Op.54 突き付けられた最後通牒
カムラの執務室を訪れたミコトとシタン。
執務室の中では、カムラとワイザムが険しい表情をして二人を待ち構えていた。
「シュタールを始めとする二十三の国家が、我が国に対して最後通牒を突き付けてきた」
カムラが口火を切った。
「最後通牒……? まさか、軍事行動に出ると言っているのですか?」
「条件付きだが、そのまさかだ……認めたくない事実だが、我が国は、未だかつて経験したことのない大きな戦争の渦に巻き込まれようとしている」
「しかし、何を理由に……?」
「アルテシア王国政府が自国民に対して古代兵器の実験を行い、多数の犠牲者を出した――それが武力の行使もいとわないという、彼らの大義名分だ」
「言いがかりも甚だしい……」
「全くです。しかし、当然の反応とも言えます。王都での先の戦闘は、すでに諸外国に知れ渡っています。無人樹械兵を自在に操る兵器を、アルテシアが手に入れた。そう、理解されていることでしょう。無人樹械兵は世界中に散在しています。諸外国からすれば、喉元に刃を突き付けられている気分にもなるでしょう」
ワイザムが言った。
「だからといって、戦争を仕掛けて良い理由にはならない……そういえば、先ほど条件付きと伺いましたが?」
「古代兵器、及び古代兵器のオペレーターの譲渡。それが、諸外国が矛を収める条件だ」
「つまり……ミコトとケテルを差し出せということですか?」
シタンの問いに、カムラは頷いた。
「回答期限は、明後日の午後七時。加えてシュタールは、人道支援を目的に派遣した樹械兵部隊を、我が国が件の古代兵器を用いて攻撃したとも主張しており、捕虜としているライド・ルクトール以下十名の身柄引き渡しも求めてきております」
「渡せるわけがない……!」
「無論だ。シュタールの捕虜たちに口封じがなされることは想像に難くない。ミコト殿にしても人道的な扱いを受ける保証はない。しかし、この国を戦火に晒す選択もできない」
四人は黙考した。暫くしてから、その静寂をカムラが破る。
「ミコト殿」
「はい」
「ミコト殿の世界にも、戦争はあったのかい?」
「沢山ありました。世界大戦と呼ばれるほどの、大きな戦争も」
「世界大戦……!」
ミコトを除いた三人が息を呑んだ。
「今は平和なのかい?」
「世界から戦争は無くなっていません。ただ、僕が住んでいた国は平和です。僕自身も戦争を経験したことはありません」
「そうか……」
カムラは腕組みをして考え込んだ後、再び口を開く。
「ミコト殿、君の世界が辿った歴史を、詳しく教えてもらえないだろうか? そこに、現状を打開する手がかりがあるかもしれない」
「……わかりました」
ミコトは頷いた。




