館ね」


 とは言うものの、楸は全く意に返していない。

 ヨーロッパは経験済みの彼女は唯一驚かなかった訪問者だ。

 夕香もやっと落ち着いてきたらしく、紅茶と簡単なお茶菓子を出してくれた。


「最初はびっくりしたけど…よく見ると全然違うわね、あなた」

「盛大に人違いをしておいて、なかなか失礼ね」

「ああ、ごめんなさいね…その制服、遥香が中学校のときのよね」

「うん…普段の格好が普通じゃないから貸してあげたの」

「どこがおかしいのよ、あれが普通なの」


 夕香は先程から頻りに楸と遥香の顔を交互にみていた。


「楸って言ってたわね……?」

「そう、わたしは第2世代の第5フィールドの主、楸」

「フィー……ルド………?ただの人間とは違う…の?」

「ええ、要は生きる世界が違うだけよ」


 夕香への説明は簡単なはずがない。


「不思議な娘ね…そんなこともあるのね……」

「叔母さん、味噌汁もう一杯、お願い」

「はいはい、楸ちゃんもおかわりいかが?」

「じゃあお願い」


 いつもより少し遅い夕食は内装に似合わず純和食だ。


「はい、楸ちゃん……どう?美味しい?」


 夕香は楸をとても気に入ったらしく、娘が増えたと喜んでいるようだった。

 当の楸はどうなのかは知らないが、嫌いではなさそうだ。

 ……と、2人を見ながら遥香は箸を進ませる。


「あ、叔母さん実は…」


 1ついい忘れていたことがあった。


「実は友達と遊びに行くって言ってたあれ……嘘」

「分かるわ、楸ちゃんと出かけてたんでしょ?」

「うん……まあ、そんなところ」

「どこに行ってきた?」

「適当に駅前ふらついてた」

「危なくなかった?大丈夫?」

「大丈夫だけど……」

「駅はどんな人がいるか分からないのよ?」

「うん、気をつける……」

「……悪くはないところだった」


 楸は静かにそう言った。

 過保護であることは想定の内だからとは言えども、内心呆れてるんだろうか。


「初めて来たところだったけれど、とても退屈しなかった。わたしの知らないこともたくさんあったし」

「でも駅は危ないのよ?」

「…まあ、用心する必要はあるわね」


 そして、ふと遠くの方を見つめてこう続けた。


「そう、駅に限らず…ね」


 ほんの安らぎも束の間、不穏な影はあらゆるところに影を落としていた。



 ■■■

 街の雑踏、忙しなく入り乱れるカラスの群れ、血の気が退くように暗くなる夕空、6時を報せる大学時計塔の鐘………

 その当たり前の日常でさえも味わうことの許されない、世界から拒絶、隔離された少女(霊徒)にはそのすべてが新鮮であること。

 そんなことは、世界に受け入れられた群れには知る由もない。

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