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Ain Soph Aur ― アイン・ソフ・オウル ― 【プロット・企画書】  作者: 昭丸
第一楽章 エルドの予言詩
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Op.7 演劇

 アルテシア王国の王城前広場に、数えきれないほどの人々が参集していた。

 王城から張り出した演台で車椅子に腰を預けていたカムラが、それら人々に向けて女神マルクトを紹介すると告げた。

 カムラの言葉に促されたミコトは、宝飾に彩られた祭服の裾を引きずりながら、緊張した面持ちで演台に進み出る。

 最中。

鋼殻竜(パンツァー)だ!」という突発的な叫び声と共に、両手に鉤爪を備えた《《二足歩行》》の巨大な怪物が、城壁を乗り越えて広場へと乱入して来た。

 驚いて逃げ惑う人々を避けながら、シタンの乗る樹械兵(ドライアード)――サージェントプラナスが、怪物――鋼殻竜(パンツァー)の前に立ち塞がった。

 横薙ぎに銃剣の刃を振るうサージェントプラナス。しかし鋼殻竜(パンツァー)は、その斬撃を跳躍してかわし、真っ直ぐ演台へと向かって来る。

 対して演台の縁に進み出たミコトは、泰然を装いながら、手に持った杖を鋼殻竜(パンツァー)に向けて仰々しく掲げた。

 同時。

 鋼殻竜(パンツァー)が全身から花火のような炎を弾けさせ、地響きを立ててその場に倒れ伏した。

 暫しの静寂の後、一連の事態を目にした人々から、女神を讃える割れんばかりの歓声が上がった。


          ◆


 石造りの格納庫で、二樹の樹械兵(ドライアード)が壁際に並んで片膝をついている。

 一樹はシタンの乗樹であるサージェントプラナス、もう一樹は鋼殻竜(パンツァー)の外骨格が半ば取り外されたアルテシア王国の主力樹械兵(ドライアード)――ゼルコバである。

 樹械兵(ドライアード)とは、ユグドラシルにおいて陸戦の中核としての地位を確固なものとしている巨大な人の形をした兵器――植物性拡張肢体の俗称である。およそ一万二千年前に栄えたとされるアース文明の遺産であり、ユグドラシルの各地で種子もしくは成体の状態で発掘される。種子の状態で発掘されたものは、高強度の紫外線を照射することによって活性化し、その後は樹木と同様の方法で育てられる。成育速度は非常に速く、一か月から三か月ほどで十五メートルを超える巨大な人の形をした成体となる。

 細長い板材が複雑に組み合わさったような独特で優美なフレーム構造を持ち、そのフレームを稼動させるエネルギーとして、光合成によって生成された水素が用いられる。損傷については自己修復されるが、窒素化合物などを効率的に取り込むためにフレームの一部を土中に埋めなければならない。

 背中には三つの瘤状の突起が水平に並んでおり、中央に水と水素を、左右に帆葉(ソリウム)と呼ばれる光合成の機能を有した葉が格納されている。帆葉(ソリウム)は脆く、展開した状態での稼動は損傷のリスクを伴う。加えて水素を満充填にしてからの連続稼働時間は十時間程度であるため、定期的に休止させて帆葉(ソリウム)を展開しなければならない。ちなみに帆葉(ソリウム)は、広げると翼のようにも見えるが、樹械兵(ドライアード)を滑空させるほどの強度はない。

 胸部には、全天周型ディスプレイを備えたコックピットがある。コックピットは、ハッチの解放時を除いて粘性の高い樹液の中に浮かんだ状態にあり、搭乗者に伝わる振動や衝撃の緩和を実現している。また搭乗者の体内における電位の変化をモニタリングし、それをフレームに反映させることによって、直感的で遅延の少ない操縦を可能にしている。

 発掘される樹械兵(ドライアード)の種類は、地域によって大きな偏りがある。よって、発掘量の多い樹械兵(ドライアード)が、必然的にその地域に存在する国家の主力樹械兵(ドライアード)となる。また、発掘量が極めて少ない樹械兵(ドライアード)は希少種と呼ばれ、シタンが愛用しているサージェントプラナスのように、指揮官専用樹として運用されるケースが多い。

「詐欺です……詐欺行為に荷担してしまいました……」

 恥ずかしさと罪悪感に苛まれながら、ミコトは二樹の樹械兵(ドライアード)の前で頭を抱えていた。王城前の広場で繰り広げられた偽物の鋼殻竜(パンツァー)の撃退劇は、女神の降臨を宣伝するためにカムラが中心となって仕組んだマッチポンプだった。

 見事な演技だったと賞賛するカムラに対し、ミコトは人々を欺くような真似をしてしまって大丈夫なのかと問い質した。そんなミコトに対し、カムラはアルテシア王国が置かれている状況を語る。

 各地で発掘されるアース文明の遺物が、ユグドラシルにおける科学技術の発展に大きく寄与していること。隣国のシュタール連邦共和国が、アース文明の大規模遺跡を多数抱えるアルテシア王国の実効支配を、長年に渡って画策していること。そしてシュタール連邦共和国によるアルテシア王国の実効支配を受け入れた場合、シュタール連邦共和国の大幅な軍事力の強化を危惧する第三国の介入によって、アルテシア王国全土は戦場になるだろうこと。

「先日の評議会でも現状を打開する妙案は、残念ながら形にならなかった。そこに現れたのが、君というわけだ。無論、君が本物の女神でないのであれば、時間稼ぎにしかならないだろう。しかし、その時間稼ぎにすら縋らなければならないのが、今の我々だ」

 カムラが言葉を切ると同時に、シタンが切迫した様子で駆け込んで来る。

「兄上! シュタールが!」


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