Op.44 事象定義通信
『なるほど……彼女が、そうだったのか』
ミコトを視界に入れたライドは、アルテシア王国の王城で見かけた人影や、ベリンダにおけるアルテシア王国軍の宿舎での出会い、そしてこの場に現れた状況から推察し、ミコトこそが女神であると悟った。
一方、ミコトはクリファの拘束を解いた。
「どうしてクリファを解放する?」
クリファは問うた。
「人質を取るのは良くないことですから」
ミコトは答え、クリファをライドたちの方へと歩かせた。
対して、クリファを取り戻したライドは、ミコトを殺害しようとティリアウルガリスを動かした。
それを防ごうと、シタンがサージェントプラナスを無理矢理に立ち上がらせるが、ヘレンが操るクエルクスロブルによって右腕と左足を破壊されてしまう。
『なぜだ? なぜミコトを……女神を殺そうとする? シュタール政府の命令なのか?』
左腕のみで匍匐し、なおもティリアウルガリスにすがりつこうとするサージェントプラナスを見下ろし、ライドが自らの目的を語る。
『シュタールは関係ない。同胞が、セバルの民が虐げられない国を創りたい。そのためには、国家の認定と不可侵を実現するだけの力が必要なのだ。絶対的な力が。そして我々は、その絶対的な力を手に入れた。しかし、エルドの予言詩に謳われる女神が現れた。抗われては困る』
『……ならば、どうしてアルテシアに災厄をもたらす!?』
『女神を狙う理由と同じだ。アルテシアは、ネストを始めとするアース文明の遺跡の宝庫。この国を押さえることで、クリフォトシステムに対抗し得る存在の発現を、限りなくゼロに近づけることができる』
『そんなことのために、ベリンダも……』
『歴史の中で、数百万という同胞が無残に命を絶たれてきたのだ。綺麗事だけでは、何も成し得ない。それが世界の現実だ』
『貴公は、犠牲を強いる現実を憂いたのだろう。その貴公が、手を汚さなければならない現実を肯定してどうする!』
『肯定などしていない。この身に刻まれた経験から、理解しているだけだ……そう、現実は残酷だ。暴力を行使し、恐怖に訴えることでしか、世界を変えることはできんのだ!』
ティリアウルガリスが、ミコトに向かって拳を振り下ろした。
しかし、拳の先端がミコトに届く直前、ティリアウルガリスは動きを止めた。
周囲のクエルクスロブルも同じく動きを止めており、その異変に気づいたヘレンが声を上げる。
『樹械兵の動きが……!?』
『全周波数帯で妨害している筈……樹械兵を操る女神の力は、電波によるものではないのか?』
ライドの疑問に対し、セフィラがケテルを介してミコトの隣に自身の姿を結像させる。
『電波を使用した通信は、バックアップ用です。事象の地平面を介する事象定義通信を妨害することはできません』
セフィラが解説する中、銃剣を携えたアルテシア王国陸軍の歩兵が、ライドたちの乗る樹械兵を取り囲んだ。
「皆さんの樹械兵は掌握しました。投降してください。話し合えば、別の道も見つけられるはずです」
『希望的観測に相乗りできるほど、青くはない。それに優位に駒を進めたつもりなのだろうが、何か忘れてはいないか?』
ミコトの呼びかけに不敵に応えたライドが、背後に座るクリファを顧みる。
『クリファ、鋼殻兵はまだ出せるな?』
『…………』
『クリファ、どうした?』
『……おかしい……さっきから、ディアボロスが感じられない』
青ざめながら、クリファは答えた。




