Op.49 サテライトストラテジー
ミコトの軽やかな指先の動きに合わせ、半透明のコンソールで波紋が踊った。
その姿はまるで、大気という楽器を奏でているようにも見えた。
セフィロトシステムの戦闘端末である無人樹械兵を起動させたミコトは、人工衛星を通じて地表の詳細な情報を取得し、陽動や挟撃など、様々な戦術を駆使して鋼殻兵を圧倒した。
しかし時を置かずに、鋼殻兵の第二波が飛来した。
その数は、第一波を遥かに上回っていた。
鈍色の津波が押し寄せるかのような蹂躙の前に、流石の無人樹械兵も、一体また一体と撃破されていく。
焦燥感と絶望感を募らせたミコトは、ワールドエレクトロンゲームズの初戦において、為す術なく敗退した時のことを思い出した。
「……ダメなんだ……やっぱり、僕は……」
声を震わせ、ミコトは俯いた。
その時、背後から両肩に暖かな手が置かれた。
「これからなんだろう?」
シタンの力強い声が、ミコトの耳朶を打った。
「貴公はできたんだ。前を向くことも、立ち上がることも、踏み出すことも。だから頑張れ。大丈夫……ミコトならできる!」
振り返るミコトの視線の先で、シタンが微笑んだ。
「……はいっ!」
ミコトは力強く頷き、再び空中に結像されたディスプレイを見据えた。
深呼吸を一つ。
それから、集中――ただひたすらに神経を研ぎ澄ませ、目の前の情報に意識を同化させた。
一流のアスリートのみが到達することを許される、ゾーンと呼ばれる極限の集中状態。
その場所に到達することに成功したミコトは、常人の目では追い切れないほどの操作量でキーボードを叩き、マウスを動かした。
自身の限界を超えたミコトのオペレーションによって、無人樹械兵たちは一つの生き物のように連携し、鋼殻兵の各個撃破を着実に積み重ねる。
そして、ほとんどの鋼殻兵が撃破された、その時だった。
突然、アルテシア王国の空が陰った。




