Op.21 鋼殻竜
シタンは言葉を切り、気恥ずかしそうに自らの頬をかいた。
「その後、私は兄上に縋りついて大泣きした。兄上の誇らしげな笑顔を見ていたら、色々なものが溶けていく気がしてな。人目があることを忘れてわんわんと泣いた。泣いている間、兄上は飽きることなく私の頭を撫でていてくれた。それがまた心地良くてな。次は慰めてもらうのではなく、良くやったと誉めてもらいながら頭を撫でてもらおうと、意を決していた」
「それが、不純な目的ですか?」
「そうだ。しかし、思えば不思議なものだ。私のような者が、聖樹士として大勢の部下を率いるばかりか、まつりごとにも参画しているのだからな。自他共に認める馬鹿王女だった昔からは想像もつかない。学問が嫌いで、遊んでばかりだったというのに」
シタンはクスクスと笑う。
「結局のところ、心の持ちようで決まるのだろうな。自らの形というものは。もっとも私の場合は、後ろ向きだったり、不純だったりと、褒められるものではなかったかもしれないが……」
シタンが独白した直後、ネストの方角から赤色の発煙弾が上空に向かって放たれた。救難要請を意味するそれに素早く反応したシタンが、防壁外の監視用に設置されていた望遠鏡を覗く。
「鋼殻竜……追われているのか……?」
疾走するガソリン自動車と、その後を追う複数の鋼殻竜を確認したシタンが呟いた。
ミコトもケテルを起動し、垂直に立ち上がる煙の根元を空中に拡大表示させる。
「あれが……鋼殻竜……」
国際リニアコライダーにおいて襲われた怪物の姿が思い出され、ミコトは身震いした。
「ミコト、ダメ元だが、あれも操れたりはしないか?」
「え? あ、はい、やってみます」
シタンの問いかけに頷き、ミコトは樹械兵を遠隔操作する時のように、拡大表示された鋼殻竜の一体に指先で触れた。しかし、鋼殻竜からメニューウィンドウはポップアップせず、赤色に縁取られることもなかった。
「……ダメみたいです。すみません」
「謝る必要はない」
言いながら、シタンは防壁の昇降階段へと踵を返した。
「出撃する。ミコトは念のため、宿舎の方に避難していてくれ」




