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Op.20 シタンの記憶

 幼い頃、周囲が手を焼くほど活発だったシタンは、よく樹械兵(ドライアード)に登って遊んでいた。しかしある日、足を滑らせて落下したところをカムラに助けられた。カムラはその際、脊髄を損傷し、二度と歩けない身体になってしまった。シタンは悔やみ、それからは公私においてカムラの支えとなれるよう、悲壮なほどに勤勉かつ生真面目な少女となった。しかしカムラはそれを快く思わず、やがてシタンを遠ざけるようになった。

 先王である父親が肺病を患って急逝し、若くしてアルテシア王国の王位を継承したカムラは、シタンにシュタール連邦共和国への留学を命じた。将来、シタンが王族以外の生き方を選択した際、その助けとなるだろう経済学を学ばせるための措置だったが、あろうことか当のシタンはカムラに内緒で樹士学校へと入学してしまう。

 樹士学校に入学したシタンは、勉強に励むと共に、シュタール連邦共和国の首都で発生したクーデターを単樹で鎮圧するなど、数々の武勇伝を創り上げながら首席で卒業するに至った。

 アルテシア王国に帰還したシタンは、シュタール連邦共和国への留学時における功績が高く評価され、特例として聖樹士の称号を授与された。

「参った。降参だ」

 聖樹士の授与式において、カムラは苦笑しながら両手を挙げる。

「我が国において聖樹士にある者は、樹士団長と王立評議会議員を兼ねることが定められている。軍事、政治の両面を担う立場であることから、実質的に王の補佐役となる。これからは私の右腕として、国事に尽力して欲しい」

「はっ」

「ただし、一つだけ言っておく」

 声音を柔らかくして、カムラは続けて告げる。

「昔のことは、もう気にするな。私は、お前を助けられた自分を誇りに思っている。お前が気に病んだままだと、その誇りが褪せてしまう」

 カムラは自分の足をポンと叩いた。

「私にとって、これは人生最高の勲章なのだからな」


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