Op.18 求婚
宿舎に戻ったミコトは、一階に備えられた厨房を借り、手早くオムライスを作った。
食堂のテーブルに置かれたオムライスのふわとろ感を目の当たりにして、クリファが喉を鳴らす。
「おぉ……」
「どうぞ、冷めない内に召し上がれ」
ミコトに促され、クリファは早速、オムライスをスプーンで口に運んだ。
「……!」
クリファは、花が開くように、ぱあっと表情を綻ばせた。その後、一気呵成にオムライスを食べきってしまう。
「美味しかった。こんな美味しいものは、初めて食べた」
「お粗末様です」
微笑むミコトへと、クリファが唐突に詰め寄る。
「結婚しよう」
「はひ!?」
「料理が上手い人と結婚したら、毎日、美味しいものが食べ放題。ライドが教えてくれた。だから結婚しよう」
「えっと、でも、僕はこんな格好をしていますが、実は男で……って、あれ、普通か」
女装に慣れてきたせいで自らの性別を勘違いしていたことに、ミコトは若干の危機感を抱いた。
その時。
「クリファ、やっと見つけた」
樹士の一人に案内されて、褐色の肌を持つ壮年の男が食堂に入って来た。
「探したぞ。急にいなくなるから」
「ライド」
壮年の男を見やり、クリファが言った。
「仕込みは済ませた。巻き込まれない内に、この町を離れるぞ」
「巻き込まれる……?」
ライドと呼ばれた壮年の男の妙な言葉に、ミコトは首を傾げた。それに反応したライドが、ミコトへと向き直る。
「すまない。面倒をかけた。こいつは食べ物のことしか考えていなくてな」
「そんなことはない。食べ物以外のことも考えている」
「例えば?」
ライドの問いに、クリファは暫し考え込んでから答える。
「ミルク」
「……まあ、こんな奴なんだ。許してやってくれ」
「いえ……」
「さあ、行くぞ」
クリファは、ライドに連れられて食堂を後にした。




