Op.9 古の星冠
国境を越えたシュタール連邦共和国軍が王都ミストルティンに迫る中、ミコトはカムラの命を受けたシタンに連れられ、王城の地下に隠されたアース文明の遺跡へと赴いた。
遺跡の最奥に位置する広間に足を踏み入れたミコトは、その広間の中央に冠のようなものが保管されているのを目にした。
ケテルと呼ばれるその冠は、エルドの予言詩に記された「星冠」だと伝えられているが、使用方法を始めとした一切が不明であると、シタンは語る。
「アース文明の技術に精通した幾人もの技師たちが、長年に渡って綿密な調査を実施したのだがな……」
呟きながら、シタンがケテルの下部にあるスイッチのような部分を押し込んだ。すると、ケテル近くの空中に半透明の長方形が結像し、その長方形に重なるように幾つもの文字が並ぶ。
「この状態で停止してしまうのだ。何かしらが必要なのだろうが……皆目、見当がつかない」
シタンの話を聞きながら、ミコトはケテルの表示がPCにおけるBIOSの起動画面に似ていることに気づく。
「これ……もしかしたら、OSがインストールされていないのかもしれません」
「おーえす? いんすとーる? なんだそれは?」
「オペレーティングシステムの略称です。ハードウェアのインターフェースをアプリケーションに提供するソフトウェアのことです。ケテルのようなものが他に発掘されていないのであれば、おそらく汎用機器である可能性は低いでしょうから、アプリケーションもOSとセットになっているかもしれませんけど……」
「む……あ……何を言っているのかよくわからないが……とにかく、そのおーえすというものがあれば良いのだな」
シタンの言葉にミコトは頷くと、ケテルの表面をつぶさに観察した。そして目当てのくぼみを発見すると、シタンからペンと紙片をもらい、頂点の一つにスリットが入った三角形を描く。
「こういった形の記録媒体が、どこかにあるはずなんですが……」
「ふむ……私の記憶にはないな……兄上なら何か知っているかもしれないが……」
ミコトの問いかけに対し、シタンが遺跡の天井を振り仰いだ。




