Op.58 聖樹士の名に賭けて
白いベールに包まれた視界が、少しずつ鮮明なものへと変わっていく。
夜空。
星。
それらが天蓋に描かれたものであることを認識したところで、ミコトは覚醒した。
「ここは……」
やわらかな感触が全身を優しく包みこんでいる。どうやら、ベッドの上に寝かされているようだった。
ミコトは、仰向けのまま首を巡らせた。
すると、ベッドの端に顔を伏せながら静かな寝息を立てている、シタンの姿が目に入った。
ミコトは手を伸ばして、シタンの髪を優しく撫でた。
「ん……」
瞼をゆっくりと開けたシタンが、ミコトを視界に入れた。
途端、表情をくしゃりと歪めて抱きついてきた。
「! ……ミコト……ミコト……っ!」
「シタンさん……心配をかけてしまってすみません」
「本当だ……私が怖がりなことは知っているだろう……」
言いながら、シタンは涙を拭った。
「シタンさん、会議の方は?」
「始まっている。今日で三日目だ」
「そんなに経っていたんですね……」
「残念ながら芳しい状況ではない。シュタールを始めとする大国が難色を示している。機構の運営には、経済状況に応じた負担を強いることになるからな」
「……手を取り合うことは、できないのでしょうか……」
「この会議に集まっている者は、それぞれが国を背負っている。自国の利権を蔑ろにはできないのだろう。気持ちだけでは、難しいのだ」
「でも、気持ちがなければ、何も始まりません」
「そうだ……その通りだ」
「僕も、会議に参加します」
「意識が戻ったばかりだ。起き上がることはもちろん、出歩いて良い状態ではない」
「そうですね……一人では歩けそうにありません……だから、シタンさん、僕を支えてくれませんか?」
「…………」
しばしの間、シタンは強い光を宿すミコトの瞳を見つめ、それから微かな苦笑を漏らす。
「……貴公は、いつの間にか……これでは、私が置いてけぼりを食いそうだ……」
シタンはミコトの手を握り、恭しく告げる。
「支えてみせよう。聖樹士の名に賭けて」




